昨日(8月28日)、アメリカ・ワイオミング州ジャクソンホールでの経済シンポジウムにおいて、FRB(Federal Reserve Board:連邦準備理事会)のケヴィン・ウォーシュ議長が、「We must be confident that underlying inflation is moving to our objective, clearly and at sufficient speed. Otherwise, we have work to do.(物価が目標の2%に近づかなければ、やるべき仕事がある)」と9月15日~16日のFRB(Federal Reserve Bank)のFOMC(Federal Opem Market Committee:連邦公開市場委員会)での政策金利の引き上げを示唆しました。

 これを受けて、為替市場では、ドル高に動きました。また、その反作用で円安に動き、1ドル=160円に到達しました。

 

 アメリカのトランプ大統領は、前任のパウエル議長に対して金利を引き下げないことに不満を言い、さらには刑事訴追までちらつかせて脅していました。そうした経緯の上でのウォーシュ議長がFRB議長に就任しましたし、トランプ大統領はウォーシュ議長に対しても利下げを求める発言をくり返ししているので、ウォーシュ議長はトランプ大統領の意向を汲んで金利引き下げを進めるのではないか、との見方がありました。

 一方で、ウォーシュ議長の過去の言動をみると、かならずしも金利引き下げ一辺倒ではなく、むしろオーソドックスな経済学に基づく金融政策を重視するような発言をしてきました。例えば、コロナ禍での経済対策としてFRBがアメリカ国債の買い入れを行い保有残高が膨らんでいましたが、ウォーシュ氏は、「FRBのバランスシートは大きすぎる。危機時以外は国債・MBSなどの保有を減らし、政策金利を金融政策の中心的な手段に戻すべきだ」との趣旨の発言をしていました。つまり、ウォーシュ議長はトランプ大統領が期待するような利下げ一辺倒のハト派ではなさそうです。

 

 そこで、ウォーシュ議長がどのような金融政策を行うか、ということで注目されていたのがジャクソンホールでの経済シンポジウムの発言です。 桜井シュウは、ウォーシュ議長の発言は至極もっともと思いましたが、当然の道理が通らないのが昨今のアメリカ政治です。その中でFRBが独立性を堅持して、道理を通すことを期待して見守ります。

 ウォーシュ議長の利上げの示唆は、トランプ大統領の考える政策とはほとんど真逆です。トランプ大統領がどのように反応するかに注目です。

 

 ちなみに、ウォーシュ議長の金融政策は、ベッセント財務長官の財政政策とも逆の方向を向いているようにみえます。この点は明日のブログで申し上げます。




 経済産業省が海外需要開拓支援機構(クールジャパン機構)の来年度(2027年度)予算を要求しない方針との報道がありました。クールジャパン機構は、日本文化の振興につながるサービスや商品の海外展開を目的に2013年に設立された官民ファンドです。官民ファンドと言っても、約1,500億円の出資金のうち9割以上を政府が出資しており、実質は官製ファンドでした。

 運営は当初の目論見通りにはいかず、2025年度までの累積赤字が540億円となっていました。

 

 クールジャパン機構については、大きく報道されていますが、実は、海外交通・都市開発事業支援機構(JOIN)という国土交通省系の官民ファンドも大赤字です。官民ファンドといっても、約2,846億円の出資金のうち約98%が政府出資ので、実質は官製ファンドです。累積損益が955億円(2023年度末)になり、改善計画を実施中です。

 

 クールジャパンは、マンガやアニメなどの日本の得意分野を取り扱っていたはずです。それでもこれだけの巨額の赤字でした。

 海外交通・都市開発事業支援機構は、交通事業や都市開発など日本の得意分野を取り扱っているはずです。例えば、日立製作所は海外での鉄道事業を大きく伸ばしています。しかし、官製ファンドでは結局、上手くいかないということでしょう。武士の商法という言葉は、明治維新後に職を失った旧武士(士族)が慣れない商売を始めて失敗したこと、また商売のやり方が下手であることのたとえです。役所の商法も同様のことが言えるのではないでしょうか。

 

 さて、高市内閣が掲げる「日本成長戦略」では、17分野に官民合わせて370兆円の投資を計画しています。

 クールジャパン機構が失敗した分野は、「(17)コンテンツ」として盛り込まれています。また同じ失敗をするのでしょうか?しかも金額はクールジャパンの1,500億円よりもはるかに大きい33兆円の見積もりのようです。

