旅の記憶3 | 佐野光来

佐野光来

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  無事に、帰ってきた。
  快適すぎるほどの旅だった。恐れていた怖いことはなにも起こらなかったし、その何倍もの安全さと楽しさで、私は堂々と街を歩き回った。地下鉄にもバスにも、めいっぱい乗った。一日にいくつもの予定を入れて、どこへでも出掛けて行った。行く先々で、ひっそりとたくさんのことに感動した。
  「いる場所が世界」であることを身体の底から実感した旅になった。どこにいて、だれといて、なにをするか、みたいなこと、その選択の、純度について、ずっと考えていた。美術館をたくさんみて回ったけれど、どの作品が、どこに、どんなふうに、置かれているか、だれにみられているか、ということが重要だったように、じゃあ私はいったい、どういたいんだろう、というぼんやりとした問いかけ、その輪郭を、なぞるような体験をした。結局、生きていなくちゃ・身体がなくちゃ・だめなんだって思って、あー、生きててよかったのかもしれないと思った大切な旅になった。
  お騒がせした皆様、ほんとにすみませんでした。
  でもやっぱりね、向こうで気が緩みました。喉のいがいがが悪化して声がでなくなる事態が。喋っても苦しくて咳でるし、一度咳き込むとなかなか止まらないしでがさがさの声だから、二度聴きされたりして、なんでこんな喉になってしまったの。伝わらないことばが益々伝わりづらくなったという、おもいで。