世界史は教科書を読み問題集を解くなど独学の習慣ができていたが、日本史については今一だった。それで5月くらいから午後の選択授業を受け始めた。
だが、この日本史の講師、少し妙だった。講義は週2回くらいだったが、非常に進み方が遅いのである。原始・古代から奈良時代が始まったころ、既に7月に入っていた。毎回一天皇の御代くらいしか進まない。今日は「斉明朝」のような感じだった。また内容があまりに専門的だった。
これでは埒が明かないと思い受講をやめた。9月になった頃ちょっと講義を覗いてみると、なんと「大正政変」あたりをやっていた。登場人物が「中大兄皇子」から一気に「桂太郎」まで飛んでいた。
継続して受講していた生徒に聞くと、講義は一応、平安時代まで終わり、夏休み明け、鎌倉・南北朝・室町・戦国・安土桃山・江戸・明治時代を飛ばして、いきなり大正時代に入ったらしい。先生が言うには「試験で狙われやすい時代」だそうだが……。これで日本史は暗礁に乗り上げた。
また、京大の理科2科目目を何にするか?だが、当初は「化学」と思いチャート式を買って読み始めたものの……、遅々として進まなかった。どうも高校1年時のM先生の講義での苦手意識が強かったからのように思う。理科2科目目も暗礁に乗り上げた。
そんな懸案事項を他所に、予備校の夏休み(お盆時期に3日間くらい)前、全く別のことを考えていた。数学で妙なことに気が付いたからである。
それは三角関数の加法定理に関するもので、
cos (n+1) θ = cos nθ・cos θ - sin nθ・sin θ
sin (n+1) θ = sin nθ・cos θ + cos nθ・sin θ
なので、cos nθ = Xn, sin nθ = Ynと置くと、
Xn+1 = cos θ・Xn - sin θ・Yn
Yn+1 = cos θ・Yn + sin θ・Xn
となり、これは連立の漸化式となる。これを何処かでかじった「ケイリー・ハミルトンの定理(?)」を使って解けば、cos nθ, sin nθ が cos θ, sin θ で表せるのではないか?というものだった。
よく覚えていないが、自宅で2日間、朝から晩までこの数式と向かい合っていた。ここで妙な数式が出てきた。それは cos θ ± i sin θ という複素数であった。i は虚数単位である。当時の数学の新課程では複素数についてしっかり教わっておらず、三角関数の複素数など見たこともなかった。
最終結果は、非常に複雑な数式となった。まあ美しさに欠けるためたぶん計算間違いだろう……。とは思ったが、休み明けクラスの数学好きのKに話してみた。彼は私の仮説の内容を理解し「数学的帰納法で証明してみたらいいやん!」と言った。
さらに、恐る恐る同じクラスのIさんに話してみた。するとIさんは大学の教養部で使うような「線形代数」の参考書を私に見せ「こんな本に載ってるかも知れないよ!」とアドバイスしてくれた。
その後、この問題を引きずることは無かったが……、翌年の京大の数学で似たような思考を必要とする問題が出題された。
数学はともあれ、秋が深まっても、日本史、理科2科目目の問題は手つかずのまま木枯らしが吹く季節が迫っていた。