NDT、ネザーランド・ダンス・シアターの来日公演は、7月5日の神奈川県民ホールの回を見に行きました。演目は5つ、そのうち3つを色々な組み合わせで上演するというツアーで、5日はガブリエラ・カリーソの「ラ・ルータ」と、マルコ・ゲッケの「アイラブユー、ゴースト」と、クリスタル・パイトの「ソロ エコー」というプログラムでした。

 

最初の「ラ・ルータ」はバス停留所につどい、すれ違う人々のスケッチというか、マイム劇な30分もの、展開は異常。大きな事故音のあと、ねじれたように横たわる人が登場したり、動物から取り出した心臓を自分に埋め込もうとする人がいたり。その特殊な感じが、凄い身体能力のダンスで表現されて行くのでした。

 

山岸凉子さんの作品に、命を失ったけれど自覚がなく、現実の世界で普通に振舞おうとするけれど、当然ずれていくというような内容を扱ったものがいくつかあるのですが、公演が終わって家に帰ってきてから、この作品はそういうものだったのかもと思って、色々と腑に落ちるというか、見ているあいだに気がつきたかった。逢魔が辻なルータ、照明づかい、歪んで聞こえるショスタコーヴィチと、舞台づくりがさすがでした。

 

「アイラブユー・ゴースト」はマルコ・ゲッケ。ハリー・ベラフォンテの歌う「トライ・トゥ・リメンバー」と「ダニー・ボーイ」にはさまれて、ヒナステラ、ヴァインベルク、ラウタヴァーラの音楽が使われていました。思い出してごらん、という歌詞とダンスの内容は呼応していたのでしょうか。途中のオーケストラ曲は20世紀の作曲家たちで、その現代でもなく王道クラシックの時代でもなく、な微妙な音楽のノスタルジーとゲッケの振付のギャップも面白かったです。

 

新国立劇場の「バレエ・アステラス」で、2022年に、刈谷円香さんとルカ=アンドレア・テッサリーニさんが出演して、ゲッケの「Walk the Demon」を踊ったのですよね。おふたりとも今回のゲッケにも出ていて、思えば贅沢なことでした。

 

この作品も、次のパイトの作品も、衣装は男女共通で、動きの役割も同等。現代ものだとデュエットで女性の持ち上げパターンのバラエティを競うような作品も多いのですが、そうすると男性は持ち上げ係だけで終わってしまうことも多いのですよね。今回のプログラムみたいに、男性の踊りがたくさん楽しめる傾向に移っているのだったらそっちがいいなあ。

 

最後のクリスタル・パイトの「ソロ エコー」は、ブラームスのふたつのチェロ・ソナタから、冒頭楽章と緩徐楽章を組み合わせた作品でした。

 

これ、1番の第1楽章の部分が凄かったでした。惜しげなく出てくる動機を2人ずつ、次々に出てきて担当するのですが、どの音も余すことなく使いきって、動機と動機のつなぎ目の、次の組の出てきかた、とか絶妙で、音楽とダンスというか、ブラームスがこうなのか、というか。パイトホントに天才だわと震えました。

 

7人が群舞になって踊る次のパートは普通でした。最初が凄すぎて普通に見えるというか、わかりやすく切ないのですけども。

 

ふつうカンパニーに1人が2人いるかな、な能力のダンサーが27人そろっているNDT1で、どの一瞬も異次元の動きが満載で、感覚がバグってしまいそうでした。今まではひとりの振付家がカンパニーを育てて大きくする例が多かったのですが、今の阿蘭陀舞踊団(というTシャツが売ってました)のような、振付家に依頼していくスタイルで、凄腕ダンサーが世界中から集結しているというのは贅沢ですよね。日本で、こういう舞台が見られてよかったでした。