アラフィフ小説~美魔女ストーリー~ | 立ち止まったハートが前進する!未来が視える奇跡リーディング

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こちらの①が以前、宿題で提出したもの。

 

 

その講評が返ってきて、修正したものです。

 

よかったら、読み比べてみて下さいね!

 

~美魔女ストーリー~

 

 

「ねぇ、明日同窓会なの。何か服を貸して」

 

有紀子(ゆきこ)は甘えた声で扉にもたれ、樹里(じゅり)絵(え)の機嫌を伺った。

 

「いいけど・・・・・・」

 

樹里絵はチラッと有紀子を見て、すぐにスマホに目を戻した。

 

大学二年生になった娘の樹里絵は、長い手足をベッドに伸ばしたままスマホに夢中だ。

有紀子はそっと、スマホから目を離さない娘の横顔をのぞいた

 

シミもシワもない白い肌と、リップをしなくても赤い唇。

二の腕まであるサラサラしたロングヘアを見た有紀子は、思わず人差し指で耳の横を押さえた。

 

最近ヘアカラーをして一ヶ月も経つと、もみあげの白髪が目立つ。

 

四十九歳という年齢はまだ老いに抗いたいのに、老いに追いかけられる気がしてゾッとした。

 

 

樹里絵のクローゼットを物食している有紀子に「これでも着てみれば」と樹里絵はオレンジ色のライダースジャケットを気だるそうに投げた。

 

「あら、これいい色じゃない。

黒のワンピースの上に着たら似合うかも。ちょっと着てみるわ」

 

有紀子は樹里絵の鮮やかなオレンジ色のジャケットを手に、足取り軽く寝室へ向かった。

 

ライダースジャケットなんて若々しくていいじゃない?

この恩恵も娘がいるからこそね、とウキウキし、寝室のすぐ横にあるウォークインクローゼットに入った。

 

有紀子はいつもそこに置いている「美魔女ストーリー」という雑誌のページをめくった。

 

その雑誌は、年齢不詳の若々しい美魔女、と呼ばれる主婦達が紹介され、若々しく見えるメイクやスタイリングが満載の雑誌だ。

その雑誌に、美魔女として紹介されるのが有紀子の願いだ。

 

有紀子が開いたページは、「娘と服を共用しましょう」というコーナーだ。

ファストファッションや娘の選んだ服を、母親がおしゃれに着こなす方法を伝えている。

 

これまで何度も樹里絵の服を身に着けママ友には、若いわね、と褒められていた。

今回もきっとそうだ、と有紀子は心を躍らせオレンジ色のライダースジャケットを着た。

 

すると目の前の鏡に、ミカン色の派手なジャケットに着られた初老の女性が現れた。

 

派手な色はワントーン顔色を沈ませ、隠していたシミや皺をかえって目立たせた。

 

痛い、と自分を見ていられず、顔をそむけた。

 

そして樹里絵に見られないよう、急いでジャケットを脱いだ。

風船のように大きく膨らんだ期待は、しょんぼりと皺くちゃになりしぼんでいった。

 

有紀子はベッドに座り込み、ふぅ、と大きくため息をついた

 

今の世の中、美魔女と呼ばれる年齢不詳の主婦はたくさんいる。

有紀子もそんな美魔女にあこがれ、ダイエットに気を使い、エステやスポーツジムにも通い、自分を磨いていた。

 

有紀子は樹里絵のものを身に着けると、自分の努力に相応しい若さを分けてもらったようで気持ちがよかった。それもアンチエイジングだと信じていた。

 

有紀子はベッドから立ち上がり、鏡に顔を近づけた。

 

口の周りにくっきりした法令線が目立ち、まぶたのたるみや目の下のくまを直視すると、心がギリギリ切られるような痛みを感じた。

 

本当は樹里絵の若さを妬み同じものを身に着け、若さを分けて欲しかったのかもしれない。そう言えば以前、樹里絵に「若さを吸い取るエナジー・ヴァンパイアみたい」と言われた事をぼんやり思い出し、うなだれた。

 

自分の心の醜さまで明らかになり、こんなはずではなかった・・・・・・ と背中を丸めていた有紀子のところに、樹里絵がやってきた。

 

「あのね、ママ。ママは年を取ることが嫌なの? 

前から思っていたんだけど、ハッキリ言うね。

私の服やリップを使って若作りするママは、好きじゃない。

恥ずかしいよ。

無理に美魔女になんてならなくていい。

ママはそのままで十分きれいだよ。

だからいい加減、自分の年に逆らわず、受け入れたら? 」

 

娘から若作り、という言葉を聞いて、有紀子はビクッとした。

 

「実は、そのオレンジ色のジャケット、ママに若作りを止めてもらう為にわざと着てもらったの。

ママが本当に似合うのはこれ。パパと一緒に選んできたの。

はい、私とパパからママに五十歳のお誕生日プレゼント」

 

樹里絵は有紀子に、リボンのついた紙袋を差し出した。

 

それはこれまで有紀子が「おばさんくさい」と避けていた、アラフィフに人気のブランドのロゴが入った袋だった。

 

恐るおそる紙袋に手を伸ばすと、シンプルなデザインのベージュのジャケットが現れた。

 

ファストファッションのオレンジ色のジャケットと手触りも素材もまったく違い、柔らかい。

シルクが折り込まれた生地は、しっとりした上質のオーラを纏っていた。

 

有紀子はジャケットに手をすべられ、黒のワンピースの上に羽織った。

ベージュのジャケットは、有紀子の顔を明るく華やかに彩った。

 

「ほら、断然こっちの方がママに似合うよ。」

 

樹里絵がうれしそうに叫んだ。

 

それは、子供の頃おしゃれした有紀子に「ママ、きれい」と手を叩いていた時の顔だった。

 

娘の笑顔を見ていた有紀子は、目の前を覆っていた「老い」という幕がはらり、と取れたことに気づいた。

 

白髪があっても、シミやシワがあっても、今の自分を娘も夫もあたたかく包んでくれる。

受け入れていなかったのは、自分だけだった。

 

涙がにじみそうになった有紀子はおどけて、ウエストに手を当てポーズを取り言った。

 

「樹里絵、ありがとう。 ママ、明日はこれを着て同窓会に行くわ」

 

笑顔の有紀子の肩に手を乗せ、樹里絵も笑顔でウインクした。

 

若さを追いかけるのを止め、今の自分を楽しんでみたら何かが変わるかもしれない。

 

 

有紀子は「美魔女ストーリー」をポトン、とダストボックスに落とした。

 

終わり

 

 

 

 

 

 

 

 

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宇宙ビジョン作家 人響三九楽ヒビキサクラ

 


 

 

 

 

 

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