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毎週火曜日に連載中の『大人がバレエを習うということ』シリーズ
今回は前回に引き続き、『絶対に続けるという覚悟 後編 ~バレエは一度やめると何度でもやめる~』です。
◇
前回、一度バレエをやめた人は、バレエを再開してもしばらくするとまたやめてしまい、再開してはやめるということを繰り返してしまう、ということを書きました。
その理由がなぜか。答えは簡単です。
とりあえず、野球を例に考えてみましょうか。
プロ野球選手を目指していたある人が、野球をやめたとしましょう。
何年かの歳月が流れて、この人はもう一度、野球を再開したとします。
さあ、この人はもう一度本気でプロを目指すでしょうか?
あなたなら、どうしますか?
この場合、ほとんどの人が「NO」と答えると思います。
(・・・プロ野球選手になることはあきらめた。
だけど、野球は好きだから、もう一度野球と関わりたい。
昔のように本気ではなく、楽しんでプレイしたい。野球を楽しみたい。)
そう考える訳です。
一度はプロ野球を目指していたことがあるくらいですから、この人は草野球チームに入ればもしかしたらエースをまかされるようになるかもしれない。
エースになることは、遠い昔に夢見ていたことのうちの一つです。
・・・わるい気はしません。
よ~し、ではもう一度やってみよう。
そう思って、草野球チームに入るわけです。
そして、予想通り、エースになるわけです。
・・・ところが、エースになって、周囲にもてはやされても、なんだか物足りないのです。
ことあるごとに、
(ちがうよ、野球っていうのはね!)と心の中で思うのです。
そして、口をつぐむのです。
本当は、言いたいんですよ、
(なぜ、ボールを最後まで追いかけないんだ!みんなしっかりしろよ!そんなんじゃダメじゃないか!)とね。
・・・草野球なのにね。
そんな感じで、なんだかスッキリしないのです。
(ちがうよ、野球っていうのは、自分の気力体力の限界までやるんだよ!だから面白いんじゃないか!缶ビール飲みながらやるなんて、野球の神様に失礼だろ!)なんて思ってしまうのです。
この人は、野球の本当の魅力は、ワイワイガヤガヤキャッチボールすることではなくて、本気で全力でプレイしてこそ手に入れることが出来るものだって知っているんですよね。
そして、一度やめた野球を、もう一度再開しようと思うくらいこの人が好きな野球というのは、草野球じゃなくて、本気の野球なんですよね。つまりは、それだけ野球の本質を知っているし、野球を愛しているってことなんです。
だけど、じゃあ、もう一度本気になって、自分がお手本になって、一から走り込んで体つくってみんなを引っ張っていけばいいじゃないって思うのですが、そこまでは本気になれない訳です。
・・・なぜか。
それは、ザセツをしているからです。
この人は、昔、大きなザセツをしたのです。
だから、野球をやめたのです。
・・・自分にはムリだな。
・・・自分はもうここまでだな。
・・・自分にはもうあのポジションはもらえないな。と。
そうやって、野球の神様に微笑んでもらうことを、あきらめたのです。
・・・本気の野球をやめた時に、その人は『負けた』と思ったのです。
・・・本気の野球をやめた時に、その人は『自分自身をあきらめた』のです。
(私はダメだったんだ。)
(私にはムリだったんだ。)
そうやって、自分にバツ×をつけたのです。
そして、今でも、その時の自分にバツ×をつけているのです。
未だに自分のことを、心のどこかで、
(私はダメだ)(ダメなやつだ)と思っているのです。
だから、怖くてもう一度本気になれないのです。
草野球なら良いが、本気になるとマズイのです。
ダメな自分がバレちゃう(と自分では思っている)のです。
もし仮に本気を出しちゃったら、ダメでムリだった自分を思い出してしまって、そうしたら、また野球をあきらめて、やめなきゃいけない気がして、怖いのです。
それは、たとえば、恋愛でものすごく好きな人がいて、お付き合いしていたけれど、うまくいかなかった。別れてしまった。
しばらくして、色々考えて、他の人ともお付き合いしたりもしたけれど、やっぱりあの人が一番好きだったなと思い、もう一度やりなおすことになった。
けれど、やっぱり、また別れてしまった。
こういったケースに似ています。
その人と、一度別れてしまったということは、おつきあいが続けられなくなるような、ハッキリとした理由があったはずなのです。
ですから、その理由をなかったことにして、もう一度お付き合いしても、また同じことでお別れすることになるのです。
・・・例えば、すごく格好良い彼氏がモテるので、ついつい、やきもちを焼いてしまい、それが原因でケンカが絶えずに別れてしまった、という場合。
「もう焼きもちやかない。約束する。」と心の底から誓ったとしても、彼氏はやっぱりモテるし、やっぱり心配でやきもちを焼いてケンカしてしまい、同じパターンでもう一度別れることになります。
