門井慶喜「定価のない本」
終戦から間もない東京・神田神保町で、
ひとりの古書店主が死んだ――
出版社とも図書館とも違う、
かれらにしかできない方法で書物を守る
古書店のひとびと。
直木賞作家がすべての愛書家に贈る長編ミステリ
神田神保町――江戸時代に旗本の屋敷地としてその歴史は始まり、明治期は多くの学校がひしめく文化的な学生街に、そして大正十二年の関東大震災を契機に古書の街として発展してきたこの地は、終戦から一年を経て復興を遂げつつあった。その街の一隅で、ひとりの古書店主が人知れずこの世を去る
。男は崩落した古書の山に圧し潰され、あたかも商売道具に殺されたかのような皮肉な最期を迎えた。
古くから付き合いがあった男を悼み、同じく古書店主である琴岡庄治は事後処理を引き受けるが――
直木賞作家である著者の真骨頂とも言うべき長編ミステリ。
推理小説かと思って読み始めましたが、戦後史という色合いが濃かったですね。
そして古書の街の歴史、古書に関する歴史。
中島京子さんの「夢見る帝国図書館」に通ずるものを感じました。
戦後というのは遠くなってしまいましたが、
占領下の日本はこれほど苦しい生活をしていたのか。
私達が今気楽に食しているチョコレート、「宝石に等しい高栄養食」の時代。
家族が二日ものあいだ水しか口にせず、米や野菜どころか醤油一滴すら摂取できない時代。
そして、日本の歴史を教育から排除しようとするGHQ。
NHKでは長らく大河ドラマで日本の歴史を放送していますが、
(特に今年は紫式部ですが)
この話の時代では、考えられないことですね、、、
戦後100年を待たずして、今の生活ができている日本が奇跡のようです。
推理の部分は進みが遅いですが、それでも読み進められるのは
庄司のひ孫・玲奈が言う
「最初に死体がぽんと出ると、話と言うのは、二段も三段もおもしろくなるのだ」
という説に賛成です
後半である有名な作家が登場しますが、
年表を調べてみると、この直後に亡くなっているのですね。
庄司の息子・浩一には思うところがあったのでしょうか。
そして前半で気になった箇所。
(見る気がするな、こういう強い女をさ)
戦争で男子の数が極端にへったことと何か関係があるのだろうか。それとも、そいういう統計的情況とは無関係に、敗戦で女という生物そのものの本質に変化が生じたのだろうか。
女はその後も強くなりましたよー
ミステリーとしては響きませんでしたが、
なかなか興味深いお話でした。
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