 また、「(6)航空・宇宙 ①民間航空機」は2000年代に経済産業省の肝いりで進めたMRJ(三菱リージョナル・ジェット)はアメリカでの型式証明が取れず失敗に終わりました。一方で、日本政府が全く関与しなかったホンダジェットは2017年以降、小型ジェット機カテゴリーで販売数世界一となるなど成功しています。

 

 結局、政府が関与した民間事業は、上手くいかないことが多いです。同じ失敗を繰り返すのではないか、心配です。そして、失敗したときのツケは国民が税金で払うことになります。

 議長・副議長ポストをめぐって金銭授受の疑惑が指摘されている福岡県議会において、渦中の蔵内勇夫議長が議長のみならず議員も辞職することを表明しました。

 これまで、議員辞職は否定していたので、議員辞職の表明には驚きました。今後は、第三者委員会が設置されて、真相を究明することになります。蔵内議長は金銭授受を否定されているようです。やましいことがないならば、堂々と議員を続けて第三者委員会などで説明すればよいと思います。が、辞職されるということならば、やはりやましいことがあるのであろうかと邪推してしまいます。

 報道では議員辞職の理由として「若い議員に迷惑をかける」とのことですが、これでは金銭授受があったのかなかったのか、何が真相なのかさっぱり分かりません。今の時点においては、真相を明らかにしないことこそ、迷惑なのだと考えます。

 また、多額のお金を支払ってまで議長をやりたいのか、そんなに議長職とは美味しいものなのか、と県民に思われてしまいます。

 

 私自身、伊丹市議会議員のときには、当時最大会派の代表者として議長選挙に向けての会派間の交渉を担当したことがあります。結局、わが会派から議長を輩出することができましたが、金銭の授受は全くありませんでした。

 トランプ大統領は昨年1月の大統領就任以降、カナダに対して高率の関税を課すと繰り返し発言していました。今回、8月22日からアメリカ政府は500品目に及ぶカナダ産の製品に50%の追加関税を発動しました。また、トンランプ大統領は、現時点では対象となっていない自動車にも2027年1月から50%の関税を課すと表明しました。

 これに対して、カナダのマーク・カーニー首相は、カナダ人の利益を守るとして報復関税を課すことを表明しています。

 

 そもそもアメリカの対カナダの貿易赤字は、原油と天然ガスでできています。アルバータ州の油田・天然ガス田からパイプラインでアメリカ中西部に直接送られています。もし、このエネルギー供給が滞ったり、価格が上昇すれば、アメリカの中西部はたちまち干上がってしまいます。カナダのカーニー首相は、トランプ大統領に対抗するために、アメリカ一辺倒の経済体制を転換して、多角化を進めています。石油・天然ガスは、これまでもっぱらアメリカに輸出されてきましたが、アジア向けにも輸出できるように太平洋側に輸出基地を建設しています。カナダ西海岸から日本までタンカーで約10日ですので、実は中東よりも近いです。中東依存を減らす意味でも、日本もカナダのエネルギーの購入を進めるべきでしょう。

 となると、カナダは割高なアジアの石油価格・天然ガス価格と天秤にかけて、アメリカへの輸出価格を引き上げることになるかもしれません。アメリカ経済には大打撃です。

 カナダにとって、アメリカは大きな存在ですから、アメリカと対立すれば無傷ではいられませんが、アメリカも相当のダメージを受けます。

 

 振り返ってみれば、トランプ大統領は、去年は中国に関税引き上げでケンカを売ったものの、レアアース・レアメタルの輸出(中国→アメリカ)を止められたり、大豆・トウモロコシの輸入(アメリカ→中国)を止められると困ってしまって、結局はゴメンなさい状態になりました。

 今年2月末にイランに攻撃をしかけましたが、ホルムズ海峡閉鎖という逆襲を受けて、すっかり弱っています。抜け出そうにも抜け出せなくなってしまって、どうにもならなくなっています。

 今度はカナダと喧嘩するのでしょうか。トランプ大統領に分が悪いと思います。

 アメリカ財務省は8月19日にアメリカ国債の買い入れ消却(バイバック)を1回あたり20億ドルから40億ドルに倍増すると発表しました。超長期債(10年超)の中には流動性が低くなっている年限のものがあります。そうした売買しにくい国債を政府が買い戻すことで債券市場の円滑化を図るということで、バイデン政権のときのジャネット・イエレン財務長官のときにスタートしました。

