渋谷のオーチャード・ホールで、K-BALLET TOKYO の新演出「パリの炎」を見てきました。

 

パリの炎というと、回転最強系パドドゥは何度も見ましたが、全幕上演は来日公演のボリショイ・バレエ版と、ミハイロフスキー・バレエ版で1回ずつ。ボリショイ版はラトマンスキーの大改変バージョンで、ミハイロフスキー版はメッセレルのワイノーネン版原典回帰バージョンでした。

 

もともとは民衆の革命ものとして、ソ連の革命ものとフランス革命を重ね合わせて、ソ連ハラショー!のために作られたバレエなはずですが、ラトマンスキーはそこをひっくり返して、革命の狂気の怖さをテーマにしたんですよね。

 

ラトマンスキーは「明るい小川」でも、きっともともと共産主義農村ハラショーな作品を、徹底的にコケにしたバージョンを作っていて、見たときは驚きました。当時とはロシアも変貌していて、今大丈夫なのかな、でもボリショイでは普通に2作品ともやっているようですが。ラトマンスキーに無断で。

 

というわけで、熊川哲也さん率いるK-BALLETが「パリの炎」を新バージョンで作ると聞いたときは、ラトマンスキー版の改訂ぽいのかなと予想していたんですが、すみません、大胆な書き換えでもっと面白かったでした。

 

演出・再振付は宮尾俊太郎さん。宮尾さんの振付は前に見たときに、意外にいい(すいません)なと思ったのですが、今回もひっかかるところなく。というか、熊川さんと似て、人々の出し入れが上手いです。場面の運びや転換がスムーズだし、踊りのナンバーをしつこく長くしないし。

 

今回一番の変更点の、宮廷でマリー・アントワネットとルイ16世が踊る場面、いくつかのソロのバリエーションが魅力的に作ってあって、たいへん感心しました。アントワネットが大きな白い扇をもって踊るのなんて、とっても素敵🥰 アントワネット役の木下乃泉さんのタメの利く踊りに映えていました。

 

もともとは革命の民衆の活動と対比して、貴族たちの優美な場面が作ってあって、その場面で中心になるのは女優役でした。国王夫妻はでてくるけど見物するだけ。ミハイロフスキーのでは、女優さんはいつのまにか革命側で扇動しているというちゃっかりキャラでした。

 

ラトマンスキー版では貴族パートは、バロックオペラを上演している設定なんですよね。アルミーダとリナルドという、タッソーもののやつ。いかにもダラダラしたバロックオペラぽい場面になっていて感心しました。ただ、ボリス・アサフィエフの音楽が全然フランスバロックらしくなくて、そこは残念でした。

 

ジャンヌとフィリップ、アデリーヌとジェロームというふた組の恋人たちがいて、アデリーヌのお父さんのボルガル公爵と、ロベスピエールもなぜか出てきます。集団革命劇になっていて、見た日のジャンヌとフィリップは日髙世菜さんとゲストのドミトリー・スミレフスキーさんだったんですが、なんか見せ場が少なめです。例のパ・ド・ドゥは最後にでてきてコレデモカの盛り上がりですが、そのあとハッピー・エンドにはなりません。

 

「バスクの踊り」も、2幕の冒頭にもってきてロベスピエールが踊るという。この日は遅沢佑介さんでしたが、熊川哲也さんの役でもあるんですよね。なるほど~ 結果、フィリップはなんかワキで踊ってることになるんですが、スミレフスキーさんのボリショイ仕込みのバスク、ミリ単位にさすがでした~

 

そして、2幕は断頭台が重苦しく舞台にのしかかります。ここにいるのがサンソン。安達正勝さんの著書から坂本眞一さんの漫画「イノサン」に続いて、稲垣吾郎さん主演の舞台「サンソン ルイ16世の首を刎ねた男」につながっていまして、稲垣さんの舞台はもちろん何度も見ましたです。長髪にレースの袖口、紅い手袋の優美な処刑人でした。

 

Kバレエのサンソンも、黒髪ストレートの長髪に、ケープコートのすらっとした姿で期待通り。中井皓己さんは踊りませんが動きもスキがなくて美しかったです。

 

稲垣さんの「サンソン」は中島かずきさんの書下ろし脚本だったのですが、若き日のキレ者な姿から、最後は皇帝になったナポレオンをうまく出して、作品のアクセントにしていたんですよね。こんどの「パリの炎」でもナポレオンが活躍して、切り口に共通点を感じました。

 

最近退団者が多かったKバレエなんですが、今回おもな役で活躍したのは若い方が多かったのでしょうか。ナポレオンの山田博貴さんとアントワネットの木下乃泉さんが気になりました。

