クエンティン・タランティーノ監督の8作目となる最新作は、真冬のワイオミングを舞台にした西部劇。といっても、あえて『ジャンゴ 繋がれざる者』的な盛り上がりを排した、『レザボア・ドッグス』風の「誰かが何かを企んでいる」といった内容の「へんてこサスペンス」です。
あらすじはわりとシンプルで、吹雪で「ミニーの店」に閉じ込められたクセ者たちが、互いの腹を探りつつ、やがて殺し合いを始めるといったストーリー。とにかくずっと「ミニーの店」という閉鎖空間でコトが進むため、ほとんど会話劇の趣があり、映画じゃなく舞台でやってもよかった気がします。
時代背景として南北戦争がそこそこ重要な要素になっているため、北軍と南軍、それぞれに参加した元軍人の立場や、黒人に対する意識などをある程度知っていないと、ピンとこないセリフもあるかもしれません。
期せずしてブリザードで立ち往生する面々は、偽物のリンカーンレターを持ち歩く賞金稼ぎ(サミュエル・L・ジャクソン)、レッドロックという町で絞首刑になるはずの死刑囚の女(ジェニファー・ジェイソン・リー)、賞金目当てで彼女をレッドロックまで連行しようとしている賞金稼ぎ(カート・ラッセル)、新任の保安官だと言い張るならず者一家の息子(ウォルトン・ゴギンズ)、英国風アクセントでしゃべる胡散臭い死刑執行人(ティム・ロス)、凶悪な雰囲気を漂わせつつ「ママとクリスマスを過ごすため故郷に帰る途中だ」とぬかすカウボーイ(マイケル・マドセン)など。役者もキャラも、タランティーノファンならおおいにそそられることでしょう。
なぜ店のドアは壊れていたのか? 床に落ちていたゼリービーンは何を意味するのか? あったかシチューは誰がいつ作ったのか? どうしてブルース・ダーン演じる老兵は借りてきた猫のように大人しいのか?
謎解きミステリーめいた小道具や伏線も多少用意されているのですが、うなるようなオチや種明かしがあるわけでもなく、事件前にさかのぼった「チャプター5」で、あっさり裏事情が明かされます。
「チャプター4」で唐突な「毒物混入ナレーション」が入り、それだけでもキョトンとしていたのに、次の「チャプター5」では、いきなり、それまで画面に登場していなかった男が床下から登場するなんて・・・・・・まるで子供の思いつきみたいな過激なシナリオに唖然。女死刑囚の兄貴が床下から突然発砲するというあんまりな展開に、爆笑です。
これって、正統派ミステリーファンがいちばん嫌うパターンだと知ってか知らずか・・・・・・。『そして誰もいなくなった』みたいに、黒幕は最初からちゃんと密室メンバーの中に入っていないと、密室ミステリーにならんでしょーが。
「どうしてキルビルのユマ・サーマンは日本刀を持って飛行機に乗れたんですか?」
とインタビューで訊かれたタラちゃんが、「細かいこと気にすんな、ワッハッハ」と答えていたのを思い出しました。「なんで突然、床下から?」なんて、訊くだけ野暮ってものかもしれません。
そんでもって、最終チャプターは血みどろの「説得合戦」になるのですが、これもなんだかしっくりきませんでした。前半のサスペンスモードと後半のバイオレンスモードがかみあわず、お互いを損ない合っている感じです。推理+アクションという一粒で二度美味しい作品になるはずが、ウンコ味のカレーというかカレー味のウンコみたいなことになってます(意味不明)。
パーソナルな映画原体験を軸に、ノリと勢いで突っ走るのがタラちゃんの魅力なのに、今回の新作では変にアタマ使っちゃったのが裏目に出た感が・・・・・・。アタマでっかちになるぐらいなら、このお祭りみたいにチンコでっかち
になった方がよかったと思います。
ラストシーン、毒殺されたカート・ラッセルが望んだとおり、女を絞り首にするサミュエル・L・ジャクソンとウォルトン・ゴギンズの2人。しかし、なんとか生き残った彼らも、既に銃で撃たれ瀕死の状態であり、やっぱり結末はタランティーノらしく、全員悪人、全員憤死・・・・・・。
この設定と展開で3時間も引っ張るというのは、正直きつい。とりあえず、『デス・プルーフ in グラインドハウス』の延々続くかったるいセリフのやり取りが大好きだという人に、お勧めの作品です。
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The Hateful Eight (187 min)
Chapter One: "Last Stage to Red Rock"
Chapter Two: "Son of a Gun"
Chapter Three: "Minnie's Haberdashery"
Chapter Four: "Domergue's Got a Secret"
Chapter Five: "The Four Passengers"
Chapter Six: "Black Man, White Hell"
Release Dates in USA
25 December 2015 (limited) (70mm version)
30 December 2015
第73回(2016年)ゴールデングローブ賞受賞
作曲賞:エンニオ・モリコーネ「ヘイトフル8」
第88回(2016年)アカデミー賞ノミネート
助演女優賞:ジェニファー・ジェイソン・リー
撮影賞:ロバート・リチャードソン
作曲賞:エンニオ・モリコーネ