その17(№6115.)から続く

何だかんだで2023年が終わってしまい、2024年も3か月が過ぎようとしており、年度末まで間近になってしまいました。
前回の記事のアップから実に5か月もの間が開いてしまいましたが、あと3回分、一気にアップいたします。
なお、予告編では全22回としておりますが、今回がJR四国2700系のお話、次回が381系の勢力縮小について、次々回を最終回といたします。予めご了承ください。

ご挨拶はそのくらいにしまして、本題に参りましょう。

前回「振子式ではない車体傾斜車両列伝」をお送りしましたが、その中でJR四国2600系を取り上げた際、空気ばねを制御するための圧縮空気の供給に難があり土讃線系統では使用できないことが判明、4両のみの投入にとどまってしまったことに言及いたしました。
実はこれは、空気ばねによる車体傾斜車両について回る限界であり、2600系はそれを白日の下に晒したということでもあります。
これはどういうことか。
空気ばねによる車体傾斜の場合、ばねに圧縮空気を送り込むことで車体の傾きをコントロールします。そして車体の傾きを適切にコントロールするためには、左右一対の空気ばね内部における空気の移動に頼ることは不可能であり、圧縮空気の送り込みに頼らざるを得ませんから、圧縮空気の供給が適切に行えることが絶対に必要となります。さらに、これが何よりも重要な問題なのですが、圧縮空気を適切に供給するためには、大容量のコンプレッサー及び空気タンクを搭載しなければなりません。
この問題は、電車ではそれほど顕在化しません。というのは、電車であれば外部から電源を得ることができるため、コンプレッサーを動かす電源も確保できますし、付随車も連結できるので機器の艤装スペースも確保できるからです(ただし重量の増加という問題は残る)。
これに対して気動車の場合は、編成全体で出力低下をもたらす付随車の連結は事実上「できない相談」ですから、全ての車両が走行用エンジンを搭載することになります。加えて、電車とは異なり外部から電源を得ることができないため自車で電源を用意せざるを得ず、コンプレッサーなどを稼働させるための発電装置を搭載する必要が出てきます。そうなると、ただでさえ限られる艤装スペースにさらにコンプレッサーとその電源装置、空気タンクなどを備える必要が出てきます。そして勿論、それら搭載機器の増加による重量増も。これは単位重量当たりの出力低下をもたらします。
したがって、気動車における空気ばねによる車体傾斜装置は、圧縮空気の供給量におのずから限界があるということになります。そうなると、土讃線のようなカーブの連続する路線では、空気ばねによる車体傾斜方式は不向きであり、やはり振子式で対応せざるを得ないということです。

そのような考慮に基づき、2600系の増備は僅か4両で終了し、2000系の置き換えは振子式に回帰した2700系によって行われることになりました。
2700系のスペックは以下のとおり。

① 車体は軽量ステンレス製でレーザー溶接を使用(2600系を踏襲)。
② 2000系と同様に制御付き自然振子を採用するが、車体傾斜は2000系量産車のコロ式から2000系試作車で採用したベアリングガイド式に変更。
③ 最大傾斜角度は2000系及び8000系と同じ5度(2600系より3度大きい)。
④ エンジンはコマツ製450PSのものを各車に2基搭載、最高運転速度は130km/h。
⑤ 内装は2600系を踏襲するが、優等車の需要に応えるためグリーン車(半室)を用意。

2700系は平成31(2019)年1月に量産先行車が2両登場、その後の量産車の登場に伴い、元号が令和と改まった同じ年の7月から高徳線の「うずしお」に投入された後、9月より土讃線系統の「南風」などに投入されました。2000系時代と同様、走行距離数調整のため乗り入れ先の土佐くろしお鉄道籍の車両も登場、こちらは車号を+30としてJR車と区別しています。
投入開始から2年経過した令和3(2021)年3月13日のダイヤ改正で、「南風」「しまんと」全列車と「あしずり」1往復が2700系での運転となり、岡山直通列車から2000系が放逐されました。2000系使用列車で好評を博した「アンパンマン列車」も2700系で継続されています。
ちなみに、2700系は振子式車両としては平成20(2008)年のJR九州885系増結用中間車以来11年ぶり、系列としては平成13(2001)年のJR西日本キハ187系以来実に18年ぶりとなります。
なお、土讃線系統での運用が見送られた2600系は、現在は高徳線系統の「うずしお」運用に従事しており、勿論4両とも健在です。ただし多客期には「いしづち」「しまんと」の四国島内代走運用に駆り出されることもあります(予讃線・土讃線の特急は通常時には岡山直通と高松発着が併結されていることが多いが、多客期には全編成を岡山直通として高松発着便は単独で代走となる)。しかし瀬戸大橋を渡って岡山に顔を出す運用は、定期ではないようです。

2600系の土讃線運用の蹉跌によって明らかになった、空気ばねによる車体傾斜車両の限界。
以前にJR東日本が「スーパーあずさ」のE351系を置き換えたときは、空気ばねによる車体傾斜装置を備えたE353系を投入し、「振子車両不要論」まで出てきたのはこのときの置き換えの事例があったからかもしれませんが、あれは電車だからできた芸当だったとも言えます。
今後、振子式車両についても置き換えの必要が出てくることは不可避ですが、そのときその車両が振子式を継続するのか、あるいは振子式を止めて空気ばねによる車体傾斜装置を搭載した車両とするのか、はたまたそれすらない車両で置き換えるのか、それぞれの路線の事情によって選択されることになるだろうと思われます。現在なお381系で運転が継続されている「やくも」の置き換えをターゲットにした273系が先ごろデビューしましたが、この車両は空気ばねによる車体傾斜装置を搭載した車両ではなく、れっきとした振子式車両となっています。これは、走行線区である伯備線がそれだけ路線条件が厳しく、振子式でなければスピードが維持できないからでしょう。何せかつて183系1000番代を投入しようとして運転曲線を比較したら、気動車(キハ181系)よりもスピードダウンになることが判明したほどの路線ですから、273系が振子式とされたのは自然な選択だったのでしょう。

次回は、その381系のカウントダウンについて取り上げます。

その19(№6133.)へ続く

 

【おことわり】

当記事は03/27付の投稿とします。