「燕歌行」 曹丕 | 流離の翻訳者 青春のノスタルジア

流離の翻訳者 青春のノスタルジア

福岡県立小倉西高校(第29期)⇒北九州予備校⇒京都大学経済学部1982年卒
大手損保・地銀などの勤務を経て2008年法務・金融分野の翻訳者デビュー(和文英訳・翻訳歴17年)
翻訳会社勤務(約10年)を経て現在も英語の気儘な翻訳の独り旅を継続中

日中は良い天気だが朝晩は冷えるようになった。布団を一枚追加したがそろそろ暖房が必要な時期なのかも知れない。

 

時々こんな季節がずっと続けば良いのにと思うが、日本は四季の変化があるからこそ美しいのである。

 

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「曹丕」(A.D.187226は三国志の英雄である「曹操」(A.D.155220の庶子であったが、最終的には彼の後継者として魏の初代皇帝となった。幼い頃から文武両道に長けた人だったらしい。

 

「燕歌行」            曹丕 

 

秋風蕭瑟天気涼        秋風蕭瑟(しょうひつ)として天気涼し

草木搖落露為霜        草木搖落して露霜となる

羣燕辭帰雁南翔        群燕辞し帰りて雁南に翔び

念君客遊思断腸        君が客遊を念えば思ひ腸(はらわた)を断つ

慊慊思帰戀故郷        慊慊(けんけん)として帰るを思ひ故郷を恋わん

君何淹留寄佗方        君何ぞ淹留(えんりゅう)して他方に寄るや

賤妾煢煢守空房        賤妾(せんしょう)煢々(けいけい)として空房を守り

憂来思君不敢忘        憂い来りて君を思い敢えて忘れず

不覚涙下霑衣裳        覚えず涙下りて衣裳を霑(うるお)すを

援琴鳴絃發清商        琴を援(ひ)き絃を鳴らして清商を発し

短歌微吟不能長        短歌微吟すれども長くすること能(あた)わず

明月皎皎照我牀        明月皎皎(こうこう)として我が牀(しょう)を照らし

星漢西流夜未央        星漢西に流れて夜未だ央(きわま)らず

牽牛織女遥相望        牽牛(けんぎゅう)織女遥かに相望む

爾獨何辜限河梁        爾(なんじ)独り何の辜(つみ)ありて河梁(かりょう)に限らる

 

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(現代語訳)

秋風が侘しく吹く涼しい季節となり、草木は葉を落とし露は霜となりました。

燕の群は去り、雁は南へと飛んで行きましたが、あなたが旅の憂いに沈んでいることを思うと腸(はらわた)が引き裂かれそうな気持ちになります。

心が満たされないまま、すぐにでも帰りたいと故郷を懐かしんでおられるのではありませんか。何故いつまでも異国に留まっておられるのでしょう。

私はあなたの留守の家を独りで守っていますが、あなたのことを片時も忘れることができず、知らず涙がこぼれて衣装を濡らします。

琴を弾き弦を鳴らし澄んだ音を出してみましたが、歌えば声が小さくなってしまい、とても長く歌うことはできません。

月光が煌々と私の寝床を照らし、天の川も西に傾きましたが夜の帳はまだ明けることはありません。

牽牛と織女は遥か天の川を隔てて向かい合っています。私達は一体何の罪があって、このように引き離されてしまったのでしょうか。

 

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詩の冒頭の部分は武帝の「秋風辞」を思わせるものだったが、これは遠征にある夫を思う妻(妾)の恋の歌である。牽牛織女の引用などスケールの大きさを感じさせる詩である。


流離の翻訳者 果てしない旅路はどこまでも-enkakou