 当時、民間人であったベッセント氏は、バイバックに批判的でした。バイバックは、財務省が超長期債を買い戻すことで長期金利を引き下げることはできますが、その購入費は短期債を発行して賄うので政府の資金調達のサイクルが短くなる(時間の利益を吐き出す)ことになります。長期金利を引き下げられれば、住宅ローン金利の引き下げにつながり、景気を刺激できますが、金融政策を政治的に利用することには批判的だったように記憶しています。また、政府による人為的な金利のコントロールは短期的には可能であったとしても、そのうちに効果は消えてゆきますし、結果、短期債が増えて国債の借り換え頻度が高くなるので、後々の金利上昇を引き起こすリスクが高まるのでサスティナブルではありません。

 

 はたして、ベッセント財務長官は、11月の中間選挙に向けて、ご自身が批判していた政策を繰り出すことにしたのでしょうか。トランプ大統領は、金利は低い方がよいと思っているようですが、この半年は超長期国債(30年物)の金利はむしろ上昇しています。

 そもそも、アメリカの財政は、どんどん厳しくなっています。トランプ関税は最高裁で無効とされたので、納税者(輸入企業)に払い戻す必要があります。トランプ減税は継続しています。イランへの攻撃で軍事予算は膨張しています。年間の歳入が5兆ドル超に対して歳出が7兆円ドル超ですから単年度の財政赤字が2兆ドルに達しています。日本の国家予算の2倍の額ですから途方もなく大きいです。累積では40兆ドルを超えました。この財政赤字は赤字国債の発行によって埋められることになりますが、2兆ドルもの赤字国債を誰が買うのかというのが大きな問題になります。

 財政規律が緩んでいることが、金利上昇の根本原因です。ですが、トランプ大統領に歳出削減と増税を切り出すと、テレビショーの如く「you're fired!(お前はクビだ!)」とされてしまうかもしれないので、ムリなのでしょう。

 

 7月末には、日本円の為替介入を日本とアメリカで協調して実施しました。トランプ大統領の発表では、「Japan's been very good to us, with the exception, of course, of Pearl Harbor(日本は我々にずっととても良くしてくれた、もちろんパール・ハーバー以外は)」と言っていて何が本当なのかはよく分かりませんでした。が、日本が日本円の通貨防衛のための為替介入の原資にアメリカ国債を売られるとアメリカ政府が困るから、協調介入に応じたのではないかとの見方があります。

 

 ベッセント財務長官は、アメリカ国債の債券価格の暴落を食い止めるために、本筋の財政再建ではなく、為替介入やバイバックなどサスティナブルでない政策を連発しています。焦っているようにみえますし、ご自身の在任期間中には金融危機が起きないように抑え込んでいるようにも見えます。

 サスティナブルでないことはベッセント財務長官ご自身がよく理解されているでしょうから、11月の中間選挙の後に辞任するかもしれない、と邪推してしまいました。アメリカでは大統領の任期の折り返しである中間選挙直後に交代することはよくあることです。

 今秋の中間選挙において上院で共和党が過半数を割ると閣僚の議会承認が難しくなります。当選者の任期がスタートする来年1月の前に後任の財務長官を承認できるようなスケジュールがあり得るかもしれないと妄想しました。

 昨日(8月20日)のブログで、国際刑事裁判所(International Criminal Court:ICC)の赤根智子所長に対するアメリカ政府の制裁について、日本政府がアメリカ政府を非難するとともにアメリカ政府に制裁の撤回を求めることを提案しました。

 制裁は、本当に実行されればご本人は生活が厳しくなります。アメリカでビジネスをやっている企業は、制裁対象者と取引してはいけない、つまりサービスを提供できないということです。取引するとアメリカ政府から罰せられることになります。アメリカ企業はもちろんのこと、アメリカ企業以外(日本企業など)でもアメリカでビジネスをしている企業はたくさんあります。そうした企業もサービスを提供できなくなるということです。具体的には、クレジットカードは使えず、銀行取引もできなくなります。過酷ですので、即時撤回を求めなければなりません。

 

 高市総理は、ぶら下がり会見で、「大変残念」と発言。この「残念」ですが、日本語で聴いても他人事のようですが、英語でどのように翻訳したかも重要です。総理官邸のホームページの英語版では「very unfortunate」となっていました。残念はregrettableと翻訳されることが多いです。regrettableには相手の行動を認めない、つまり非難の意味が含まれます。一方で、unfortunateは、辞書的には「残念」とありますが、非難の意味はありません。むしろ「不運」というような他人事になってしまっています。これではダメです。いつも強い言葉で発信する高市総理ですから、ここはちゃんと非難すべきところです。

