「鞦韆(しゅうせん)」=ブランコ | 流離の翻訳者 青春のノスタルジア

流離の翻訳者 青春のノスタルジア

福岡県立小倉西高校(第29期)⇒北九州予備校⇒京都大学経済学部1982年卒
大手損保・地銀などの勤務を経て2008年法務・金融分野の翻訳者デビュー(和文英訳・翻訳歴17年)
翻訳会社勤務(約10年)を経て現在も英語の気儘な翻訳の独り旅を継続中

今年もコロナ禍に伴う厳粛な春となったが「春宵一刻値千金」みたいなときめく感覚は忘れたくないものである。以下は以前書いたエッセーを少し改訂したものである。

 

「ブランコ」の語源は、一説にポルトガル語のblanço(英語のbalanceの意味)またはblanco(白色の意味)といわれているが、もともとは中国から伝わったもののようで古くは「鞦韆(しゅうせん)(秋千)」と呼ばれる。「鞦韆」は春の季語で、漢字の「鞦」は「牛や馬の尾に掛けてぐっと引き締める革紐」、「韆」は「前に後ろに遷ること」(漢字源)を意味する。

 

一昔前までは殆どの公園に設置されていたブランコだが、近年、老朽化や事故防止を理由に撤去されつつあり、子供たちがブランコに乗って遊ぶ姿もあまり見かけなくなった。また、古来「値千金」とまで云われたブランコに揺られる長閑(のどか)な春の夕暮れも、今は花粉やPM2.5Particulate Matter 2.5)の影響で何処かへ消え去ってしまった。

 

「春夜」                       蘇軾(そしょく)

 

春宵一刻値千金              春宵(しゅんしょう)一刻(いっこく) (あたい)千金(せんきん)

花有淸香月有陰              花に清香(せいこう)有り 月に(かげ)有り

歌管樓臺聲細細              歌管(かかん)楼台(ろうだい) 声細細(さいさい)

鞦韆院落夜沈沈              鞦韆(しゅうせん)院落(いんらく) 夜沈沈(ちんちん)

 

(拙現代語訳)

春の宵のひと時は千金に値するほど素晴らしい。花は清らかに香り、月の光が朧に霞んで見える。

楼台から聞こえていた歌声や管弦の音は次第に静まってゆき、ブランコが揺れる中庭に春の夜が沈々と更けてゆく。

 

A moment on a spring evening is worth a thousand pieces of gold.

「春宵一刻値千金」