毎週日曜日に連載中の『私が大切にしている言葉たち』シリーズ
私がこれまでに出会った恩師やダンサーの方たちの言葉の中から、大切にしているものを紹介していきます。
今週は、昔所属していた教室で教師をされたいたM先生の言葉から。
『どうしてネイルをしないの?こんなに綺麗な手なのに。』
先週のM先生は私よりも年上の男性でしたが、今週のM先生は私よりも一回り年下の女性の方です。(ちょっと、ややこしいですね)
この教室には、当時、主宰の先生のもと、20代の若い先生が何人もいらっしゃいましたが、まるで芸能界のように美女ぞろいで、スタイルも良く、華やかで、いかにも美を体現するクラシックバレエらしい雰囲気に包まれていました。
先生方には、バレエについても色々と教えていただきましたが、“美意識”についても教えていただきました。
ファッション雑誌から抜け出してきたような美しい先生方はいつも髪を綺麗にアップして、綺麗なアクセサリーを身につけ、香水がほのかに香り、爪もいつも綺麗にネイルがしてあって、メイクもくずれているのを見たことがなかったです。
まるで、ディズニーに出てくるプリンセスたちのようでした。
レッスンウェアも皆さんいつも新しいお洒落なものを身につけて、私たちを楽しませてくれましたし、私服もお洒落で可愛らしく、子供も大人も生徒たちはみんな先生方に憧れていました。
先生方は本当にキラキラしていて、踊れば上手だし、美しい。
ヘアピンの留め方やレオタードの着こなし方など、みんなで競うようにして真似をしたものです。
私もそんな彼女たちに憧れる生徒のうちの1人でしたが、ひょんなことから、先生方と仲良くなり、やがてスタッフとしてお手伝いすることになると、会話をする機会も多くなり、花火大会に一緒に出かけたり、バースデーパーティーを開いていただいたり、ご自宅にお邪魔したり、歳が離れてはいましたが、お友達のように仲良くしていただきました。
一緒にいる時間が長くなってからも、やはりすごい!と思ったのは、彼女達の普段からの美意識の高さです。
例えば、アイラインひとつ引く時でも、みなさん自分が美しく見えるように常に研究されていました。
また、お互いにファッションやヘアスタイルもチェックしあって、
「〇〇ちゃん、今日のパンツは脚が細く見える。」
「□□ちゃん、今日のアイシャドウの引き方だと目が小さく見える。」
などとお互いに指摘しあって、切磋琢磨していました。
しかもそれが、まったく力んだようすもなく、昔からそうやってお互いにアドバイスをしあいながら、美女集団になっていったのだな、と納得しました。
私も色々アドバイスをしていただくようになり、たとえば“まつげ”ひとつとっても、
“目が大きく見える、ビューラーの角度”
“どのマスカラが、今は最もまつげを長く見せるか”
“マスカラ液がこのくらい乾いてきたら、もう新しいものと変えた方が綺麗”
など、事細かく教えていただきました。
それと同時に、その丁寧すぎるほどの細かいこだわりは、“自分の身体をつかって、美しいラインを描く芸術であるバレエ”を踊る時のシルエットにそのまま生きている、ということを勉強させてもらいました。
普段のメイクからそこまでこだわり、常に研究し、努力し続ける彼女たちにとって、
“トゥシューズを美しく履くこと”
“チュチュを少しでも綺麗に着るために、デザインやシルエットにもとことんこだわること”
“舞台メイクもシニヨンも、自分が一番綺麗に見えるように常に研究をおこたらない”
“バレエの身体が描くライン1つとっても、妥協を許さない”
これらのことは、“ごく当たり前に身についていること”だったのです。
普段から美しさにこだわらずに、本番だけ急に美しくなるのは、むずかしい。
普段から、“美”にこだわる。
普段から、“自分を美しく”見せることにこだわる。
プライベートからすべてがバレエにつながっていて、プライベートでの努力や意識が、そのままバレエに出るということを、彼女達は知っており、実践していたのです。
その姿を見て、私は美しい人というのは、美しくあるために、日々努力を積み重ね続けているから、あんなにも美しいのだということを学びました。
「いいよね、美人は得で。」
「いいよね、スタイルが良い人はね。」
人はよくそんな言葉を口にします。
けれど、美人は美しいことをめちゃくちゃがんばっているから、美人なんです。
勉強と一緒です。
ほとんどの人は、めちゃくちゃ努力しないと東大にはいけません。
それと同じで、ほとんどの人は、めちゃくちゃ努力しないと美人にはなりません。
若い頃は、先天的なものもあるでしょう。
けれども、20代、それ以上になると、本人の努力におけるところが大きくなっていきます。
これは後に、東京で知り合ったモデルを職業としている人たちと話をしていてもそう思いました。
美しい肌を、髪を、スタイルをつくりあげ、維持するために、途方もない努力を積み上げているのです。
私にあそこまで“美”に時間とエネルギーをかける情熱があるかと言われると、
「ごめんなさい、そこまではちょっと…。」と言わざるを得ないほどです。
24時間、365日、寝ても覚めても美・美・美です
しかも、その努力を“当たり前”のようににしているのです。
きっと彼女たちは美しいものが好きなのだと思いますし、自分を美しくすることが楽しくて、当たり前だったのだと思います。
(なるほど~、美人も天才も、こうやって出来上がるのね~。)
目からウロコの発見でした。
「いいよね、美人は。」
「いいよね、スタイルがよくて。」
「いいよね、頭がよくて。」
「いいよね、バレエに向いてる身体で。」
