2月特選映画コロナ編【4】★映画のMIKATA「すばらしき世界l★ | 流石埜魚水の【特選映画】、★映画のMIKATA★映画をMITAKA・・・

流石埜魚水の【特選映画】、★映画のMIKATA★映画をMITAKA・・・

都市生活者の心と言葉を掌にのせた小説、電脳化社会の記号とイルージョンを巡る映画、都市の孕むシンボルと深層を探るエッセイ、街の風景と季節の色を彩る短歌…。小説と映像とエッセイと短歌をブログに・・・掲載します。

 

 

ヤクザ同士の喧嘩で過去にチンピラを一人殺し、懲役13年の刑期を務めてシャバへ出所した三上正夫(役所広司)を主人公にしたやくざ人生を描いた『すばらしき世界 』(西川美和監督&脚本、佐木隆三「身分帳」原案)を映画館で観ました。映画館で続けてやくざ映画を見てしまいました。少年院からから始まりヤクザの親分の杯を受け、人生のほとんどを刑務所の中で過ごしてきた気性の荒い三上は、直ぐに激高する荒くれ者の性格の反面、他人の苦境や不幸を黙って見逃せない正義感にも溢れていた。だから、世間に出ても暴力的な力の争いやいざこざを黙認できずに直ぐに介入してしまった。出所後、何とかまっとうに生きようとしたのだが、務所帰りの男に世間は冷たかった。ストーリをこんな風に大雑把に書くと、務所帰りのやくざが社会に適応できなくて、やくざ稼業から足を洗えずにあわやもう一度古巣のヤクザ組織に戻って、刑務所に逆戻りしてしまう・・・といった、単純なヤクザ映画の末路ように一見思えます。が、映画はやくざが再犯ギリギリのところで周囲の善意に支えられて、やっと介護施設の仕事に就いて、社会復帰に成功するのだが。最後に庭に咲いた花を握りしめて、アパートの一室でひっそり病死する、悲しくも短いヤクザの悲哀物語のような作品でしたーネ。

 

けれど私はもう少しこの映画の監督を深堀したくなりました。三上が刑期を終えて出所直前に、刑務官と最後の調書をとる面談の時間がありました。彼への質問は、彼の犯した殺人に対して罪の意識、「反省・・・」をしていますかーという質問でした。縄張りを廻ってやくざが妻の店にチョッカイを出してきたのが発端だ・・・と激高して抗弁するのでした。過去の殺人に関して罪の意識はありますか・・・とい刑務官の犯罪者に向けたこの質問に、私は直ぐに別のTV番組、先週2月21日に NHK総合で再放送された『日本一長く服役した男』を追ったドキュメンタリー番組を想起しました。NHK熊本放送局が構想に3年、取材に1年を費やされた渾身のドキュメント番組でした。

 

1957年に熊本で強盗殺人事件を起こして、裁判の末、その男は翌年に21歳で無期懲役の判決を受け、熊本刑務所へ収監された。熊本刑務所は、全国で5か所しかないLB刑務所(執行刑10年以上の受刑者が服役)で、長期刑、累犯者、暴力団関係者などが収容されているという特別な刑務所のようです。男はその後、5度にわたって仮釈放申請を行ったが、「受け入れ先がない」理由で棄却されました。結局、出所した時は83歳で61年間服役しました。1980年代までは無期懲役でも10数年で仮釈放される事が多かったという。刑務所の中で寿命を迎える人はほとんどおらず、高齢者や病人を除けば出所しているようです。法改正後の現在は有期刑の最高が30年になりました。無期懲役受刑者の平均収監年数は31年です。ただ、無期懲役囚が仮釈放の審査で、仮釈放を適用されるのは年間数人のようです。無期懲役囚は現在国内で約2000人近くいるという。これでは刑務所が満杯になりそうです。

 

受刑者の高齢化に直面した日本政府は、高齢者や障害のある受刑者を福祉施設で受け入れる「特別調整」を2009年に導入した。出所後にその男も福祉施設に預けられることになった。ただ人生の大半を刑務所に閉じ込められ、一方的な命令指示と服従に従うだけで、自分の自由意思も許されず、毎日を身体拘束された人間は、どうなるのだろうか・・・???やがて男は、施設の中でも風呂に入らない、着替えないなど生活が乱れてきた。注意をしても職員の言うことを聞かなくなり、『刑務所でも警察でも連れていけ』と放言するようになった。いくら自由になった身体とはいえ、最早精神は半ば朦朧としている状態でした。これが凶悪犯罪者に対する刑罰の実態です・・・。このドュメントの中で印象的なシーンがありました。施設の責任者かその男に対して、自分の犯した殺人を後悔していますか・・・反省しているのですか・・・と執拗に問う場面がありました。獄中に61年間服役して精神が既に朦朧としている83歳の老人に対して、意味のない残酷な攻め言葉だろうーヨ!!!と私は感じました。私ならば、ジャー、戦争で何十人も殺害した戦争のヒーロの「殺人」は許されるのか・・・、戦争の勇者には殺人の反省も後悔も問い詰められないでしょうか!!!

