「短歌行」 曹操 | 流離の翻訳者 果てしなき旅路

流離の翻訳者 果てしなき旅路

福岡県立小倉西高校(第29期)⇒北九州予備校⇒京都大学経済学部1982年卒
大手損保・地銀などの勤務を経て2008年法務・金融分野の翻訳者デビュー(和文英訳・翻訳歴16年)
翻訳会社勤務(約10年)を経て現在も英語の気儘な翻訳の独り旅を継続中

忙しい日々が続き、休日も出勤することが多くなった。そんな中、ある翻訳者の方の訃報を受けた。昨年の今頃は一緒に仕事をしていたのが嘘のようである。ご冥福をお祈りしたい。

 

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煙草を止めて早5年、アルコールを止めて3年が経つ。もう全く喫煙欲も飲酒欲も無くなったが、時々飲んで騒いでいた頃を懐かしく思い出す。確かに友人と飲んだ酒は楽しかった。

 

今思えば、私の周りには有能な人材が多かった。

 

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「短歌行」         曹操

 

對酒當歌         酒に対して当(まさ)に歌ふべし

人生幾何         人生幾何(いくばく)ぞ

譬如朝露         譬(たと)ゆるに朝露(ちょうろ)の如し

去日苦多         去る日は苦(はなは)だ多し

慨當以慷         慨して当に以て慷(こう)すべし

幽思難忘         幽思(ゆうし)忘れ難し

何以解憂         何を以てか憂ひを解かん

惟有杜康         惟(た)だ杜康(とこう)有るのみ

 

青青子衿         青青(せいせい)たる子が衿(えり)

悠悠我心         悠悠たる我が心

但爲君故         但だ君が為の故

沈吟至今         沈吟して今に至る

呦呦鹿鳴         呦呦(ゆうゆう)と鹿は鳴き

食野之苹         野の苹(よもぎ)を食らう

我有嘉賓         我に嘉賓(かひん)有らば

鼓瑟吹笙         瑟(しつ)を鼓し笙(しょう)を吹かん

 

明明如月         明明たること月の如きも

何時可採         何れの時にか採るべき

憂從中來         憂ひは中より来たり

不可斷絶         断絶すべからず

越陌度阡         陌(はく)を越え阡(せん)を度り

枉用相存         枉(ま)げて用って相存(そうぞん)す

契闊談讌         契闊(けいかつ)談讌(だんえん)して

心念舊恩         心に旧恩を念う

 

月明星稀         月明らかに星稀に

烏鵲南飛         烏鵲(うじゃく)南に飛ぶ

繞樹三匝         樹を繞(めぐ)ること三匝(さんそう)

何枝可依         何れの枝にか依るべき

山不厭高         山は高きを厭(いと)はず

海不厭深         海は深きを厭(いと)はず

周公吐哺         周公は哺(ほ)を吐きて

天下歸心         天下心を帰したり

 

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(現代語訳)

酒を前にしては歌おうではないか。人生は短い、譬えれば朝露のようなものだ。月日はあっという間に過ぎてゆく。憤慨して怒りを晴らそうとしても、心の蟠(わだかま)りを消すことはできない。どうしたらこの憂いを解くことがきるだろうか。そのためには酒を飲むしかないのだ。

 

青い襟のある服を着た君よ。私の心は悠々と遥か遠くを見つめ、ただ私は君を待ちつつ、これまで思い悩んできた。鹿が呦呦(ゆうゆう)と鳴いて野の蓬(よもぎ)を食べるように、もし良き客があれば、私は瑟を奏で笙を吹いて客をもてなそう。

 

明るい月の光を手に掬い取ることができないように、有能な人材を味方に取り込むことは難しい。それを思えば、悲しみが心中から沸き起こり、断ち切ることができない。だが君は東西の道を越え、南北の道を渡り遠路遥々私に会いに来てくれた。さあ久しぶりに酒を酌み交わして、昔の誼(よしみ)を温め直そう。

 

月が明るく星が稀な夜、烏鵲(かささぎ)は南へ飛ぼうと、樹々の上を三度まわり、止まるべき枝を捜し求めている。山がどれだけ高かろうが、海がどれだけ深かろうが。昔、周公は口に含んだものを吐いてまで有能な人材をもてなした。天下の人々もその意気に感じたという。どうか私の許にも有能な人材が集まって欲しい。