しかも、1回目に付き合っていた期間よりもはるかに短い期間でお別れはやってきます。
もう、おなじみのパターンなわけです。
・・・この場合は、たとえば彼女が彼氏に負けないくらいモテるようになる、つまり魅力を磨いて、また自分の中の魅力を再発見して、自分に自信をつけることで乗り越えられます。
さらに、彼氏が浮気しているのかどうかさえ気にならないくらい、彼女が充実した毎日を送っていれば、今度は逆に彼が彼女を追いかけるようになり、最初の2人が別れなければいけなかったバターンとは全く違う関係性になりますよね。
・・・バレエも同じです。
一度、バレエとお別れした、バレエをやめたということは、何かしらの理由があってやめた訳です。
恋愛と同じように、自分に自信がなかったのかもしれないし、
素直になれなかったのかもしれない。
先生が怖すぎて相談出来なかったのかもしれないし、
お友達とケンカするなど、人間関係が原因だったのかもしれない。
舞台に上がるのが怖くて、逃げ出してしまったのかもしれない。
先生に気に入られないと良い役がもらえないと思って無理してしまったのかもしれないし、実は飽きっぽくて、バレエの基礎練習が退屈に思えてしまったのかもしれない。
・・・だとしたら、そこを乗り越えて、自分自身が大きく変わらなければ、同じことでまた何度もバレエを再開してはやめたり、
不満を持ち続けたまま、草野球チームでくすぶっていたりすることになります。
また、草野球だとばかり思っていたチームが、実はプロを目指していると知った時、コーチに本気で指導された時、一目散に逃げなくてはいけなくなってしまいます。
そして、そんな自分が大嫌いになるのです。
では、どうすれば良いのか。
まず、バレエを好きなうちは、バレエをやめないことです。
バレエを踊る自分をあきらめないことです。
バレエを『卒業』するのは良いです。
もうやりきった、と。もう思い残すことはない、と。
けれど、バレエから『逃げ』ないで欲しいのです。
バレエから逃げてしまう、何度でも逃げることになるし、バレエをやめたとしても、なにかから逃げることになるのです。
ずっと逃げる人生になるのです。
いつか、逃げることから卒業するまで、この人生の宿題は続きます。
では、どうすれば良いのか。
早め早めに相談です。誰かに助けをもとめる、というと大げさですが、他人の力をかりるのです。
バレエをやめる時というのは、自分ひとりで決めてしまうことが多いのです。
なぜなら、バレエは舞台の上で1人で踊らなくてはいけませんから、自立することを求められることが多いんですね。
ですから、バレエを本気で習っていると、だんだん、誰かを頼ったり、助けをもとめたり、相談する、お願いするということに抵抗が出てきます。
けれども、自分1人の考えでは限界があります。
自分1人では限界があるから、行き詰っているのです。
だから、誰かを頼ったり、助けてもらう必要があります。
そのためにも、普段から出来るだけ『自分の本音』を人に話す練習をしておくことです。
自分の気持ちを自分の言葉で話す、というのは実はとても高度なコミニケーションだったりします。
練習が必要なのです。
(特に、バレエを習う人というのは、言葉で自分を表現するのが苦手だから、それなら踊りで表現しよう!というタイプの人だったりすることが多かったりもしますので、こういった練習をしておくことは、いざという時に役に立ちます。)
また、バレエの先生やレッスン生と、普段から『本音』を話せる関係を築いておけば、困っていること、心が折れそうなこと、ザセツしそうなことなどを、早め早めに話せます。
自分で乗り越えなければいけないこともありますが、乗り越えるためのヒントを先生からもらったり、レッスン生とはげましあったり、優しい言葉をかけてもらったり、自分とも先生ともまた違う、ものの見方や考え方を教えてもらえれば、あっさり乗り越えられたり、腑におちることもたくさんあります。
それにね、まぁ、逃げてもいいんですよ。
人間ですからね、間違えてもいいんですよ。
私だって、ザセツの数なら相当自慢出来るくらい持ってますよ。
バレエの教師になるような人は、人一倍頑張って、人一倍ザセツしているものなのです。
そうじゃないと、ザセツの乗り越え方を教えてあげられませんからね。
・・・話がそれましたが、それに、人生いつでもまっすぐに前に進むって訳にはいきません。
誰だって、怖いと思えば一目散に逃げ出して当たり前です。
・・・だけど、出来れば。
もしよければ、逃げる前に、逃走する前に、相談して下さい。
誰にでも良いのですが、出来れば、バレエの先生やバレエ仲間などバレエの経験がある人が良いでしょう。
バレエを習っていて、一度もザセツを経験したことがない人はいません。
ザセツなんて、今の自分より1つか2つ上のことに挑戦すれば、あっという間にすることが出来ます。
バレエは挑戦する、挑戦し続けるものですから、ザセツなんて、いくらでも出来ます。