「いいよね、先生に可愛がられて。」
「いいよね、主役で。」
この“いいよね”という言葉を言われる人たちと言うのは、断言します
すさまじく努力をしています。
そしてその努力を習慣化しています。
私がうちの生徒達にもぜひ身につけて欲しいな、と思うスキルの1つにこの考え方があります。
バレエでも何でもそうですが、他人をうらやむ前に、自分はやれることを全部やりましたか?ということなんです。
他人をうらやんでる暇があるのなら、どうやったらそこに近づけるのかを考える、徹底的に研究する。得意な人に教えてもらう。その方が近道だし、成長出来ますから。
確かにね、中には
“まったく努力をしなくても、どこからどう見ても美人”だとか、
“まったく勉強しなくても、学校の授業を聞いているだけで、ハーバード大学入学”とか、
“そんなに頑張らなくても、気がついたらプロサッカー選手”だとか、いるかもしれません。
でもそれは、ハレー彗星を見るくらい、UFOに遭遇するくらい、めずらしいものですし、私はそれを素晴らしいとはまったく思わないんですよね。
だって、自分では何もがんばっていないわけでしょう?本人のお手柄ではありませんから。
それに、どうやったら自分のスキルをあげることが出来るのか、努力の仕方を知らずに気がついたらトップにいる訳ですから、他のことに応用出来ないんですよね。
だから私は、もしかしたらこういった“天才”タイプの人たちは、努力を積み重ねる、いわゆる“秀才”タイプの人たちの向上心を引っ張り上げてあげるために、存在するのではないかなと思っています。
“秀才”タイプの人たちの“努力の積み重ね方”や、“成長するためのスキル”は、一度身につけておくと、どんな職業についても、たとえば専業主婦になったとしても、(マイホームのためにコツコツ努力して貯金するためにはどうすれば良いか?)などといったことに応用出来ますし、自分の後輩たちにや次世代の子供達にも教えてあげられます。
バレエの先生が実は一番得意なのは、バレエそのものを教えることはもちろんですが、“努力の仕方”や“自分を成長させる方法”を教えることだと思うんですね。
話を少し戻しますと、最初に紹介した言葉は、そんな美意識高めの美女揃いの先生方の中でもリーダー的な存在としていつも目立っていたM先生が、ある日ふと私に言ってくれた言葉です。
私は昔からよく、手を褒められることが多かったんですね。
最初は中学生の頃、友達のお母さんに
「あなた、手が綺麗ね!手タレが出来るわ~」と何度も言ってもらいましたし、バレエをはじめる前も友達や職場の女性たちから、
「手が綺麗ですね~いいなぁ」と褒められることがよくありました。
バレエを習いはじめても、何人もの先生やお友達から、「あなたは手が本当に綺麗!」と言われることが多かったのですが、私にとっては生まれてからずっと見ている手ですし、何とも思っていなかったので、
(ふーん、そうなんだ。ちょっとだけ嬉しいな。)と感じる程度でした。
M先生も、出会った頃から
「桜さんの手、すごく綺麗!」と褒めてくださっていて、バレエのレッスン中もポール・デ・ブラ(腕の動き)をよく褒めてくれていました。
「どうやったら、そんな風に手を綺麗に動かせるの?」と、レッスン後に真剣に聞かれたことも。
でも、私はあまり気にしていませんでした。
自分では、何も努力していなかったからです。
そんなある日、私がM先生に
「先生のネイル、いつも見ても綺麗ですね」と伝えたところ、M先生は
「今日はちょっと剥げてきているので、あんまり見ないで欲しい」と謙遜された後、私の手をじっと見て、こう言ったのです。
『桜さんは、どうしてネイルをしないの?こんなに綺麗な手なのに。』
当時の私にとっては、ネイルはしないことが当たり前で、お洒落をする時にちょっとだけがんばってするものだったのです。
だから私は、このM先生の言葉を聞いて、ショックを受けました。それはつまり、
『自分の長所はアピールするものでしょう?自分の良いところを目立たせないなんて、もったいない! 』
ということと、
『ネイルを“やらないことが当たり前”ではなく、“やることが当たり前”』
だということについてです。
M先生はその教室の発表会ではいつも主役でした。
そして、舞台の上でもM先生はひときわ目立ち、輝いていました。
どうすればあんな風になれるのか、踊れるのか、輝けるのかと、当時は思っていたものです。
大人になってからバレエを習い、当時クラスで一番下手だった私にとって、自分の長所は(特にバレエでは)“あるかもしれないけど、よくわからないもの”でした。
『自分の長所がよくわかっていない、他人から教えてもらっても認めきれていない人』と、『自分の良いところを常に探していて、見つけたら、もちろん目立たせることが当たり前な人』とでは、まわりの人たちからの見え方がまったく違います。
そのことに、気がついたからショックを受けたのです。
さらに、自分を素敵に見せる方法(ネイル)があるのなら『やらないことが当たり前』ではなく、『やることが当たり前』だと思い、それを実行すること。
そのことにも、ショックを受けました。
ここにM先生の成功と成長の秘訣があった訳です。
その時、私は(成功する人、トップまで昇りつめる人というのは、こういうマインドなのね)ということを学びました。
M先生のことは、バレエダンサーとしてそして女性として、今でも尊敬していますし、この言葉は今でも私が大切にしている言葉のうちの1つです。
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