その16(№6106.)から続く

「連載記事」と銘打ちながら、コンスタントなアップができないのは誠に心苦しいのですが、このままのペースだと今年中に終わらない危険性も出てきましたので、このあたりで続きをアップしたいと思います。

今回は「振子式ではない車体傾斜車両」、即ち「空気ばね車体傾斜車両」列伝。日本国内における、空気ばね車体傾斜装置を採用した車両の実例を見ていくことにします(試験車両を除く)。

1 JR在来線(カッコ内の数字は投入初年度の西暦、以下同じ)

【キハ201系(1996)】 車体傾斜角度:最大2度
日本の鉄道で初めて、空気ばねによる車体傾斜システムを実用化した車両。次項のキハ261系のプロトタイプとしての意味もあった。
函館本線の非電化区間と電化区間との直通運用を考慮し、731系電車と協調運転が可能になっている。
【キハ261系(2000)】 車体傾斜角度:最大2度
本格的に空気ばねによる車体傾斜システムを採用した車両。最初に登場した0番代は宗谷本線の高速化に貢献、後に増備された1000番代は「とかち」「北斗」「おおぞら」で運用されている。ただし同系の車体傾斜システムは、平成26(2014)年8月以降は使用停止の措置が取られ、平成27(2015)年度以降の増備車は、そもそもシステムを搭載せずに落成している。

【E353系(2015※)】 車体傾斜角度:最大1.5度
量産先行車が平成27(2015)年に登場、その2年後に量産車の投入を開始(※)。平成29(2017)年12月に営業運転が開始され、まずは老朽化が顕著となっていたE351系を置き換えた。その後はE257系使用列車にも投入されて同系を置き換え、現在では新宿発着の中央東線特急は一部の臨時列車を除きE353系に統一されている。
E353系は振子式ではないが、E351系と同等の走行性能を持つ。
※=量産先行車の投入年度

【8600系(2014)】 車体傾斜角度:最大2度
予讃線電化区間で使用されていた2000系気動車の置換え用。8000系と同等の到達時分を確保しつつメンテナンスコストの削減を狙い、空気ばね車体傾斜を採用。加速度の向上により、振子式ではないながらも、8000系使用列車と同等の運転時分を誇る。
【2600系(2017)】 車体傾斜角度:最大2度
前項同様2000系気動車の置換え用に製造された。当初は土讃線系統の置換えに供される計画だったのだが、空気ばねを制御するための圧縮空気の供給に難があり土讃線系統では使用できないことが判明、4両のみの投入にとどまっている。現在は高徳線系統の「うずしお」で使用中。

2 JR新幹線
【N700系(2005※)】 車体傾斜角度:最大1度
955形電車(300X)での試験の結果を踏まえ、新幹線車両で初めて車体傾斜システムを採用。狙いは新幹線では最も規格の低い東海道新幹線での最高速度・表定速度の向上。同系はR2500mのカーブを275km/hで、R3000m以上のカーブを285km/hで通過可能とし、東海道新幹線のスピードアップを可能とした。
その後、改良型の「N700A」、モデルチェンジ車の「N700S」が登場しているが、いずれも車体傾斜システムは引き続き採用されている。
なお、※は量産先行車(9000番代車)投入年度。量産車はその2年後から投入開始され、営業運転が開始されている。量産先行車は既に退役したが、700系以前の量産先行車とは異なり、退役まで営業運転に使用されることはなく、専ら試験用として使用された。

【E5・H5系(2011)】 車体傾斜角度:最大1.5度
東北新幹線での320km/hでの運転を可能にすべく製造された車両。同じ仕様でJR北海道が保有する車両としてH5系が平成28(2016)年に投入されている。

【E6系(2013)】 車体傾斜角度:最大1.5度
所謂「新在直通用車両(ミニ新幹線)」としては初めて車体傾斜システムを搭載した車両。秋田新幹線「こまち」の新幹線区間での320km/h運転を可能にした。
なお、当初はE3系使用列車と併存していたことから、E6系使用(新幹線区間ではE5系と併結)列車は「スーパーこまち」と称していた。後にE3系が放逐されE6系に統一された時点で全列車が「こまち」となり、「スーパーこまち」は消滅している。

3 大手私鉄
【名鉄1600系(1999)】 車体傾斜角度:不明
JR以外の大手私鉄としては初めて車体傾斜システムを採用した車両。ただし第1編成のみであり、試験的な意味合いが強かった。第1編成に搭載されたシステムも1700系への改造の際に撤去されたが、試験の結果は次項の2000系に生かされた。
【名鉄2000系(2005)】 車体傾斜角度:最大2度
愛称「ミュースカイ」。
新名古屋(現名鉄名古屋)-中部国際空港間30分での走行を目指し、曲線区間の多い常滑線での曲線通過速度を向上させるために車体傾斜システムを搭載した。
【小田急50000形(2005)】 車体傾斜角度:最大2度(編成両端の台車は1.8度)
連接車としては初めて車体傾斜システムを搭載した車両。この車両の特徴は、台車の空気ばねを高い位置に置き、自動高さ調整弁に車高を制御する機能を付加したこと。これにより適切な車体傾斜を実現している。ただし小田急ではこの機能をスピードアップには用いず、もっぱら乗り心地の向上に用いている。機構が他の空気ばね車体傾斜車両に比べても特殊なためメンテナンスコストが無視できなくなり、令和4(2022)年限りで定期運用を退いている。

以上が「振子式ではない車体傾斜車両」列伝です。
これら車両はイニシャルコスト・メンテナンスコストとも振子式車両に比べて低く、そのため鉄道事業者にとっては導入のハードルが低かったのですが、実はこの方式にも限界がありました。それが露呈したのが、前述したJR四国の2600系の使用実績だったのですが、次回はそのあたりのお話を。

 

その18(№6132.)に続く

 

【おことわり】(令和5年10月20日 15:35)

後で記事を並べ替える可能性があるため、アップの時点では当記事にはブログナンバーを振りません。
 

【追記】(令和5年11月16日 23:40)

当記事の投稿日はそのままとし、ブログナンバー6115を振ります。