季節は6月に入り、今週は湿度も低く爽やかな夏日が続いた。来週には梅雨入りするだろう。
翻訳者・通訳者を必要に応じて随時募集しているが、在野に眠る優秀な人材はまだまだ多い。もちろん自陣(塞)に迎えた人材は、訓練して本物の戦力に育て上げなければならない。
予想した以上に力を発揮してくれる人、そうでない人、様々な事情で何処かへ去ってゆく人。このように塞を行き交う人々の中にいつか私の後を任せられる人も現れるだろう。
思えば梅雨時にはあまり良い思い出が無い。親友が命を絶ってもう35年になる。以下は彼の愛読書からの引用である。
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旅に出よう
テントとシュラフの入ったザックをしょい
ポケットには一箱の煙草と笛をもち
旅に出よう
出発の日は雨が良い
霧のようにやわらかい春の雨の日がよい
萌え出でた若芽がしっとりとぬれながら・・・・・
そして富士の山にあるという
原始林の中にゆこう
ゆっくりとあせることなく
大きな杉の古木にきたら
一層暗いその根本に腰をおろして休もう
そして独占の機械工場で作られた一箱の煙草を取り出して
暗い古樹の下で一本の煙草を喫おう
近代社会の臭いのする その煙を
古木よ おまえは何と感じるか
原始林の中にあるという湖をさがそう
そしてその岸辺にたたずんで
一本の煙草を喫おう
煙をすべて吐き出して
ザックのかたわらで静かに休もう
原始林の暗やみが包みこむ頃になったら
湖に小船をうかべよう
衣服を脱ぎすて
すべらかな肌をやみにつつみ
左手に笛をもって
湖の水面を暗やみの中に漂いながら
笛をふこう
小船の幽かなるうつろいのさざめきの中
中天より涼風を肌に流させながら
静かに眠ろう
そしてただ笛を深い湖底に沈ませよう
(高野悦子著「二十歳の原点」より)
・・・・
彼はこの静謐な一節に自らの人生を擬えようとしていたのか?真相は謎のままである。