翻訳の日本語原文を見ているとしばしば「変換ミス」と思われるものに遭遇する。例えば「仮説」と「仮設」や「発泡」と「発砲」などである。ぱっと見間違いに気付かないものが多いので注意を要する。
英語においても似たような状況が発生する。それはミススペルがチェックされてもエラーとならないケースで、例えば“complied”と“compiled”、“addictive”と“additive”、“stationary”と“stationery”…など挙げればきりがない。
翻訳者は言葉のプロの端くれと考えており、これからも職人として言葉の使い方には鋭意注意していこうと思う。
ところで・・・・。最初に「仮説」(“hypothesis”)という言葉を書いたが。旧ブログの中である「仮説」を展開したことを思い出した。もう5年ほど前のことである。
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ファーストフードやファミレスなどではしばしば「…は以上でよろしかったですか?」という奇妙なセンテンスが使われている。これが日本国文法上誤りであることを大分前にNHKで専門家が説明していた。
それはそれで理解できたが、私がブログに書いた「仮説」は何故こんな奇妙なセンテンスが生まれたかについてである。
私はこのセンテンスは生まれた原因を「英日(英語→日本語)の翻訳ミス」と推理した。その論拠は以下のとおりである。
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日本のファーストフードはアメリカから進出してきたものが多い。それらファーストフードの海外の本部には当然にして英文の「接客マニュアル」が存在した。
その「接客マニュアル」には日本語で書けば「顧客から注文を聞き終えたら、注文を復唱し『ご注文は以上でよろしいですか?』と顧客に確認すること」という規定が存在した。
この規定の『ご注文は以上でよろしいですか?』の英文は“Would that be all right with you?”と記載されていた。これはもちろん“Is that all right with you?”でよいのだが、顧客に対しての丁寧語の“would”が使われていた。
日本語の接客マニュアルを作成する際に、この“Would that be all right with you?”の“would”を過去形(?)と勘違いした翻訳者(または担当者)が『ご注文は以上でよろしかったですか?』と和訳した。
その訳文が校閲されることなく日本語の接客マニュアルが作成され、それに基づいて従業員、パート、アルバイトなどの教育が行われた。
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私がファーストフードを最初に利用したのが学生時代(たぶん「吉野家」?)だからもう30年以上も前のことである。
その後数知れないほどファーストフードやファミレスを使ってきたが「…は以上でよろしかったですか?」が使われ始めてから10年以上経つように思う。
仮説は仮説として・・・・・。現代の平成生まれの若者はこの奇妙なセンテンスに何の違和感も感じないのかも知れないが、自分なりの言葉に対する感性は失わないようにしたいと思っている。
Hypothesis:
A hypothesis is an idea which is suggested as a possible explanation for a particular situation or condition, but which has not yet been proved to be correct.
「仮説とは、特定の状況・状態について可能性のある説明として提議された見解であり、それが正しいことがまだ証明されていないものをいう。」