 

美術・衣装もやりすぎず美しくて、時間も50分プラス50分の2幕ものでちょうどよくて、ホント大成功でした。見た日の舞台は撮影していて、映像配信になるそうです。配信といえば、今夜から新国立劇場バレエ団の「くるみ割り人形」も半年間の配信がはじまります、楽しみ。

 



 

 

 

 

 

 

5月31日日曜日の夜、MoN Takanawa:The Museum of Narratives の劇場BOX1000で開館記念プログラムとして上演された、バレエ「アレコ」を見てきました。

 

もともとのバレエ「アレコ」は1942年にメキシコで初演、続いてニューヨークのメットで上演した作品で、マルク・シャガールの美術にレオニード・マシーンの振付、原作はプーシキン。音楽はチャイコフスキーのピアノ三重奏曲イ短調Op.50、というものだったそうです。このとき作られた、シャガールによる巨大な背景画が美術品として、青森県立美術館にあるのでした。

 

青森県立美術館が、NBAバレエ団に依頼して、今度のプロジェクトができたそうで、2024年の青森初演のときは東京からツアーを組んでバレエファンが駆けつけていました。振付が宝満直也さんなので見てみたかったのですが、高輪で見られました。

 

ストーリー展開と音楽はそのままで、宝満直也さんがリメイクした1時間弱の舞台でした。バレエがはじまる前に20分ちょっとの映像があって、シャガールの紹介を中心に、インタビューやリハーサル、背景画の撮影をしたキヤノンの方の話、などが流れました。

 

ペテルブルクの都会生活に倦んだ青年アレコが、自由なロマの生活に憧れて行動を共にして、ゼンフィラと恋におちますが、奔放なゼンフィラは新しい恋人を作り、捨てられたアレコが錯乱の末、恋人の男もゼンフィラも殺してしまう、というお話です。プーシキンの「ジプシー」が原作です。

 

チャイコフスキーのピアノトリオはオーケストラに編曲されて使用、初演当時のオーケストレーションは残っていないので、新たに編曲したそうで、録音でしたが贅沢。

 

主人公アレコは、大川航矢さん。前半はコーダ10コ分?くらいの超絶技巧で踊りまくり、後半は狂気の迫力で圧倒しました。540のジャンプがちゃんと「表現」になっている、強烈に役を生きるダンサーさんで、新しい劇場、なじみの薄い作品ですが観客を引きずり込んでいました。

 

ヒロインゼンフィラは勅使河原綾乃さん。こちらも超絶技巧で、ことさらに女性らしさを振りまくより、動きそのものでファムファタルな魅力でした。

 

ゼンフィラの恋人になるロマの若者は新井悠汰さん。ゼンフィラとデュエットが情熱的なのがサマになっててよかったです~。

 

女性8人男性8人子役2人?な小規模なアンサンブルでしたが、よく踊って、というか踊りまくってキレがよく、NBAバレエ団の実力がさすがでした。

 

宝満直也さんの振付がやっぱり非凡でした。動きはほぼ純クラシックで、ロマの人たちがいるので民族舞踊系の踊りも。主人公アレコがソロで踊るところがとても多かったのですが、変化にとんで、というか容赦なく踊りに踊りまくっていて、いいのかwという。アンサンブルは総踊りも、2人3人の組合せで踊るのもどれも楽しかった~。チャイコフスキーの音楽をよく使っていて、モチーフの繰り返しと物語の展開の合わせ方が上手いんですよね。

 

宝満さんの振付がどれもよくて、嫉妬するところ、破滅していくところと動きのセンスも抜群で、あっという間の1時間でした。シャガールのイメージは後半に行くほど大きくなっていったかも。

 

あと、宝満さんの振付は、音楽のフレーズの終わることろに、もうひとつアクセントが来るんですよね。振付って拍やメロディーのはじまるポイントで動きが始まることが多いと思うのですが、そこからすっと別の動きが足されるというか。すごく魅力を感じます。

 

いろいろ制限があるだろうなかで、衣装もがんばっていましたが、背景画がもうひとつの主役とはいえ、舞台にイスとか草とか、そういうのがちょっとあってもよかった気が。でもシャガールと対抗する道具だては大変すぎるかしら。作品としてはレトロな感じですが、成功した新作でした。改めて、美術館主導でこのバレエが生まれたのって、凄いことですね。いつか青森で再演があったら、そのときは行ってみたいです。



 

 

 

