毎週水曜日に連載中の『プリマの条件』シリーズ。
バレエでプリマ(主役)になるために必要なことの中から、“人間力”についてお話しさせて頂いています。
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28回目になる今回は、『視野の広さ』について。
人はアクションを起こす時に、どの角度からものを見ているかによって結果が変わります。
例えば、発表会。
キャスティングされた結果が、自分が思っていたものと違って、
(どうして、私がこの役を踊らなくちゃいけないの?)ってなったとしますよね。
これってね、視野の広さで言えば、“自分目線”なんですね。
そんな風に思うと、
(こんなコールド(群舞)なんて、今さらやってられないから、嘘ついて降板しちゃえ!)
ってなってしまったりしますよね。
本人にとっては、もっともな理由なんですけれども、これをやってしまうと、舞台の世界では、周囲の人達からは信用されにくくなってしまう。
周囲の人達の目には、
“自分の気持ちを中心に動いて、周りや全体が見えてない人なんだな”っていう風に映ります。
そうなると、踊りも“自分中心”に動いてしまって、周囲の人達や音楽と揃わなかったり、自分1人で自己完結してしまいやすい。
自分中心に好きなように踊るプリマについてきてくれる人は、ほとんどいないと思って下さい。
気持ち良く踊っているのはプリマだけ。
舞台上の出演者達も客席もスタッフも教師も、みんなが白けてしまいます。
それが、もう少し視野が広くなって、“先生目線”、“演出家目線”になってくると、
(前回の舞台でものすごく良い役を頂いたから、先生は今回は違う人に良い役をあげたいのかも)
(私はゆっくりの動きが得意だけど、速い動きが苦手だから、先生はあえて課題としてこの役を私に下さったのかも)
などという風に、思えてくる。
すると、与えられた役を精一杯踊ろうとしますよね。
そうすれば、“どんな役でもベストを尽くす、信頼出来る人”として、
その姿勢が評価されて次につながって来る。
“自分目線”の時と、ずいぶん結果が違ってきます。
さらに視野を広げて、“お客様目線”になったとします。
(今回は新人さんが多いから、私がここを踊った方が、全体のバランスがとれるのかな?)
(身長が揃っている方が綺麗だから、私がこの役に選ばれたのかな?)
(この役は列をビシッ!と揃えが方がお客様が見ごたえあるから、基礎が出来ている私が前列に選ばれたのかも)
と、舞台全体を意識することが出来ます。
照明のことを考えて、立ち位置を調整したり、客席から綺麗に見えるように衣装アレンジを提案するなど、先生や演出家を助けることが出来るようになります。
すると、
「この人は全体が見えているから、リーダーになれるな」
「この人なら主役を任せても、全体とのバランスをとりながら踊れるな」
という評価につながっていきますし、後ろで踊る共演者達も
「この人の後ろで踊るなら、主役が引き立つように、一生懸命頑張ります!この人についていきます!」という風になります。
ちなみに私は、演劇でもバレエでも、いつも実力よりも、かなり盛って、キャストティングして頂いていた記憶があります。
それは、もちろん、日ごろの努力や熱心さ、常にベストを尽くし続ける姿勢などを評価して頂いていたからだと思うのですが、まぁよく、
「先生に可愛がられているから」
「演出家に気に入られているから」と表や裏で言われていましたね。
・・・けれども、おそらく真実は、私は10代の頃から自分で舞台演出をしていたので、常に舞台全体のことを考えて、お客様目線で動くことが当たり前になっていたから。
そこで、お客様目線や全体目線で先生に提案したり、共演者にアドバイスしたりしていたので、今、振り返ってみると、多分、そこが先生や演出家、共演者達からの信頼を得て、その結果が全体をまとめるようなキャストや立ち位置を頂けることに繋がっていたのではないのかな、と思います。
また、普段のレッスンでも、
“自分目線”でレッスンをするのと、先生から見て、自分や自分達がどう見えているのかを意識しながらレッスンをするのと、お客様の目を常に意識しながらレッスンしているのでは、踊りが全く違ってきます。
コーディネーション力と言われる、いわゆる空間全体を把握して表現する能力などは、お客様目線などの広い視野で踊ることによって、磨かれていきます。
センターレッスン(フロアで移動しながら踊るレッスン)で、人とぶつからないように踊ったり、他人との距離を一定に保ちながら踊ったり、舞台全体を大きく使ったり出来るのも、自分達を上から見たり、客席の方向である前から見たりして、俯瞰でものが見られるかどうかも大きく関係してきます。
バレエは舞台上で全体の状況にあわせて、自分の動きをとっていく必要があります。
沢山の群舞と一緒に踊るプリマなら、なおさらです。
自分目線でしか踊れないプリマにとって、群舞はただの“じゃまな人達”
お客様目線で踊れるプリマは、群舞と自分は“一心同体”
いわゆる、息のあった踊り、息のあった演技が出来るのです。
視野の広さは心の余裕ともつながっています。
一生懸命集中してレッスンすることも必要ですが、
(いつかプリマみたいに踊れるようになりたい!)と思う方は、視野を広くもつ、ということも少し意識してレッスンしてみて下さい。
視野の広さは、人生経験が豊富な大人は得意なはずですから。
また、これは日常にも応用できます。
仕事の時などでも、自分目線だけでなく、部署などのチーム目線や、会社目線などで見ていくと、広い視野で動けて、能力の高い人として評価されやすくなります。
バレエで学んだことはね、自分の人生に応用出来るんですよ。
バレエで学んだことは、人生でいかせて、
人生で学んだことは、バレエにいかせる by桜 ←急にどうしました、私
ほんの少しの意識改革で、きっと、踊りが変わってくると思いますので、ぜひチャレンジしてみて下さい