「12月特選映画ーノルウェイの森」その6★映画のMIKATA【④】 ★映画をMITAKA… | 流石埜魚水の【特選映画】、★映画のMIKATA★映画をMITAKA・・・

流石埜魚水の【特選映画】、★映画のMIKATA★映画をMITAKA・・・

都市生活者の心と言葉を掌にのせた小説、電脳化社会の記号とイルージョンを巡る映画、都市の孕むシンボルと深層を探るエッセイ、街の風景と季節の色を彩る短歌…。小説と映像とエッセイと短歌をブログに・・・掲載します。

◆スタッフ
監督: トラン・アン・ユン/プロデューサー: 小川真司 /エグゼクティブプ/ロデューサー: 豊島雅郎。 亀山千広/ 原作: 村上春樹/脚本: トラン・アン・ユン/撮影: マーク・リー・ピンビン/美術: イェンケ・リュゲルヌ。 安宅紀史/
編集: マリオ・バティステル/音楽: ジョニー・グリーンウッド/音楽プロデューサー: 安井輝/主題歌: ザ・ビートルズ 『ノルウェーの森』/照明: 中村裕樹/録音: 浦田和治/助監督: 片島章三/製作事業統括: 寺嶋博礼。 石原隆/
◆キヤスト
松山ケンイチ= ワタナベ/ 菊地凛子= 直子/ 水原希子= 緑/ 高良健吾= キズキ/ 霧島れいか= レイコ/ 初音映莉子= ハツミ/ 柄本時生= 突撃隊/ 糸井重里= 大学教授/ 細野晴臣= レコード店店長/ 高橋幸宏= 阿美寮門番/ 玉山鉄二= 永沢

流石埜魚水の【特選映画】、★映画のMIKATA★映画をMITAKA・・・

明けましておめでとうございます、昨年同様今年も「★映画のMIKATA ★映画をMITAKA」を宜しくお願いします。面白かったら是非、読者登録してね…。


再び連載に空白が出来てしまいました。もう新年のハレのお正月が終わり、世の中が経済活動を始めたようです…。そろそろ「12月の特選映画」に幕を下ろさなくては…!


学校で虐めを受けた子供が、虐めた同級生へ恨み辛みの遺書を残して自殺する教育現場が問題になっている最中に、ある政治家が自殺は「遺伝子だ」ーといって顰蹙を買ったことがあります。さらにあるケースでは、友達が虐められて自殺した惨事に、級友の自殺に無力だったことを悔いて、その同級生が自殺するという痛ましい事件もありました。自殺はイメージの様に連鎖する、ウィルスのように感染するーということも、確かに言えるのかもしれません。


その内に、自殺の遺伝子研究が飛躍的に解明されて、バイオテクノロジーによって自殺の謎のDNAが究明され、癌の遺伝子や色盲の遺伝子や肥満の遺伝子と同じ様に、「自殺遺伝子」の遺伝子操作によって、DNAの配列を変えたり組み換えたりするのではないでしょうか…。これは冗談冗談ー。


さて本論です。映画「ノルウェイの森」から直子の姉の自殺のシーンが消去されていました。レイコさんがプロ・ピアニストを断念して結婚後に、筋金入りの13歳のレスビアン「あの子」との関係も消去されていました。レイコさんはこれをキッカケに再び精神のバランスを崩壊させました。このエピソードも、 トラン・アン・ユン監督は削除しています。細かい描写もかなり多く割愛されています。突撃隊から貰った「蛍」と寮の屋上で戯れる場面もありました。僕と緑との公園のベンチに座って、「生理ナプキン」を焼却している煙突の煙をしみじみ語り合う愉快な会話もありました。永沢と僕がセックスフレンドを探しに夜のスナックで女遊びをするシーンも消去されていました。特に新宿三丁目のバーで女の子二人をハントして、ホテルでスワッブするシーンは映像化されていませんでした。緑の父親が入院している病院で、死の淵にいる緑の父の介護をしながら会話する親密なシーンは、村上春樹の才能をキラキラ感じさせる描写ではないでしょうか!どれもこれも私にとっては、印象に残る巧みな描写でした。少なくても、13歳のレスビアンの子とレイコのエピソードや、最後に直人のために僕とレイコの二人の葬式は、「ノルウェイの森」の物語にとって、絶対に削除できないシーンだった筈です。


「ノルウェイの森」は、村上春樹独特のしっとりとした抒情的文体と、知的でユームラスな独白とおしゃべりの文体で、読者をグイグイと引き込む魅力があります。私は、この二つのシーンの消去と、映像そのものも抒情的過ぎるという理由によって、この映画を傑作から外したいです。


確かに昨年公開された吉田修一原作の映画「悪人」のように、小説家自らが脚本も書き、脚本と長編小説とは別の作品であると、先手を打って映画上映の前に煩い批判をかわす宣伝パンフレットを配布する例もありましたが、原作小説の叙述と場面の中から、何を捨て、何を残すかは、脚本家と映画監督の才能と手腕を発揮します。更に言えば、映画の良し悪しを決定する大切な要素でもあります。


今、村上春樹の「1Q84」を読んでいて、直子とレイコの関係ー、レイコのビアノ・レッスンの生徒で美しい少女とのレスビアン的関係が、「青豆」にもありました。これは村上春樹の文学を解釈するキーワードなのかな…と思い始めました。これについてもう少し書きたいのですが、「レスビアン」の人類史的関係はまた別の映画で言及したいです。やや連載が長すぎたので、映画「ノルウェイの森」のブログは、ここで幕を下ろします。次回は急いで、昨年見た≪12月下旬の特選映画≫を掲載します。

流石埜魚水の【特選映画】、★映画のMIKATA★映画をMITAKA・・・