だから、バレエをやめたくなる、バレエから逃げたくなったり、ザセツしそうになる気持ちは、バレエを習っている人が一番よくわかります。
先生はいつも忙しそうだから、相談するのが申し訳ない、先生に相談したくても、私なんかが相談しても先生には迷惑だろうなんて思わずに。
バレエ教師も色々と忙しいので生徒一人一人の恋愛相談や人生相談にはなかなかのってあげられる時間はありませんが、バレエのことで、しかもやめたいと思っているくらい悩んでいたり、心が折れているのなら(たいていは顔に出ているからわかりますが)相談してくれた方が嬉しいと思います。
また、生徒ならではの悩みでしたら、生徒同士の方が気持ちを良くわかってくれるかもしれません。
いずれにしろ、バレエは初めて習う前に、色々な教室に見学に行って、この先生ならついていけそうだ、この教室ならなにかあってもやっていけそうだと思うところを選んで下さいね。
それから、入会して2~3回レッスンを受けて、(こりゃダメだ)と思って、すぐに逃走する人がよくいるのですが、ダメかどうかを決めるのは、本人ではありません。自分で決めなくても、バレエのプロである先生が決めてくれます。
ですから、もし、バレエの先生に
「あなたにバレエはムリね。」と言われたら、その時は悩んでも良いでしょう。
けれど、もし先生にそう言われていないのなら、自分で勝手にダメだと思ってしまわないで欲しいのです。
また、壁につぶかったり、(もうダメだ)と思ったり、本当にザセツしたとした場合。それは、
『今のあなた』『その時のあなた』にはムリだった、ということなのです。
『未来のあなた』『これからのあなた』には出来ることだったりするのです。
ただ、そのためには誰かのサポート、バレエの場合は先生のサポートが必要ですが、ザセツしてもしても、先生をはじめ、色々な人に助けてもらいながら、色々な方法をチョイスしながら、チャレンジし続けていくのです。
そうやって、バレリーナは強くしなやかに美しくなっていくのです。
そうやって、バレエは上手になっていくのです。
ザセツなくして、成長はありえません。
ザセツなくして、自信は身につきません。
むしろ『ザセツカモーン!」と、ザセツするのを待ち構えるくらいの気持ちで丁度良いと思います。
ちなみに、サクラバレエではS&Aクラスが、まさにこの「ザセツカモーン!」のためのクラスですね。
ザセツするから、強くなるのです。
ザセツするから、仲間のありがたさがわかるのです。
だから、バレエは趣味で習ってしまうと、その本当の良さ、魅力がわからないので、もったいないのです。
・・・まあ、楽しいと思いますけどね、草野球も。
あ、ちなみにサクラバレエは草野球のフリして、全員大リーグ目指してますから。
コーチ、本気ですから。
うっかり迷い込むと、えらいことになりますので。
そこんとこヨ・ロ・シ・ク ← 気士團風
◇
すっかり、長くなりましたが、
せっかくバレエを習うのでしたら、
「夢をかなえるまでは、素敵な自分に出会えるまでは、ぜぇぇぇぇぇったいに、やめない!」
「この先生に、なにがあってもついていく!」
「ザセツ、上等!ザセツ、カモーン!」
そんな気持ちで、はじめて見て下さい。
そして、もし、万一、ザセツして、やめてしまったら・・・。
(これは天が私に、一つ上のステージへ上がるために、自分を磨け、自分を超えろということね)と、そう受け止めて。
バレエをあっさりやめて、バレエ以外でチャレンジするもよし。
バレエがやっぱりあきらめられないのなら、(この人なら信じられる)(この人ならついていける)と心の底から思える先生を見つけて下さい。
ただし、何でもそうですが、芸事というのは一番最初に習った先生がベースになりますから、自分にとっての師匠を超える先生を見つけるというのは、本当に大変ですが、挑戦する意味はあると思いますし、もう一度、一番最初に習った先生の門を叩くというのも一つの方法だと思います。
どんなやめ方をしたとしても、自分の生徒だった人が可愛くない先生はいませんよ。
そして、ザセツしてしまうくらい、心がポッキリ折れてしまうくらいバレエを頑張った、自分自身にいつか、〇をつけてあげて下さいね。
ちなみに、野球ではプロ野球を目指している場合を例に上げましたが、バレエというものは、習っている人は全員プロを目指しているという前提でレッスンは行なわれています。バレエには本来、”趣味のバレエ”というものがありません。バレエはプロのバレリーナを養成して、そのバレリーナが踊るものなので、バレエを踊る=プロを目指す、頂点を目指すというのが大前提になっているということで話を進めさせてもらいました。ですから、子供の時からバレエを習っている人のほとんどは、バレエを本気で教えられて本気で習っているはずですので、付け加えておきますね。
それでは、長文を最後まで読んで下さって、ありがとうございました。
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