 

 そもそも日本政府は、第二次安部内閣以降、法の支配など普遍的価値を軸とする外交と言ってきました。法の支配のかなめの一つがICCです。

 日本と同様に、法の支配など普遍的価値を標榜する欧州連合(European Union:EU)はアメリカの制裁について「deeply regrets(極めて遺憾)」「ICCに対して、full support(全面的に支援)」と発信しています。日本はICCの加盟で所長を輩出するなど中心的な役割を果たしてきたのですから、他人事のような発言ではなく、引き続き法の支配の実現のために役割を果たすこと、そのためにICCとICC赤根所長を支援することを明確に発信すべきです。

 

 そもそも、赤根智子さんがICC所長に就任したのは日本政府からのたっての依頼があってのことです。ご本人は当初は固辞していたと言われており、そこを日本政府が繰り返しお願いして赤根智子さんを口説き落としました。 赤根所長がICCの役割をきっちりと果たしてきたのに、赤根所長が厳しい状況になったときに何の支援もない、梯子を外すのは酷いです。これでは、日本政府に頼まれても、引き受ける人はいなくなります。

 さらに、高市総理は、今年(2026年)の1月にICC赤根智子所長と面会しています。そのとき、高市総理は赤根所長に対して「日本人のICC所長として責務を果たしている赤根所長に敬意を表する、厳しい国際情勢の中であっても、日本は法の支配を重視しており、ICCがその役割を果たせるよう、日本政府としてICC及び赤根所長を力強く支援していく」と述べました。高市総理は言ったことはキチンとやるべきです。

 

 高市総理は、年初の衆院選で国の究極の使命として「国民の皆様の生命と財産を守り抜く」と演説しました。赤根智子所長は、日本政府のたっての依頼で国際社会の方の支配のために力を尽くしてきた日本人です。ですから、国民である赤根所長の財産をアメリカ政府からキチンと守って下さい。




 8月18日にアメリカのマルコ・ルビオ国務長官がICCの赤根智子所長とSenior Trial LawyerのAbdoulaye Seye氏を制裁対象に指定したことについて、桜井シュウは、厳しく抗議するとともに、即時撤回を求めます。

 とブログで日本語で叫んでも、屁のツッパリにもならないかもしれませんが、自らの考えはハッキリさせておきます。

 

 国際刑事裁判所(the International Criminal Court:ICC)は、パレスチナ・ガザ地区での戦闘における虐殺についてイスラエルのベンジャミン・ネタニヤフ首相を含む5名を戦争犯罪として2024年11月に逮捕状を発行しました。これに対して、アメリカ・トランプ大統領は、ICCのネタニヤフ首相への逮捕状発行に反発し、2025年2月にICCに制裁を課す大統領令に署名しました。そして、8月18日にアメリカのマルコ・ルビオ国務長官は、ICCの赤根智子所長とSenior Trial LawyerのAbdoulaye Seye氏を制裁対象に指定しました(出典:アメリカ国務省)。

 

 国際刑事裁判所は、二度の世界大戦で発生した戦争犯罪や旧ユーゴスラビアやルアンダなどでの大量殺戮などを踏まえて、戦争犯罪を裁く常設の法廷が必要であるとの考えに基づいて2003年に設置されました。常設の法廷というのは、戦争犯罪を行えば裁かれる可能性がある、ということで、横暴な政治リーダーを牽制する意味があります。

 日本は2007年に加盟しています。現在の赤根所長は名前から推測できる通り日本人です。

 第二次安倍内閣以降、日本の外交方針として、人権、民主主義、法の支配といった人類普遍の価値(universal value)に基づく外交を展開してきました。ICCは普遍的価値を担保する仕組みとして必要不可欠です。普遍的価値を尊重する我が国として、ICCの機能を維持すべきです。日本政府は「残念(regrettable? unfortunate?)」と言っていますが、明確に非難(condemn)することを日本政府に求めます。

 昨日と一昨日に続いて、「『アメリカの戦争』と世界危機」のポイントを抜き書きします。本日は、国際法に基づく国際秩序についてです。

 

