桃野雑派 蝋燭は燃えているか | 花の本棚

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本を選ぶときの参考になれば幸いです

桃野雑派 「蝋燭は燃えているか」
以前読んで面白かった「星くずの殺人」の続編が出ていたので買ってみました。

 


 
主人公の女性は殺人事件が発生した宇宙ホテルから帰還するときに行方知れずの友人に向けた動画配信をしたことでバッシングを受けていた。その影響で学校に通うことも困難になり、事件の加害者のように扱われることに不満を募らせていた。問題になった自分の配信動画を見直すと「まずは金閣寺を燃やす」とコメントが書かれており気になって金閣寺を見に行くと予告通りに金閣寺が燃えてしまい、しかも大勢の人の中に行方知れずの友人に似た人物を見かける。
その後も京都の観光地を燃やす犯行予告が配信動画のコメントに次々と投稿されていく、というお話。
 
前作の宇宙ホテルの話は本作では特に関係なくなっており、京都を舞台としたミステリー作品となります。
ミステリーとして非常に質が高い作品で面白いです。事件の真相に向けての伏線の張り方や繋げ方が上手いため、ミステリーが好きな方なら楽しめる内容となります。ただし警察が捜査をして物的な証拠がでてくるような描写はないので、自力で真相を推理しようとすると難しいでしょう。
また本作の副題として犯罪加害者とその家族がテーマになっているようでした。主人公は先の事件の被害者だったはずなのに動画配信のせいで加害者扱いになっていることについて、周囲の反応やどう立ち振る舞うことを望まれているのかを悩む描写は現代社会にも通ずるところがあるのかなと思えました。
こういった内容なので前作である「星くずの殺人」は読んでいなくても本作は楽しめます。前作の登場キャラが主役と言う点以外は物語的につながりも深くないですし、前作のネタバレになるような描写もありませんでした。あらすじに書いた動画配信のことや前作の登場キャラがいたりはするので、ちゃんと楽しみたいということであれば前作から読むと良いでしょう。
 
作中にて加害者だった人物が何かの被害者になることでバッシングされなくなる、という描写がありました。不幸に見舞われた人を追いうちするようで気が引けるという心理のようですが、私としては理解できませんでした。「それはそれ、これはこれ」としか思いません。
実際に私も会社で似たような場面に遭遇したので紹介しましょう。私が最初の配属で同僚だった氷河期世代の先輩Aさんがいました。詳細は省きますがAさんから色々されたために、私はAさんのことを「死んで欲しい」と評しています。Aさんはその後
精神的病気を患って休職 → 復帰したものの元の職場では働けず、もっと軽い業務の部署に異動 → その部署で一緒に働く方から「Aさんはいても役に立たない」と悪評されている(現在も)
と変わっていきました。この動きをリアルタイムで私は見ていましたがどのフェーズにおいても「Aさんには死んで欲しい」という考えは変わりませんでした。死に比べたら出来事が軽すぎて反応する気にもならないといったところでしょうか。この程度の小事で揺らぐくらいなら最初から「死んで欲しい」という邪悪なことは言わない、というのが私のポリシーです。
こういった実例もあるので「不幸に見舞われた加害者を追いうちするようで叩くのに気が引ける」を私が理解する日は一生来ないだろうと思っています。
 
作品全体の雰囲気は軽めで読みやすいため、気になる方は気軽にチェックしてみてください。