その6(№4382.)から続く

 

1週遅れのアップでございます。

 

2000形デビューからちょうど10年を経た平成4(1992)年、京急に座席定員制の列車が誕生します。

その名は「京急ウイング号」。愛好家や利用者は単に「ウイング号」と呼びならわしますが、正式名称はあくまで「京急」を冠にした「京急ウイング号」です。そしてこの列車は、利用者や愛好家からは、快特よりも上位の列車と認識されていることが多いようですが、実際の運転管理上の列車種別は、あくまで「快特」なのだとか。よって、「京急ウイング号」(あくまで正式名称)を当連載の中で取り上げるのも意味があるということになります。

 

① 運転区間は品川-京急久里浜。

② 1805発の1号から20分おきに、2105発の8号まで平日の下りのみ8本。

③ 停車駅は品川-上大岡間無停車、上大岡以遠は快特と同じ停車駅。

④ 列車は着席保障のため座席定員制を採用、品川から乗車の場合のみ着席料金200円を徴収、上大岡以遠から乗車の際には着席料金は不要。

⑤ 車両は2000形を使用、品川駅では3番線に発着。

 

ご覧いただいてお分かりのとおり、「京急ウイング号」は、平日の夕方から夜にかけて下りのみ運転される座席定員制の列車ですから(①②⑤)、既に国鉄~JRで特急車両を利用して運転していた「ホームライナー」と同じ発想です。つまり「京急ウイング号」とは着席通勤の需要に応えた列車ということ。と同時に、2扉クロスシート車は3扉ロングシート車に比べてどうしても乗降性に劣るため、そのような車両を一般列車に入れないことで、着席通勤の需要を充たすこととラッシュ対策を両立させたわけで、実に巧妙な車両運用だと思います。しかし、平日夕方上りの普通車(各駅停車)が、折り返し「京急ウイング号」に充当される編成の回送列車に追い抜かれるのには参りましたが(管理人の実体験)。あのような「回送列車に抜かれる普通車」って現行ダイヤでもあるんでしょうか。あれを見たとき管理人は「上り快特に充当すればいいのに」と思っていましたが、回送で持っていくのは折返しの整備が大変だからでしょうか?

「京急ウイング号」は当初座席指定ではなく、運転開始からつい最近まで座席定員制を採用していましたが(④。現在は座席指定制)、その理由は、座席をコンピューターシステムに収容することが面倒だったからでしょうか。

それ以上に、愛好家的視点から見て最も驚かされたのは、京急川崎と横浜を通過し、品川-上大岡間を完全にノンストップとすること(③)。これは言うまでもなく、品川・都営線方面からの乗客をできるだけ南に引っ張るという狙い。「京急ウイング号」運転開始の11年前、朝の上り通勤快特が運転を開始しましたが、この列車の狙いも「横浜以南からの乗客をいかに品川へ引っ張るか」という「京急ウイング号」の狙いの裏返しといえるものでしたが、夕刻~夜間の下り「京急ウイング号」の登場により、京急のこの戦略もようやく完成した感があります。

もっとも、京急川崎・横浜両駅の無停車は、列車ごとの「遠近分離」の目的もあり、その後通常の快特が京急蒲田に停車するようになっても、「京急ウイング号」は京急蒲田には停車するようにはならず、依然として品川-上大岡間のノンストップ運転は維持されています。

ただし、品川-上大岡間ノンストップとはいえ、「京急ウイング号」のスピードが際立って速いわけではなく、あくまで通常の快特と同レベル。平成7(1995)年から行っている快特の120km/h運転も行われていません。しかし「京王ライナー」の明大前や「S-Train」の自由が丘・武蔵小杉とは異なり(これら列車の場合、挙げた各駅には運転停車。信号システムの都合と思われる)、京急蒲田・京急川崎・横浜の3駅とも、低速とはいえ実際に通過します。