と反論したくなります。

 

日本でもアメリカでもイギリスでもどの国の務所でも、刑務所は凶悪犯から市民の安全を高い壁で守り、凶悪な犯罪者に対して懲罰を与える厳格な鉄格子の中に閉じ込める非日常的な施設です。ただ、刑務所は犯罪者でいっぱいで、監獄の余裕がないそうです。アメリカなどでは、逃亡させないように足首に所在を確認する発信装置を嵌めて自宅監禁させる服役方法があるようです。

 

ただね、私はこの刑務所の既成概念に反する全く別の刑務所を紹介するあるドキュメント映画を想起しました。『ボウリング・フォー・コロンバイン』(2002年)や『華氏911』(2004年)などドキュメンタリー映画の傑作を次々と製作したマイケル・ムーア監督の『世界侵略のススメ』(2015年))です。アメリカにはないヨーロッパ諸国の良い制度と理念を紹介しいます。その中でノルウェーの刑務所をドキュメントしています。ノルウェーに死刑制度がなく、この国では刑務所は犯罪者を社会復帰させるためのプログラムと施設が整えられていました。殺人発生率は世界最小と言われています。日本では少年犯罪の凶悪化が目立ち、少年への更生を配慮した寛容な少年法の改定と厳罰化の声が高くなっています。より厳しい刑罰を求める人には、このようなノルウェーの刑務所には異論の言葉が出るでしょうーネ。たまたま見たNHKのドキュメンタリー番組«ドキュランドへようこそ»で『世界一豪華な刑務所の内側』で、ノルウェーのハルデン刑務所を元イギリスの刑務所担当相のアン・ウィデコムが所内を詳しく紹介する番組がありました。私には大変興味深かったです。これまでの刑務所と犯罪の既成概念を覆す内容でした。まして、人間の精神を崩壊させ、精神分裂を強いる鉄格子の中に閉じ込める司法制度と刑罰の在り方を見直す衝撃的なドキュメントフィルムでした。

 

さて、論旨をもう一度映画『すばらしき世界 』に戻します。私は映画を見終わった時、率直に«何が?素晴らしい»のか}、もやもやした疑問が湧きました何一つ素晴らしい結末ナンカ無かったからです。三上の惨めな人生と疎外感しかなかった映画です。収監中に無効になった運転免許さえあれば運送の仕事が見つかる希望があったのに、警察は規則一辺倒でした。初めから講習を受けて運転試験を受けなければならなかったー。所内で身につけた裁縫技術を生かせる剣道の防具の仕事も見っからなかったです。親しく頼れる人間関係は、結局昔の九州のヤクザ仲間でした。浮かんだ私の結論は、犯罪者の社会復帰を排除しようとする世間の冷たい視線に対して、反語的な皮肉を込めて監督は≪素晴らしい世界≫と題名を付けているのではないかな、と思いました。

 

冷酷で無慈悲な世界の反面で、そのアンビバレントな『すばらしき世界 』の断片も描いているのが唯一救いです。三上を万引き犯と間違えたコンビニのオーナ松本(六角精児)は、彼に免許が取れたら知り合いの運送会社を紹介すると約束しました。彼の身元引受人で運転教習所の講習料30万円を貸してくれた元弁護士の庄司夫婦(橋爪功、梶芽衣子)、テレビマンの津乃田(仲野太賀)は三上の母親さがしに懸命に力を貸してくれた、彼の出所後の監察官など、彼の悩みに親身に相談に乗ってくれました。世界はまんざら捨てたものではないなーと、思わせる世界も確かにありました。

 

すばらしき世界 』を私の関心から掘り下げた時、日本も含めた世界の懲罰主義の刑務所制度への西川美和の問題意識、犯罪者が再犯を起こさない司法制度をテーマに彼女は持っていたと、私は理解しました。早くノルウェーのような司法制度を世界と人類が真似ることを願ってやみません。

 

それでは、ノルウェーのような人間の凶悪な犯罪に対して寛容な司法制度を私たちが社会制度として受容することはできる余地があるのだろうか・・・???犯罪の多くの原因の一つに、金銭の略奪を目的として人間に危害を加える暴力による傷害や命を奪う殺人を伴う「犯罪」が大きく伏在するのではないでしょうか。社会制度の視点から原因を究明すると、犯罪の多くは貧困による金銭がらみの犯罪が数多いのではないでしようかー。貧困と犯罪は社会の印画紙のような関係にあります。人間が貧困から解放されれば、犯罪は減少します。私は更にもう一つ、凶悪な犯罪者の引き金に心の問題、と言うよりも幼児の時に受けた精神の障害と脳の大きな損傷あるのではないかと思っています・・・。゜これは、貧困のように簡単に解決策はありません・・・。゜

 

テレビマンの津乃田が三上の生い立ちをいろいろと心を調べるシーンで、彼の幼児期のことを知るために脳の本を参考にしていました。確かに確かに、彼の粗暴で暴力的な心の在り方には、幼児期の心の発達に影響があるのかも知れません・・・。これは発達心理学の分野なのですが、凶悪犯罪者の多くは、幼児期に脳の何処かが傷ついているのかも知れないーと私も思っています。犯罪者、特に殺人犯のような人は、幼児期に脳そのものが障害を受けているーのかも知れません。よく子どもの虐待が社会問題になりますが、幼児期に親からいじめられ虐待された子供は、自分が成長して親になった時に、自分の子どもを虐めると言います・・・。寧ろ兇悪な犯罪者の精神の原因は、幼児期に傷ついた脳が原因なのかもしれませんーネ。以前読んだ死刑囚と対話し死刑まで立ち会う教誨師について書かれた堀川恵子サンの『教誨師』という本を読んだことがあります。死刑囚の中には自分で自分の犯罪が止められないのでー、「早く死刑にしてください」・・・と言うそうです。犯罪の陰にもっと深い脳と意識の問題がありそうですーね。だから、犯罪への厳格な懲罰で、犯罪はなくならないのです・・・。ましてそれは、犯罪者が社会復帰する方法にはならないのではないでしょうか。

 

 

是非、コメントを一言お寄せください。必ずご返事させていただきます。尚、 誤字脱字その他のために、アップした後で文章の校正をする時があります。予告なしに突然補筆訂正することがありますが、ご容赦ください…)