 「『ルールに基づく国際秩序(the rules-based international order)』という標語が、これほど空虚に響く時期はない。」ウクライナ、パレスチナ、ベネズエラ、イランを巡る混迷は、「冷戦後の国際社会を支えた構造全体の崩壊を告げている。」「『ルールに基づく国際秩序』がそもそも誰のためのものであったかという根本的な疑義である。冷戦後、この概念を意のままに操作する特権は、アメリカと同盟国など一部に握られてきた。そこには普遍的規範の価値中立的な適用ではなく、自己(North)の権益を囲い込み他者(South)を締め出す政治が働く。その瞬間、『規則(rule)』は『支配(rule)』へ、『秩序(order)』は『命令(order)』へと変質する。」「国際法は歴史的に植民地支配を正当化し、非対称な権力関係を固定化する役割を話してきた。現代においても、覇権国が帝国主義的な政策を正当化する『法による支配(rule by law)』の構造は変わらない。」「しかし、今日の国際社会において特筆すべきは、サウス諸国がノース中心のシステムに対し、具体的な事案を通じて多様かつ強靭な抵抗を示し始めていることである。」

 「かつて従属を強いられたサウスの面々は、もはやノースによる『支配』と『命令』を甘んじて受け入れているわけではない。あるときは帝国的警察権の暴走に対して古典的な『規則』を盾として死守し、ノースが振りかざす価値の『規則』さえも剣として逆用する。またあるときは兵器化された経済『秩序』から身をかわす実利主義を展開し、生殺与奪を単一の覇権国に握らせない新たな『秩序』の構築を図る。」

 「国家主権のパラドクス」とは「帝国主義的介入を防ぐための『盾』であるはずの国家主権が、同時にその内部に暮らす民衆を支配・抑圧する装置へと容易に反転するという現象」「大国の武力介入を認めるか独裁体制を擁護するかのジレンマ」「サウスもまた、ノースと同様に自らの利益のために法を操作し、双方に都合の良い『ルールに基づく国際秩序』を再生産する主体へと反転した」「自国の利益のために都合よく制度を選ぶ国家のリアリズムではなく、他者の痛みに応答し、不条理な暴力を食い止めるために連帯する『共感共苦』の実践である。」

 

 このキーフレーズだけを読むと支離滅裂のように思われるかもしれませんが、このフレーズの間に重要な説明があります。是非とも原文を読んでいただきたいと思います。

 

 

アメリカ国務省にて(2022年9月)

 

 昨日に続いて、岩波書店から出版の「『アメリカの戦争』と世界危機」(三牧聖子編)の重要なフレーズの書き留めです。今日は、経済についてです。河野龍太郎さんが執筆した章です。

 

 「アメリカは2025年4月に相互関税を発動し、2026年1月にはベネズエラへ侵攻、2月末にはイラン攻撃を開始した。アメリカが国際秩序や国際経済を安定させる覇権国の役割を放棄したのは今や明らかだ。いや、むしろ大きな不安定化要因となっている。」「アメリカが覇権国の役割を果たさないのなら、一定のタイムラグはあるとしても、ドルはいずれ唯一の基軸通貨ではなくなるはずだ。米ドルが唯一の基軸通貨だったのは、アメリカが覇権国だったから」

 「他国であれば経常赤字の継続は難しい。そうした『途方もない特権』が許されるのは、米ドルが唯一の基軸通貨であり、紙切れに過ぎないドル通貨や米長期国債を各国の経済主体が喜んで受け取るためだ。」「海外投資家の米長期国債離れが進むと、高い金利を支払わなければ、海外からの借入も難しくなり、アメリカ人は消費や投資の水準を抑制せざるを得なくなる。」

 「『名目成長率<名目長期金利』というのが正常な関係だ。しかし、アメリカではこれが逆転し、『名目成長率>名目長期金利』が2008年以降、常態化してきた。」「これが財政の持続可能性を高め、資産バブルの生成にも影響していた。」「公的債務の持続可能性の条件(ドーマー条件)が満たされている」「しかし、第二期トランプ政権の指導後、名目成長率と名目長期金利の差は急激に縮小しつつある。」「各国でドル資産離れが進行する中、アメリカの金融経済は、内外のショックに対し、もはや以前のような頑健性を持ち合わせてはいない。」

