【知道中国 1683回】――「全く支那人程油斷のならぬ者はない」――(中野3) | 護国夢想日記

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 日々夢みたいな日記を書きます。残念なのは大日本帝国が滅亡した後、後裔である日本国が未だに2等国に甘んじていることでそれを恥じない面々がメデアを賑わしていることです。日本人のDNAがない人達によって権力が握られていることが悔しいことです。

樋泉克夫のコラム
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【知道中国 1683回】           
――「全く支那人程油斷のならぬ者はない」――(中野3)
  中野孤山『支那大陸横斷遊蜀雜俎』(松村文海堂 大正二年)


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 中野が利用した船の船長はフランス人で、「他は悉く支那人」だった。

 

 

そこで「支那人のいかにも油斷のならぬと云ふことを、實驗した」。

 

 

いざ乗船してみると、「出帆間際になると、(料金は当初契約の)五割方も増加した」。

 

 

だが「最早荷物は積込み、出帆時刻は迫つて來る」。通訳を介しても「我が意が先方に通じない」。

 

 

そこで致し方がなく「言ふがまゝに從は」ざるを得なかった。

  かくて「その遣口の狡猾なるいかにも惡むべしだ」となる。

 

 

誤解か、はた正解か。かくて、すったもんだの挙句に上海を出港し、船は長江を遡る。

  「實に大河である、眼界茫々、水波?々、宛然大海の樣で、天を浸してゐる」。

 

 

早朝に「起き出でて、甲板を闊歩しつゝ、左手を望めば、遥かに堂塔、殿閣、層樓が、暁霧の間から隱見斷續してゐる、

 

 

段々近づいて見ると、之れなんと史上其名を没せぬ南京城であらう、明朝の面影が巖然を遺つて居る。

 

 

實に其の雄大なこと、城壁は蜿蜒として、數十里に渡つてる。

 

其の當時の旺盛を追想される」と、なんとも“大時代風”の表現がステキだ。

  さて、中野の乗った船も一休み。朝食も済んだので「支那人の室を一寸のぞいて見た」。

 

 

すると、「一絃琴を彈じて歌ふてゐるものもあれば、惰眠を貪つてゐるものもある、半風子の退治に餘念なきものもある、彼所に集ひ。

 

 

此所に群つて、一心不亂に賭博に狂してゐるやからは、殆んど九分通りであらう」。

 

 

かくて、「實に支那人程かけごとを好むものはない、よく朝から晩までやつてゐる。若し厘毫の間違ひでもあると、大聲を放つて爭うてゐる」。
 
 加えて「紅茶を急須に入れ、開水(湯)を注ぎ、口呑みしつゝ出入りしてゐるものもある、點心(菓子)立食位は何でもない。

 

 

碗を擁して、飯の歩み食ひすらする」。であればこそ、

「其の人情の浮薄驚いたものだ」となっても当り前だろう。

 「眼界茫々、水波?々、宛然大海の樣で、天を浸してゐる」大河の岸に厳然として残る「史上其名を没せぬ南京城」。

 

 

その「城壁は蜿蜒として、數十里に渡つてる」。

 

往時の栄華に対するに、「殆んど九分通り」の人々は「一心不亂に賭博に狂してゐる」。

 

 

さらには「飯の歩み食ひすらする」のである。「中央支那の事情を知るは、現時の急務」とやって来た中野は、この現実――過去の栄華に対するに眼前で繰り広げられる「人情の浮薄」という落差――を、どう受け止めようとしたのか。

歴史の彼方に消え去った栄華(有体にいえば、それを書き記した書物)を重んじ、現に生きる無告の民(有象無象の大衆)を侮蔑・軽視し、あるいは無視するのか。

 

 

それとは反対に後者こそが現実だと捉え、彼らへの対応に力を注ぐのか。

 

 

やや大袈裟に表現するなら、ここが「東洋啓發を以て天職とする我が日本」にとっての分岐点ではなかったか。

昭和20年8月15日まで続くその後の歴史を振り返ったとき、東京(政府、あるいは参謀本部)と出先機関(大使・公使・領事館、あるいは現地部隊)の間のチグハグな対応は、中国の過去と現実に対する認識のズレ、あるいは無告の民への向き合い方の違いに起因していたのだ。

 

 

この違いを「支那にゃ四億の民が待つ」という当時の“慣用句”を使って戯画化して表現するなら、「東洋啓發を以て天職とする我が日本」を待っていたのは「支那」だったのか、それとも「四億の民」だったのか。

 

 

我われは、この命題を真正面から見据え決着をつけることなく、ついズルズルと現在に立ち至っているように思えてならない。

さて中野の旅に戻る。

 

 

あれほどまでに感激していた長江だが、「江上の景色と來ては、佳は佳なれど、來る日も來る日も殆んど、同一で、洋々の濁流と、廣芒の江面」と一向に変化ない景色に飽き飽きの風情。

 

 

加えるに変化のない食事である。

 

 

やはり「飯も汁も香物も」口に合わない。
《QED》
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