1960年代における英国三大ロックバンドとしてビートルズやローリング・ストーンズとともに並び称されるザ・フーですが、どうもわしの知る限り、日本においては他の2つに比べて知名度、あるいは認知度がかなり劣っているような気がします。
一つの要因として、ビートルズは1968年に来日公演を行い、社会的ブームにまでなったことが今なお伝えられております。またローリング・ストーンズは1973年に来日が決定しておきながら直前に日本国政府が入国許可を出してくれずキャンセルになってしまい、その腹いせかその後内田裕也氏が制作にかかわった映画において沢田研二演じる凶悪犯の主人公が警察との交渉で「ローリングストーンズの武道館ライブ」を要求するという場面がありました。そしてその後1990年に念願の初来日を果たしてくれ、21世紀になっても何度か来日したりと、身近な存在になってくれたのに対し、ザ・フーはパンクムーブメントで英国のロックシーンが盛り上がりを見せる中、1977年にドラマーのキース・ムーンが急死するという悲劇が伴い、代わりに元フェイセスのケニー・ジョーンズが加入してしばらく活動するも、結局バンドとしての来日は果たすことができなかったことが大きな要因と言えるかもしれません。
日本の音楽シーンでは60年代末期のグループサウンドのブームや90年代のJポップが走り出したころ、ビートルズやストーンズよりもフーの影響を感じる楽曲構成を持つバンドが見られたりして音楽好きには吸収するべき要素を多々持った偉大なバンドとして知られてはおりましたが、哀しいかな、隠しネタ的存在であったのかもしれませんね。
わし自身がザ・フーのサウンドに直接触れるきっかけとなったのは先述したキース・ムーンの訃報を新聞で読み、半分衝動的に今は無き千里中央はセルシー1Fにあったレコード店にて買った1枚のレコードがきっかけでした。中学2年のガキんちょではありましたが、この時買い求めたのは、
当時のジャケ帯まである写真がネットにありました。「時代は変わっても、フーのライブはそのエネルギーを失いません」
すげえコピーだ!この言葉、それから半世紀近くたっても全く輝きを失ってはおりません。それだけロック史上に語り継がれるモンスター・バンドなのですよ。
実は初めて聞いて一番ショックだったのは、ピートのギターが片方のスピーカーからしか聞こえてこないんです。それ以外はジョンのベースもキースのドラムスもロジャーのボーカルも芯の入ったサウンドで無茶苦茶ぶっ飛んでいるのですが、なぜかギターだけちやうんです。ケーキの表面を飾っただけのチョコレートのように、トッピングとして添えられただけちゃう?って感じで。
それから後も深夜放送で「ウッドストック」の映画を見たり、平成になって家庭用ビデオが普及するようになってからはレンタルビデオや海賊ビデオを漁ったりと触れる機会はあり,その比類なきサウンドづくりには感銘を受け続けてきましたが、映画館にて触れるのは初めてのことで、半世紀近く前に撮影されたものとはいえデジタルリミックスされたものに接するのはまたとない機会得ることができた次第です。
ちなみにロックオペラ「4重人格」をモチーフとした邦題「さらば青春の光」は、映画館ではなく京大吉田寮で見させていただきました。
さて、会場はおなじみの「土浦セントラルシネマズ」。この作品についてはあらゆる割引がなく2000円均一です。支配人さんは音楽映画についてはかなりこだわりがあると言っており、「次はジミヘンやりますから、また来てください」と帰りしな言われました。何せ上映初日とはいえ、観客4人しかおりませんでしたから。
それでもフイルムを通してではありますが、生のフーは無茶苦茶凄いっす。キースムーンは麻薬の常習?でかなり太っておりましたが、唯一無二という言葉はこの人のためにあると言えるのかもしれません。太鼓の数がやたら多い宇宙船の操縦席のようなキットの中に陣取り、そのスティックさばきはまるでドラムが歌っているのです。「うたわしたろか」という大阪弁、わかりまっか?とピート君がツッコミを入れちゃくなるぐらいのドラミングに、直立不動でフレーズを決めまくるジョンのベースはキレッキレ、という形容詞がぴったり当てはまります。その一例は今秋日本では初めて劇場公開されるというドキュメンタリー映像「KIDS ARE ALRIGHT」に収録済みなので、貼り付けておきます。この作品、かつてはレンタルビデオで借りたり、NHK-BSでも放映されたこともあるから、どこかで見覚えある方は少なからずおられると思います。
シンセピコピコは元祖テクノ、激しい演奏とジェームズ・ブラウン張りのシャウトは元祖ハードロック(ヘビメタにも通ず)やファンク、音の塊をガツーンとかますあたりは元祖パンクと70年代ロックのかなりの要素を彷彿とさせてくれる彼らの引き出しの多さこそレジェンドバンドに共通する何かなんですよね。これ、生で聴けたファンは無茶苦茶ラッキーだとほんま思いますよ。耳がしびれるぐらい迫力あるロックを演じるバンドって、絶滅したかもしれませんよね。キースのドラムだけでも見る価値ありますよ。僅か64分の上映時間ではありましたが、ぐったりしてしまいました。KOされちまったぜ。
さて何度か触れましたが、地元出身の俳優さんの遺作を今でも上映し続けてくれる律義さがこの古びた映画館の大きな味わいでもあります。
中学の後輩たちも鑑賞して感想文などを寄せてくれただなんて。
大阪市からも感謝が届けられております。
64分とは映画としては短い時間かもしれませんが、フーの演奏は聴いているほうも体力の消耗を感じます。演じ手はもちろん、鑑賞する側も燃焼感ハンパないっす。腹が減りました。コク旨ラーメン食って出直しますっす。