経済学部では、教養部2回生から学部の講義の一部を受講することができた。学部講義は本学構内の法経本館で行われた。教養部と本学は道を挟んで向かい合わせており、2回生以降は教養部と本学を行き来しながら授業を受けることになった。
本学で経済原論、経済政策、経済史などの講義を受けてはみたものの、当時はマルクス経済学(マル経)が主流で、全く興味が持てずに心はさらに迷走した。一方で、近代経済学(近経)の金融論や証券経済論などは興味が持てたが、経営数学や計量経済学は結構難しかった。
自発的に読んだ専門書に「近代経済学」(新開陽一・新飯田宏・根岸隆著/有斐閣)や「国民所得理論」(宮沢健一著/筑摩書房)があるが、いずれも何とか読み終えたのは3回生になってからだった。なおこの2冊は今も手元にある。
1回生最初の頃は本学や教養部の生協の食堂で昼食をとることが多かったが、1回生の後半くらいから、大学近辺の喫茶店で食べることも多くなった。そんな中、何となく寛げたのが教養部の売店(生協)の2階にあった「虹」という喫茶だった。
今も思い出すのは、1回生の頃「虹」のテーブルに座りコーヒーを飲みながら煙草を吸っていると、見るからに年上の女子生徒が「ここ相席してもいいですか?」と声を掛けてきたことである。「どうぞ」と答えた。落ち着いた感じの髪の長い細身の美人だった。一見「メーテルと鉄郎」みたいな感じになった。
彼女はコーヒーを飲みながら何か読んでいた。「文学部の3回生くらいかなっ?」と思った。彼女は煙草を取り出すとマッチで火を付けた。当時はインテリの女性で煙草を吸う人が結構居た。火のついたマッチをアルミの灰皿に捨てると、煙草を燻らしてスゥーッと紫の煙を吐いた。モデルのように決まったポーズだった……が、灰皿の中ではある現象が発生していた。
マッチの火が灰皿の中の吸い殻などに燃え移りついに炎を上げた。彼女は慌てて、灰皿に向かってフーッと息を吹きかけた。火は確かに弱まったものの灰皿の灰がテーブル一面に舞い落ち悲惨な状況になった。また、当然にして我々二人の間にも気まずいムードが流れた。彼女は台拭きを持ってきてテーブルを綺麗にすると、そそくさと去っていった。「何かアクションができていたらなぁ ……?」などと今は思う。ほろ苦い青春の思い出である。
「虹」の話題をもう一つ。男子トイレ(和式・大)にある落書きがあった。王維の有名な漢詩「竹里館」の替え歌である。あまりに名作だったので用を足している間に覚えてしまった。過去のブログで紹介しているのでご参照いただきたい。
喫茶店と言えば、他にも吉田の「風媒館」や今出川通り沿いの「アラビカ」や「進々堂」。いずれもよく通ったところで思い出が多いが、今も残っているのは「進々堂」だけのようである。
百万遍の「学士堂」の店内