新川帆立 元彼の遺言状 | 花の本棚

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本を選ぶときの参考になれば幸いです

新川帆立 「元彼の遺言状」
以前話題になった作品を知り合いから譲り受けたので有難く読ませてもらいました。

 


 
主人公の女性弁護士は以前付き合っていた元彼が亡くなったと知らされる。彼は妙な遺言状を残しており、自身を殺害した犯人に財産を譲るという内容であった。それに従う形で彼の会社では「犯人選考会」が開催され、主人公の仕事は依頼人を犯人に仕立てあげて彼の財産を勝ち取ることであった。殺人犯に財産を譲るというのは表向きで本来の目的は彼の財産にある株式を誰に譲るかであると主人公は見抜くが、遺言状を保管した金庫が盗まれ保持していた顧問弁護士が殺害されてしまう、というお話。
 
このミス大賞を受賞したミステリー作品となります。
遺言や法律の取り扱いを交えたミステリー部分は非常に面白い。著者が弁護士なだけあってか説明も分かりやすいですし、真相とのつなげ方が上手いです。また法律面だけでなく登場人物たちがどういった人間性をしているかもミステリー部分では重要な要素になっているため、推理しながら読んでも楽しめる内容となっている点も見所になるでしょう。
本作の副題として「お金より大事なもの」があるようでした。お金より大事なものはないと主張していた主人公の考え方が変わっていく描写は本作の面白い点になるでしょう。自分にとってお金より大事なものって何だろうか、とつい読みながら考えてしまいました。
 
作中にて「ポトラッチ」という行為が紹介されていました。贈り物をあげることで相手側に何かを返さないといけないプレッシャーを与え、贈る物の価値を徐々に釣り上げていくことで相手を追いつめる行為、とのことです。
こういった行為(考え方)があるのを初めて知り、戦術としては非常に良いなと思いました。というのも自分が難なくできる行為を恩として相手に送り続けて圧をかけていく、というのは日常生活で有効だからです。私の職場ですとその業種になる人の人間性の傾向的に細かなことが苦手でだらしないタイプが非常に多いです。例えば毎週の当番制の業務をやり忘れる、そもそも次週の当番決めすら忘れて週明けの担当がいない状況になるという始末です。こういった細かな業務が苦ではないので私がやっておくのですが、ここで重要なのはそれを細やかにやるよう号令をかけた偉い人たちに見えるようにやることです。こうすると自分の主張を通したいなと思う場面が来た時に周囲が味方になりやすくなります。業種的に「忖度しない理論派」と自称する方々が多いはずなのに、こういったGive&Takeが通じてしまうというのが面白いですよね。
ちなみに贈り物として元の意味である金銭や高級品を渡すというのは最近話題のガールズバー殺人事件のように悲惨な出来事につながるのでやらない方が良いでしょう。
 
大賞受賞する作品なだけあって面白いので、気になる方はチェックしてみてください。