日本語教師界隈でわりと定期的に話題になるものがあります。それは、同僚を呼ぶとき「姓+さん」にするか、それとも「姓+先生」にするかという問題。

 

 正直どっちでもよくない?って人も多いかもしれませんが、気になる人は気になるわけで、それも自分が呼ぶときではなく呼ばれるときに気になるわけで、本人どうでもいいと思っていても相手がそう思わないタイプなら火種になったりもしますからね。

 

 朝からTwitter眺めていたら、今回は弁護士界隈でそういう話題が出ていました。というか、少し前の日本中世史研究者を中心とした炎上案件の時にもちらっと出ていたのですけど、男性の先生に対しては「先生」、女性の先生に対しては「さん」だったり、男性の先生には「さん」、女性の先生には呼び捨てだったりのような使い分けも世の中にはあったりするようです。使い分けは男女だけではなく、話し手より年齢が上か下かという年齢による使い分け、もしかすると日本人か他国出身者かというような出生による使い分けもあるのかもしれません。まあ、こういう基準で使い分けていたら、差別案件ですけどね。

 

 

 

 

 

 

 日本語の「さん」という敬称はなかなか特殊で面白いです。

 

①山田太郎さん

②山田花子さん

 

③山田さん

 

④太郎さん

⑤花子さん

 

 

 

 

 

 

①、②のように男性にも女性にもどちらにも使えます。ミスター〇〇のような敬称は男性にのみ使えるのように使用できる相手が限定されます。そういう意味では男女・年齢関係なく誰にでも使えるとても便利な敬称です。

 

③のように姓につけることもできます。

 

④や⑤のように名前にだけ付けることもできます。 ミスターとかだとミスター・ホワイトのように姓には付けられても、ミスター・ウイリアムのように名前のほう(本人のフルネームがウイリアム・ホワイトのように姓がホワイト、名がウイリアムの場合)には付けませんよね。

 

 

さらにです。

 

 

 

 

 

 

⑥ おさかなさん

⑦ ぞうさん

 

のように動物にも使用可能!!!!

まあ、一気に幼児語感が増しましたけどねアセアセ

さて、ミスター・エレファントとかいうんでしょうかね・・・アセアセ

 

 

 

 

お~さん、のセットと言えばこれもあります。

⑧ おとうさん

⑨ おねえさん

 

家族・親戚の呼称ですね。これは「とう」とか「ねえ」とか「さん」や「お」抜きにすると単語として成立しなくなるので、こちらはすでに「さん」が語の中に取り込まれて同化しちゃったケースですね。当然「ミスター・ファザー」とか…ないですねアセアセアセアセ

 

 

 

 

 

他の要素とくっついて同化して新しいものとして生まれ変わったケースでなくても、別の特殊なケースもあります。なんと、この「さん」無生物にも付けられるんですよね。

 

⑩ NHKさん

 

⑩のように取引先の会社名などに「さん」を付ける言い方ありますよね。

 

 

 

 

 さて。一方の「先生」。日本で「先生」と呼ばれるのは一般的に教師という職業についている人とか「士業」の人とか…。あとは芸術家とかですかね。

 この「先生」がつくところの線引きが意外とあいまいです。子供時に一番接する身近な「先生」は大体学校の先生なんですよね。だからか多くの場合先生というのは「何かを教えてくれる(自分が生徒・弟子みたいな立場の時に教授者の立場にいる)人」という認識になってしまいます。

 けどさ、漢字の文字を分解すると「先に生きる」程度の情報しか出てこないのよね。まあ、先達はあらまほしきことなり、なので先達は教え手になるし、見習う対象になるという意味では間違っていないのかもしれないけど「師」っぽさはそこにはないんですよね。

 

 まあ、なので、別に小説家や漫画家を目指しているわけじゃない人がリスペクトしている小説家や漫画家を「先生」付けで呼んでも別に構わないわけで…。

 

 ってつまり、一種の「先輩」みたいな感じ?人生の先輩だったりあるジャンルの先輩だったり??

 

 実はこの語彙、同じ漢字語が中国にも韓国にもあるんですよね。ほんで、中国語的な使い方だと単に成人男性への呼称「~さん」くらいの意味しかなかったりします。「師」の概念はなさそう…。相手へ敬意をこめて呼びかける時につける言葉。

 

 韓国語の場合は面白くて中国語的なニュアンスと日本語的なニュアンスが混ざっているイメージです。まあ、かの言語は肩書的な敬称を付けて呼びかけるのを非常に好むという特徴もありますからね。

 

 

 それでいくと、名前がわからない成人に呼びかけたり、その人とかなさなければならなかったりするときは「先生」が現れます。

これが意外便利です。

 大家さんが私に連絡くれる時(大家さんのほうが少し年上の女性・芸術家で大学の講師、 店子の私は入居したころは院生&大学講師で今は一応招聘教授って肩書になっている)、たいてい「エナ氏」か「先生」。韓国語で「〇〇氏」は実は自分と同等か少し下、会社だと役職のない新入社員レベルに使う言葉なので、場合によってはちょっと失礼になってしまう。「〇〇氏」に近い言葉で「〇〇ニム」という敬称があって、そちらだと「氏」より敬語の度合いは高まるけど、この場合はちょっとよそよそしくなるというか「お客 様」感が増してしまう…。というあたりでしょうか。

 

 そういう呼びかけで使われる「先生」は男女比だと男性に使われることが多いのは、おそらく前の時代の名残で、まあ、私に使われることもあるところを見ると男性専用の敬称ではないのでしょう。

その辺は中国語の「先生」の使われ方に似ているのかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「さん」と「先生」の最大の違いは文法的能力。「先生」はそのまま単体で使用できますが、「さん」は名前の少なくとも一部と一緒でなければ成立しません。

 

⑪ 山田太郎先生

⑫ 山田花子先生

⑬ 山田先生

⑭ 太郎先生

⑮ 花子先生

 

のように名前の一部や全部に先生をくっつけることもできますしただ「先生」と呼ぶこともできます。

 

さんは、⑪から⑮のような使い方はできますが「さん」だけで呼びかけることはできませんよね。相手の名前をちゃんと覚えていないときは「先生」って単語、すごく楽てへぺろ

 

 

 

 

 

 

  まあ、韓国語の場合「先生(선생)」のほかに「先生様(선생님)」があって、さらにいわゆる教育業従事者のばあい「샘」とか「教授(교수)」とか「教授様(교수님)」とかがあって、敬意の度合いというか社会的地位をどのくらいと見積もられているかが付けられた敬称でいちいち公にされるので、「先生」とついてるからいいとかそういうことでもなかったりするのですけどね。

 

 

  日本語のほう、これに付帯するものとして「さん」つけするか「呼び捨て」するか問題とかもあるし、呼称の問題って結構奥が深くて考えたり材料集めたりするのはとても楽しいです。