5月の日曜日、横浜の「Arch M Ballet Studio Sakuragicho」で、ちょっと変わったスタジオ・パフォーマンスがありました。「白鳥の湖」から、2幕のグラン・アダージオと3幕のグラン・パ・ド・ドゥを、衣装をつけて、スタジオで目の前で披露してくれるというもの。出演は木村優里さんと渡邊峻郁さんでした。

 

「Arch M Ballet Studio」は新国立劇場バレエ団で活躍された、寺島まゆみさんが主宰なのだそうで、一報を聞いてどういう催し?と思いましたが、充実の時間でした。

 

スタジオの壁と鏡にはりつけるように用意された椅子に座って、木村さんと渡邊さんが踊るのを見ました。あまり近いので焦りましたが、作品の世界がすぐにできて、集中できたのは、さすがなおふたりでした。

 

バレエは衣装もきらきらしてたり、優美な古典なのですが、近くで見たらおふたりの筋肉が、量がある(笑)というか、みっしりした質感で驚きました。ほっそりと手足が長いコンビですけど、中身が濃いのですね~

 

優里さんは3年ほど前の骨折・休演から、以前とは違うトレーニングをされたのか、体格が変わってまさに充実期というか。白鳥の肩づかいもとてもステキなんですよね。あと近くで見るとお顔が美しすぎて、どうしてもそちらに目がいってしまいます💦

 

至近距離の峻郁さんは筋肉の迫力というか、しなやかで力強くてさすがでした。コンテ系の苛烈なリフトに耐えるのは、やっぱりこれだけのパワーなんですね。で、目の前で、はずみをつけるとか反動とかなしに、いきなり跳んだり回ったりするのが不思議な感じでした。バレエはもともとそういうものなのでしょうが、突然体内から動きが生じる感覚なんですよね。目の前30センチのところで、王子さまが突然起爆して華麗な踊りに入っていくのに、ドキドキしました。

 

スタジオは広くてきれいだったのですが、面積のわりに高さがなくて、峻郁さんは跳びあがって何度か手先を天井に当てていました。タン、と音がして見ているほうがどよめいたり。

 

白鳥の湖のふたつの踊りを披露したあとは、質問コーナーでした。事前に立候補した5人の方たちが、上手な質問でいいお話が聴けました。

 

質問されるたびに、どちらが答える?と、いちいち顔を見合わせていて、顔のあうタイミングがぴったりなのに感心したり。さすがの相棒というか相方感というか、ほほえましかったです。お答えは的確でおふたりの知的な話しかたも素敵でした。役づくりのリサーチは、ふたりとも徹底的になさるタイプのようで、いちどそういうお話をしているところを聞かせてほしいですね。

 

最後は、ほぼ全員がサインをしてもらってなごやかに終了。座っていた椅子も自分で片付ける峻郁さんでした。

 

ファンミーティングみたいなのかな、と思いつつ伺いましたが、もっと充実した時間でした。寺島まゆみさんは現役時代も拝見していましたけど、こういう機会を作ってくださってありがとうございました。

 

ゆりたかコンビはやっぱり素敵でした。いつもこの2人でというわけにもいかないでしょうが、こんななにもかも似合う組み合わせはめったにないですよね。これからも楽しみに追いかけたいです。



ウェイン・マクレガーと英国ロイヤル・バレエによる「ウルフ・ワークス」、ロンドンの今年2月の上演がシネマになったのを見てきました。

 

2015年が初演だそうで、すぐ2017年に再演、あのときシネマに登場したのは、その再演のときの映像なのだそうです。映画館で見てすぐ夢中になりました。そのあとも再演されていて、ロンドンの劇場で見てみたいと憧れましたが、初演のキャストの映像があるからいいか、など思っていました。

 

初演から10年以上たって、映画で見たナタリア・オシポワ、やっぱりちょっとふっくらが目立ちましたが、踊りの能力が凄かったでした。表現も刺さるような強さ。ちょっと躊躇した今回の上映でしたが、よかったでした。

 

魅力のある作品なんですよね。ヴァージニア・ウルフの「ワークス」をひと幕ずつとりあげて、それぞれの幕のコントラストも鮮やか、表現もわかる、以上に心に飛び込んでくるようです。衣装と装置、照明や映像の特殊な効果、どれをとっても大胆で繊細でほんとに美しいです。こんなになにもかもが最高にかみ合うことってあるものなんですね、奇跡のような傑作。

 

2011年に「不思議の国のアリス」、2014年に「冬物語」、2015年に「ウルフ・ワークス」と、そのあと再演され、他のバレエ団でもレパートリーに入るような全幕ものが次々と生まれていたこの時期のロイヤル・バレエ。カール・リヒターにジョビー・タルボットと、音楽を書き下ろして作品ができているのがスケールが違うというか。今回は2バージョンめの映像の「ウルフ・ワークス」を見て、神がかった傑作なのにあらためて驚きました。

