トリックスター/KISUI
1. Die Sterntaler
2. 過剰なメサイア
3. PIED PIPER
4. 灰かぶり
5. Little Red Riding Hood
6. Bremen
7. Hansel
PhobiaのVo.KISUIによるソロ・ミニアルバム。
クラウドファンディングにより制作資金を募った結果、見事目標を達成。
7曲入りのミニアルバムが完成しました。
ゲストギターには依織さんが参加しており、事実上Phobiaと言えるのですが、デジタルサウンドを強調した音楽性は、バンドとの差異化が出来ていると言って良いでしょう。
楽曲によって濃淡はあれど、全体的にサイバーな質感。
キャッチーさを切り捨ててもブレることない、攻めの姿勢を貫いています。
もちろん、KISUIさんが歌っているということで、歌い回しやメロディにPhobiaを感じさせる部分もあるのですが、ハードでメロディアス、あるいは生々しくドロドロとした名古屋系の雰囲気ではなく、無機質、無表情的なサウンドで世界観を構築。
インダストリアル的に振り切ったり、ギターが主張するデジロック的なアプローチをしてみせたりと、一辺倒になりすぎないように調整しながらも、KISUIさん流のダークネスを表現していました。
クラウドファンディングによってセールスに縛られないことが、この媚びずに突き放したような音楽性でのCDリリースを可能にしたのだとしたら、方法論として大成功だったのだろうな、と。
深掘りすると、歌詞が童話の別解釈となっているのが面白いですね。
シンデレラや赤ずきん、ヘンゼルとグレーテル等、有名な物語を下敷きに、"本当は怖いグリム童話"さながらのアナザーストーリーを持ってくる。
やや抽象的ではあるので、更に噛み砕く必要はあるものの、こんなにカッチリとしたコンセプトがあるとは知らされていなかっただけに、ワクワクを高める結果となっていました。
「過剰なメサイア」だけは、KISUIプロジェクトとして発表していた楽曲のセルフカヴァーとなり、ほかとコンセプトが異なる形になりましたが、導入となるSE「Die Sterntaler」に続く勢い付けに使われていて、ボーナストラックではなく、ミニアルバムの流れを良くする潤滑油として用いているのも計算高い。
唯一の歌モノである「Bremen」、そのメロディアス性をデジロックに還元した「Hansel」と、ファンが求めるであろう楽曲を固めてクロージングしていくところまで含めて、流れは意識していないようで考え抜かれているのです。
なお、いくつかの楽曲で、ex-SのVo.DAIさんが参加。
もう少し目立つパートを歌っても良かったのに、というもったいなさはありますが、久しぶりに聴いた彼のシャウト。
機械的なKISUIさんの歌声と真逆の熱量で、どうしてもあの頃が懐かしくなってしまう。
前衛的なサウンドの中に、こんなノスタルジーが隠れているとは、様々な角度から心を揺さぶる1枚です。