会津の初夏
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木々の葉が新緑から深い緑に変わる。
山藤や桐の花が咲くと、会津に夏がやってくる。
川霧が発生するのもちょうどこの頃から。
梅雨までの短い間。会津はひとときだけ、初夏の色彩に染まる。
「市さんが引き取ってくれたのか。それはまた好都合。
駅前だし、喜多方からのバスの便もいい。
チョコチョコ遊びに来るのに、ちょうど手頃な場所だ」
「チョコチョコ来られるほど、暇なのですか?。恭子さんは」
「夏の予選に負けてしまうと、3年生の部活はそれで終わり。
あとは進学に備えて、みんなそれぞれ準備に入る。
高校3年生の夏休みはすべてのことから解放されて、気兼ねなく遊べる、
一番良い瞬間なのよ」
「そんなものですか・・・高校生活というものは」
「紫陽花が咲き始めると、会津に本格的な梅雨がやって来る。
お前。ユリの花は好きかい?。
会津にはオトメユリの群生地があるんだよ」
「オトメユリ?。はじめて聞きます。
山百合とは、また別の種類になるのですか?」
「山百合の花は、大きめでほとんどが白。
オトメユリは、別名を姫早百合(ひめさゆり)と呼ばれている、
山間地に咲く特別なユリだ。
宮城県の南部と、新潟、福島、山形県の3県が接している飯豊連峰の
吾妻山、守門岳周辺に群生する貴重な花だ。
花は薄いピンク色。ヤマユリのような斑点はない。
花の香りは、甘くてとても濃厚だ」
「群生地があるのですか。壮観でしょうねぇ・・・」
「見たいかいお前?。じゃ、今度のお休みに見に行こう。
ただし本格的な山歩きになる。浴衣じゃ無理だ。
持っているかい、お前。山歩きができるような洋服を」
「そうなると、登山用の靴も必要になりますねぇ。
大丈夫です。お母さんからもしもの時にと、お金を預かっています」
「馬鹿だねぇ。そんなもんにお金を使ってどうすんの。
足のサイズはいくつだい?。あたしのが履けそうなら、貸してあげる」
「9文半か、 9文7分です」
「尺貫法かい。それじぁ、あたしの方が分かんないよ。
前に教わったような気もするけど、センチに直すとサイズはいくつだい?」
「9文半は、22.5Cm。9文7分は、23Cmです」
「ふぅ~ん。23センチなら大丈夫だ。
山登りの装備も必要になるな。でも大丈夫。全部貸してあげるから。
じゃ行こうか。オトメユリが咲いている飯豊山へ」
飯豊山(いいでさん)は、飯豊山地にそびえる標高2,105 mの山。
地元では飯豊本山と呼ばれている。
磐梯朝日国立公園の中に位置し、高山植物の群生地をたくさん持っている。
日本百名山のひとつに数えられている。
最高峰は、標高2,128 mの大日岳。
飯豊山は山形県の小国町と、新潟県の阿賀町の県境に位置している。
福島県側から山頂を経てさらに御西岳へ至る細い登山道が、福島県喜多方市の
所有になっている。
山頂も、喜多方市。
明治の廃藩置県のとき、飯豊山周辺は新潟県に編入された。
しかしこの時、飯豊山を神社宮とする福島県から、猛烈な反対運動が発生した。
参道にあたる登山道と山頂を、福島県に編入し直すことで、騒動が決着した。
こうした経緯があるため、飯豊山は特異な登山道を持っている。
福島県の地図をひろげると、そのことがよくわかる。
喜多方市の北部から飯豊山にむかって、髪の毛のような県境が
にょろにょろと新潟県の中を伸びていく。
(49)へ、つづく
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