 

映画の「めぐりあう時間たち」の影響もあるのかな、と思っていましたが、そもそもマイケル・カニンガム「THE HOURS」という原作があるんですね。ヴァージニア・ウルフを何層にもとらえる見方が、ダンスの世界にも影響を与えたのか、そしてぴったりはまったということなのでしょうか。ウルフの小説、読んでみなくちゃと買いあつめていてそのまま💦今度こそなんとか。

 

ウィリアム・ブレイスウェルがたいへん美しくなっていたし、金子扶生さんのオーランドーはほっそりかっこよくて、両性具有の主人公にぴったりでした。高田茜さんは唯一?初演の役で、マクレガー踊ると抜きんでたものがありますよね。前田紗江さんもいい踊りでしたし、日本のダンサーさんの活躍が目立ちました。

 

1部の三つのおおきなワクの、質感と色合い、照明の繊細さ。2部はもう世界一カッコいい舞台とはこのことでしょう。エリザベス朝な衣装も最高です、どんどん脱いじゃって残念すぎる。3部は群舞の表現力も素晴らしくて、音楽、衣装、振付の切ない美しさで究極のエピローグでした。

 

令和8年5月の文楽東京公演は、「二人禿」をスターターにして、第1部と第2部にまたがる「生写朝顔話」の通し上演を見ました。禿の門吉門秀さん踊りのかたちがよかったです。

 

「朝顔日記」ともいわれて、名場面は断片的に見たことのあるお話だったんですが、通しで見たらちょっとアレでした💦 ヒロイン深雪は恋焦がれる相手がいるのに縁談が来たので出奔します。ですがその縁談の相手「駒沢次郎左衛門」とは、恋する「宮城阿祖曾次郎」が、おじのもとに養子縁組して、名前が変わったというその人だったのです。

 

宮城が駒沢じゃ全然違う名前だし、写真もないしw確かめようもないのですけど、養子になって名前が変わったのですれ違いになってしまったというのは、お芝居の展開としてあんまりじゃないでしょうか。それで深雪はお屋敷を出たあげく目が見えなくなって、瞽女として厳しい境涯になってしまうんですよね。いやちょっと落ち着いて調べたらよかったのでは、可哀そうだけどそれにしても、です。

 

オペラは歌の聞かせどころを、バレエは踊りの見せ場を、それぞれ作るためにお話しがトンチキでもいいじゃないと思うほうなんですが、これはちょっと、とさすがに。

 

それでも「生写朝顔話」が上演されているのは、いいシーンがあるんですよねやっぱり。和生さんのあそじろーさんは超美男らしいたたずまいで、冒頭の、ホタルと川舟はロマンチック、舟はもう一度でてきて、大道具のダイナミックな転換に扇を投げ入れるスリルもあって見栄えがします。

 

医者二人のダメな陰謀家ぶりもよくできていて、おかしいんですよね~。お話がはじまったとき、なんでこんなアホ演目をと思ったのですが、今の文楽の一座が適材適所で、なるほどこれを企画したのはわかりました。

 

あと、通し狂言だとどうでもいい説明場面もやるので、若手の太夫三味線が場面をもらえるのですよね。小住大夫と友之助のコンビとかををっと思いました。硯太夫勘太郎というのもありました、うんと若い世代の太夫さん、声のいい方が多いです。小住大夫は床にいるたたずまいが立派になってびっくり。

 

ヒロインは簑二郎さん、勘彌さんとダブルキャストの最終日でした。よく動いてよかった~、乳母浅香の勘彌さんも刀の似合うかっこよさ。下女で一瞬でてきた和馬さんが、てきぱきとしてとっても上手かったのもよかったです。

 

有名な笑い薬の段は、千歳太夫と勘十郎さんのそろい踏みで、おふたりのピークが一致感があって、怒涛の面白さでした。日曜日ということもあって、1010シアターで見たことがないくらいの大入りでした。勘十郎さんの萩の祐仙は、袱紗をさばいて茶器をあらため、茶筅通しもして、手さばきがキレイなのに笑いをとっています。文楽のお人形さんは、右手と左手は別な人が遣うので、お点前をするのは超絶技巧なんですよね、スゴイ。

 

国立劇場があんなことになって、文楽の東京公演はさすらいの日々なのですが、北千住はわたしは好きで、今回も楽しく見ました。みなさんなんとなく逞しくなったようにも見えます。11時から夕方6時まで、休憩もほんのわずかで長期戦でふらふら。毎日出ていらっしゃる技芸員さんたちは凄い…。