 「国際政治学者のジョセフ・ナイは、第一期トランプ政権が始動した2017年に、米中対立が激化する中で、真の危機は『トゥキディディスの罠』ではなく「キンドルバーガーの罠」であり、アメリカが覇権国の役割を果たさなくなることだと喝破していた。」

 「『ペトロダラー体制』が確立したのは1970年代前半のニクソン・フォード時代」「当時、原油輸入国に転じたアメリカが、サウジアラビアに対し、原油取引をドル建て決済とした上で、購入代金をドル国債運用に振り向けるよう要請し、その見返りとして、中東の安全保障への関与を約束した。言わばエネルギー、国際金融、安全保障の三位一体のコミットメントだった」

 「1971年のニクソンショックで『金の軛』を断ち切った後のドルシステムの強靭さが、法制度に支えられたものではなく、市場における自生的な増殖力を通じたもの」「大きなショックが襲い、それが閾値を超えると、非連続転移(レジームシフト)が生じて、急激な巻き戻しが始まり、基軸通貨から転げ落ちる可能性がある。」

 

 「名目成長率>名目長期金利」という特殊な状況がアメリカの金融市場のバブルを引き起こした、このバブルは大きなショックがあれば崩壊するかもしれない、ということ。米ドル・システムが崩壊するとその後はどうなるのかは示されていませんでしたが、示されないほどに大混乱になるかもしれません。

 そうならないようにするには、アメリカ大統領には正気を取り戻してもらいたい、というか、まっとうな人物にアメリカ大統領になっていただきたい、ということです。




 2026年2月末に始まったアメリカとイスラエルによるイラン攻撃について、未だに終結が見通せない段階ではあります。そうした中で、危機を直視すべきとの考えから12名の学者が、政治、宗教、国際法、国際経済などそれぞれの専門分野について分析したものを同志社大学法学部の三牧聖子教授がまとめ、「『アメリカの戦争』と世界危機」が6月に出版されました。

 早速、読みましたので、自分の備忘録を兼ねて、重要なフレーズを以下に書き留めます。

 以下、ネタバレになりますので、ご注意下さい。

 

 イラン戦争は誰のための戦争なのか、についてイスラエルのネタニヤフ首相の戦争と指摘。アメリカにとって「イラン戦争は必要に迫られた戦争ではなく、回避可能な、しかもアメリカが得られるものより失うものの方がはるかに大きい戦争」「もちろんトランプ自身は、自分に命令できる存在はこの世には自分しかいない、自分が全てを決定したのだ、と信じて疑わないだろう。しかし、『決定したのは自分だ』と思い込むことも含め、トランプは今のところ、ネタニヤフの思惑通りに動いている。」

 「『イラン戦争は宗教戦争だ』といわれるとき、そこには往々に、『だから妥協は不可能だ』といった含意があるが、異なる宗教を信じることは、紛争や戦争を必然化しない。」

 「米中覇権争いの文脈で見れば、イラン戦争は、アメリカの『オウンゴール』とも指摘される。」

 「国際法との関係を問われてトランプは、『私には国際法は関係ない』『軍事行動に歯止めをかけられるものは私の倫理観だけだ』と言ってのけた。」「歴代政権とトランプとの違いは、前者が何とか国際法上の正当性を繕おうとしたのに対し、後者は国際法を破ることに何らためらいを感じず、それゆえ法的な正当性を繕おうとしない」

 「国際法は、覇権国が相手国の違法行為を糾弾し、自分の違法行為を免責するためのツールに堕してきた。」

 「カナダのマーク・カーニー首相が世界経済フォーラムで行った演説が多くの反響を呼んだ。」「カーニーは『弱き者の力は誠実であることから始まる』として、もはや『ルールに基づく国際秩序』も、その擁護者としてのアメリカも存在しない、存在しない旧い秩序へのノスタルジーに浸り、行動を変えない理由にしてはならないと厳しい現実を直視する必要性を訴えた。」「大国のルール違反による国際秩序の崩壊に歯止めをかけるために、『ミドルパワー』は結束すべきだと提唱した。」「カーニーが警鐘を鳴らした旧秩序へのノスタルジーに最も浸っているのは、日本ではないか。」「なぜ日本は、明らかに不合理な要求を突きつけられたときですら、アメリカを怒らせないことを最優先で考えなくてはならないのだろうか。」

 

 国際政治の観点から、三牧聖子教授の担当部分を中心に抜き書きしました。他に、国際経済と国際法の観点からも重要なフレーズがあったので、明日以降に抜き書きします。