なお、「京急ウイング号」は、品川駅では行き止まりの3番ホームから発車しますが、これは都営線との直通列車の進路を妨害しないこと、在線時間を確保することが目的です。そして3番ホームに停車中は、8両編成の16ヶ所の扉のうち2ヶ所だけを開け、そこに係員が立って着席整理券をチェックします。この着席整理券、運転開始当初は乗車券と共にチェックしての入鋏、その後すぐスタンプの押捺に改められました。しかし、スタンプのインクで乗客の手が汚れるという苦情があったこと、着席整理券を自動改札機に投入してトラブルになったこと、その他の要因から、平成11(1999)年5月から、着席整理券を係員が回収するシステムに改められました。10年前の平成20(2008)年8月、管理人は「ウイング号」に体験乗車したことがありますが、そのときも着席整理券は品川駅での乗車時に係員に回収されました。

 

「京急ウイング号」は好評を博し、運転開始翌年の平成5(1993)年4月1日からは、4号以降が三崎口駅まで延長されました。京急久里浜駅-三崎口駅間は各駅停車とされましたが、当時の快特は、野比(現・YRP野比)・京急長沢の両駅を通過していたため、この区間でのみ停車駅の逆転現象が起こっていました。

その後、平成8(1996)年には2本増発、平成11(1999)年7月のダイヤ改正で快特の久里浜線内が各駅停車になったため、「京急ウイング号」も久里浜線内各駅停車となり、快特の停車駅との逆転現象が解消されました。さらに平成22(2010)年、快特が金沢八景に停車するようになったことから、「京急ウイング号」も同駅停車に改められています。

 

前後しますが、平成10(1998)年から2000形の後継車・2100形の投入に伴い、「京急ウイング号」にも2100形が進出、同年3月30日から1・3・8・10号が2100形での運転となりました。その後も2100形の追加投入と共に同形による「京急ウイング号」が増加、遂に平成11(1999)年4月21日を最後に、「京急ウイング号」は全て2100形に統一されました。ただし、車両運用の都合で、その後も何度か2000形による代走はあったようです。

その後は平成23(2011)年に発生した東日本大震災に伴う節電ダイヤにより、「京急ウイング号」も一時期運転休止を余儀なくされたものの、その年の4月には運転を再開しています。

 

平成27(2015)年には、それまで下りだけだった「京急ウイング号」に、三浦海岸始発の上り列車が登場します(モーニング・ウイング号)。運転本数は、平日朝のラッシュピーク前とピーク後の各1本の計2本。停車駅は三浦海岸、横須賀中央、金沢文庫、上大岡、品川、泉岳寺で、品川以外の駅は乗車のみの取り扱いとなります。「モーニング・ウイング号」は、「京急ウイング号」や通常の快特とは停車駅が異なっているためか、運転取扱い上は快特とも「京急ウイング号」とも別の列車種別とされています。

そして「モーニング・ウイング号」運行開始に伴い、着席整理券料金を従来の200円から300円に変更、同時に名称も「Wing Ticket」に変更されています。さらにその2年後の平成29(2017)年5月1日から、「京急ウイング号」「モーニング・ウイング号」ともに全座席指定制に変更されました。

この間の平成28(2016)年に実施されたダイヤ改正により、下り「京急ウイング号」の運行時間帯が23時まで拡大されました。本数自体は改正前と変わらず、7号以降を約30分間隔の運転とすることで、運行時間帯を繰り下げ、遅い時間の着席需要に応えています。

 

次回は、快特がダイヤの主役に躍り出た平成11年のダイヤ改正を取り上げる…と予告編ではお伝えしておりましたが、もうひとつのオールクロスシート車・600形(Ⅲ)を取り上げておこうと思います。よって、次回は600形(Ⅲ)を取り上げ、平成11年ダイヤ改正以降のネタは1回分ずつ繰り下げていきますので、よろしくご了承ください。

 

その7(№4394.)に続く