毎週水曜日に連載中の『プリマの条件』シリーズ。
バレエでプリマ(主役)になるために必要なことの中から、“人間力”についてお話しさせて頂いています。
◇
12回目になる今週は、『明るさ』について。
これはシンプルに、性格の明るさです。
バレエはストイックでなければいけない、という考え方が根強くあります。
毎日休まずにレッスンして、自宅でもスタジオでもストレッチをして、食事制限もして、先生には何を言われても「はいっ」と答え、空気を読み、一緒にレッスンしている友達だって、ライバルだからと心を許さない。
これ、10年やってると、どうなるかというと、いつも他人の顔色を伺って動く、何を考えているのかよく分からない、友達もあまりいない、修行僧のような、ただの暗い人が出来上がります。
そして、テクニックはあるが、華のない踊りをする人になります。
自分がないので、テクニックはあっても、表現するものがないのです。
表現する“自分”がないのです。
踊りに“遊び”がないのです。
踊りに“魅力”がないのです。
周囲を照らすほどの、力強くて、華やかな踊りが出来ないのです。
表現しても、観る人まで届かないのです。
もっと言うなら、そこまでのパワーやエネルギーがないのです。
テクニックを磨くためには、ストイックさは必要です。
バレエはストイックさがないとたどり着けない領域というのはあります。
けれど、それだけではダメなのです。
ストイックさは、ムダなものを全部削ぎ落しますが、“余裕”や“魅力”“楽しさ”や“幸福感”“他人との繋がり”も削ぎ落とします。
バレエが上手になるためにはテクニックだけではダメなのです。
心が豊かでなければダメなのです。
イメージしてみて下さい。
ここに、ダイエットをしている2人の人がいます。
Aさんは、ストイックにダイエットをしています。
一日のカロリーを決めて、それをビシッと守ります。
運動も自分にノルマを課した分だけこなしていきます。
黙々と自分の目標に向かって頑張りましたが、ムリをしているため、いつもピリピリしています。
目の前でスイーツを食べる人を見ると本気で腹が立ちます。
うっかりカロリーオーバーしてしまったり、運動がノルマ分出来なかったら、自分を責めて、落ち込みます。もしかしたら、やけ食いもしてしまうかもしれません。
Bさんは、明るく楽しくダイエットをしています。
おやつを好きなだけ食べる週と、ちょっとだけガマンする週を友達と決めていて、「頑張ってる?」「今週もあと1日で終わりだよ!来週は一緒にカフェに行こう!」などと、声をかけあっています。
運動も一緒にダイエットしている人達と誘い合って、山に登ったり、ジムに通ったり、ウォーキングをしたりしています。
このダイエットはそれぞれ10年続けることになっています。
さて、このダイエットの結末はどうなるでしょうか?
また、もし団体(チーム)で協力して何かするとしたら、あなたはどちらの人と一緒に行動したいでしょうか?
そもそも、ストイックな状態というのは、人の持つ本来の性質からは遠く離れている気がします。
それに、大人になってからバレエを習う人のほとんどは、やはり楽しいからバレエを習っているし、楽しいから何年も続けられるし、楽しいからこそ、“上手になりたい”“もっと本気で習いたい”と思えるはずなんです。
だったら、楽しみながらレッスンしないと、とてもじゃないけれど10年も続かないし、週に何回もレッスンに通えない。
踊ることを、楽しむ
今、この場所にいられることを、楽しむ
上手になったことを、楽しむ
出来ないのに頑張っている健気な自分を、楽しむ
おしゃれをすることを、楽しむ
仲間とのおしゃべりを、楽しむ
挑戦することを、楽しむ
未来を夢見ることを、楽しむ
誰かと一緒に踊れることを、楽しむ
トゥシューズを履くことを、楽しむ
目標を立てることを、楽しむ
本気で向き合ってくれる人がいることを、楽しむ
自分の成長を一緒に喜んでくれる人がいることを、楽しむ
この歳で青春出来ることを、楽しむ
自分の意外な一面を見つけることを、楽しむ
わからなかったことが、ある日突然わかるようになることを、楽しむ
先生のしょーもない冗談を、楽しむ
音楽を、楽しむ
大人なのに、「コラッ」と叱られることを、楽しむ
身体と向き合うことを、楽しむ
限界に挑戦することを、楽しむ
苦手なことを克服することを、楽しむ
得意なことを発揮することを、楽しむ
昨日よりも一歩前に進んでいる自分を、楽しむ
いくつになっても成長する自分を、楽しむ
お姫様や妖精さんになれることを、楽しむ
美しい衣装やチュチュを着ることを、楽しむ
女優になって踊ることを、楽しむ
笑ったり、泣いたり、挫折したり、成功したりする、日々を、楽しむ
「我がバレエ人生に一片の悔いなし」そう言いきれてしまうほど、バレエに打ち込んできた、自分の人生を、楽しむ
今、この一瞬を、楽しむ
サクラバレエは“大人からはじめる本気のバレエ教室”ですが、
“大人からはじめる本気のスパルタバレエ教室”ではなく、
“本気でバレエを楽しみたい大人達のためのバレエ教室”です。
大人になるとなかなか経験出来ない、これらのことを明るく、楽しむこと。
いつも前向きに、物事を楽観的に明るく楽しく考えることが出来ること。
これもまた、大切なプリマの条件ではないでしょうか。
サクラバレエの生徒をはじめ、バレエが好きな人、バレエにハマる人というのは、努力家さんが多い。
スタジオ生も、みんな本当によく努力しています。
ただ、バレエというのは、努力が必ずしも報われるとは限らない。
努力して努力して、泣けてくるほど努力しても、それでも踊りたかった役や作品を踊れず、行きたかった場所へも行けずにバレエ人生を終わることもよくあります。(子供からはじめる本気のバレエにも、これは多いですよね。発表会で主役を踊れるのは毎年生徒何十人、何百人のうちの1人か2人。コンクールに入賞出来たリ、プロを目指せることですら、ほんの一握りですから。)
だけど、そこまで努力したなら、本人がやり切ったと思えるのなら、たとえ夢がかなわなかったとしても、“続き”があるはずです。
今、私がサクラバレエをひらかせてもらって、大好きなバレエを通して、色々な人達と一緒に、楽しく日々を過ごせているのも、その“続き”だと思っています。
だから、最後まで、明るく前向きに楽しみながら、ベストをつくすことが大切なのです
やるだけのことはやって、(あとは何とかなるさ)と思える明るさ、楽観的さ。
つまり、明るく努力出来ること。
これがバレエが上手になるために、そして引いてはプリマになるために必要な条件なのではないでしょうか。
そして、明るくいるためには、自分らしく、自然体である必要があります。
今丁度、サクラバレエは2017年度のスタジオテーマについて話し合っているところなのですが、やはりここでも、“私らしく”
自分を隠したり、偽ったりしていると、明るい自分ではいられません。
バレエや人生を楽しむために、自分らしくいること。
バレエを、人生を、自分を、仲間を、愛すること。
“プリマの条件”、今回は、明るさとバレエについてのお話しでした。