『The Purge』(ザ・パージ)は、バトル・ロワイアル+わらの犬+デビルマン? | トラウマ日曜洋画劇場

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レンタルDVDもインターネットもなかったあの頃。インドア派の少年たちがオタクとかヒキコモリといった言葉で安易に総括されてしまうこともなかったあの時代。昭和キッズは夜な夜なテレビで放送される洋画番組をめちゃくちゃ楽しみにしていた……

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アメリカでは2013年6月に、タイでは8月に公開された映画『The Purge ザ・パージ』(日本では劇場未公開。GEOやTSUTAYAのザパージ レンタル開始予定日はいつかな? )。トラウマ映画館主・ウォーターパワー近藤さん に勧められ、見てみたので紹介します(ストーリー後半の展開にもふれているので、オチとか知りたくないネタバレ嫌いな人は注意してね)。

トラウマ日曜洋画劇場-ザ・パージ侵入者(The Purge)

近未来のアメリカでは、失業率も改善され、犯罪発生率も低水準にキープされていますが、それは「パージ」という政府主導、全米規模の国家的イベントがあるからです。「パージ」とは、年に1日決められた日に、12時間だけ、殺人を含むすべての犯罪が合法化される(罪を問われない)というキョーレツなイベント。要するに、ガス抜きですね。モラルや法律の手前、人々が日々心の中に押し隠している憎悪や攻撃衝動を、期間限定で解放させてやれば、みんなストレス発散してスッキリ。社会の諸問題も解決しちゃうだろうというわけです。

トラウマ日曜洋画劇場-The Purge のイーサン・ホーク

物語は、この「パージ」期間中、2022年3月21日の午後7時から翌朝7時までの12時間に、サンディン家で起こった出来事を描いています。サンディン家の父親(イーサン・ホーク)はセキュリティ・システム会社に勤める優秀なセールスマンで、ハイソなエリアでもひときわ目を引く豪邸に住んでいます。「パージ」期間中は、警察・消防・救急などもすべて休業となるため、だれもが自分で暴徒や侵入者に備えなければなりません。そのため、富裕層にハイテク・セキュリティ・システムがばんばん売れ、儲かりまくっているんですね。

写真の青い花束は「パージ」という制度を支持する証し。「パージ」当日に玄関に飾るため、お父さんが買って帰宅したところです。

トラウマ日曜洋画劇場-The Purge "timmy"

サンディン家は父親と常識的な母親、ボーイフレンドを部屋に引っ張り込んでいる長女ゾーイと、ギークな長男チャーリーの4人家族。チャーリーはタンクに乗ったチャッキー人形みたいな「ティミー」を作り、リモコン操縦して遊んでるようなヤツですが、「パージ」という制度には批判的で、人殺しが認められるなんておかしいと思っています。

夜7時になり「パージ」開始のサイレンが鳴ると、父親は豪邸のセキュリティ・システムを稼働。窓やドアに防護壁をおろし、監視カメラで外の様子をチェックし始めました。「パージ」の夜には、ここぞとばかりに人を殺して発散する「たまってる」連中もいますが、日々の暮らしになんの不満もない「リア充」富裕層は、自宅に閉じこもり、ひたすら夜が明けるのを待つのです。


トラウマ日曜洋画劇場-The Purge ホームレス

父親が書斎に戻り、チャーリーが一人で監視カメラの映像を見ていると、襲われて負傷し命からがら逃げてきたホームレスの黒人が映ります。真っ先にうさばらし「人間狩り」のターゲットになるのは、自衛手段を持たない弱き者、貧乏な路上生活者などです。屋敷の前で必死に助けを求めるホームレスの姿を見て、チャーリーは思わずロックを解除、家の中に招き入れます。

一方、長女ゾーイの部屋にはボーイフレンドがこっそり来ていました。彼はゾーイとの交際に反対する父親のサンディンを「パージ」に乗じて殺そうとしますが、護身用の銃を用意していたサンディンに逆に射殺されます。ホームレスが家に飛び込んできたのはまさにそんなときで、発砲騒ぎのどさくさに紛れ、ホームレスは広い屋敷のどこかに隠れてしまいます。


トラウマ日曜洋画劇場-The Purgeセキュリティシステム監視カメラ映像

殺伐とした不穏な空気がいい感じで高まったところで、玄関の呼び鈴が鳴ります。父親がモニターの映像をチェックすると、当然ピザハットのデリバリーなどではなく、不気味なマスクをつけた男女数名の姿が……。

銃刀で武装したマスク軍団は、「俺たちの獲物を差し出せ。ここに逃げ込んだのはわかっている」と迫ります。リーダー格の男は『時計じかけのオレンジ』のアレックスのような存在で、妙に礼儀正しい口調でこう言います。「獲物を返せば、あなたがた家族に危害は加えない」。


トラウマ日曜洋画劇場-ザ・パージのサンディン家

父親はモニター越しに「がってんしょうちのすけ! すぐにホームレスを追い出しますから、ちょっとお待ちを。そもそもあいつを助けたのは子供が勝手にやったことで、うっかり間違えたんですよ。えへへ」みたいな感じで卑屈に返答。夫婦で家の中を探し回ります。

その後、見つけたホームレスの腹の傷口に母親がレターオープナーを突っ込んで痛めつけたりするものの、最終的に、自分たちが助かるために他人が殺されるのを手伝うってどうなんだろうと、良心に目覚めるサンディン家の人々。血に飢えた殺戮者たちから逃げてきたホームレスを、自宅にかくまい続ける決心をします。このシチュエーションは、
『トラウマ日曜洋画劇場』 で取り上げたペキンパーの『わらの犬』と同じですね。あっちはホームレスじゃなくて精神薄弱者でしたが……。

トラウマ日曜洋画劇場-ザ・パージ殺人シーン

マスク軍団は、サンディン一家が心変わりしてホームレスを引き渡さないことに激怒。皆殺しにしてやると、重機を使って屋敷に押し入ります。殺るか、殺られるか。こうして屋敷の中は『バトル・ロワイアル』的な殺人祭りとなりますが、ここにきて、サンディン一家の命を狙う第三の勢力もやって来ます。セキュリティ・システムを売って荒稼ぎしていたサンディンは、かねてから近所の金持ち連中に妬まれており、今年の「パージ」はあの一家を殺しちゃおうぜ!みたいな感じで、お隣さんたちが密かに殺人計画を練っていたのです……。


叫び


近所のおっさんやおばちゃんが寄ってたかって家まで殺しに来る……昭和世代なら漫画版『デビルマン』のクライマックス、単行本5巻あたりを思い出すところです。「魔女狩り」の対象となった『デビルマン』の牧村家は全滅しますが、サンディン家はなんとか犠牲者一人で「パージ」を乗り切り……。