百鬼夜想 / 中村椋 | 安眠妨害水族館

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百鬼夜想/中村椋

 

1. 塵塚怪王

2. 雨女

3. 屏風闚

4. 山颪

5. 木魅

6. 日の出

 

 

妖怪×ラブソングシリーズ第二弾となる、ヴィジュアル系シンガーソングライター・中村椋による第十二曲集。

 

第九曲集「百鬼夜曲」の流れを汲んで、妖怪をモチーフにしつつ、その実、人間の恋愛についての機微を切り取ったミニアルバム。

平沢進からの影響を公言し、レーザーハープを駆使したパフォーマンスも代名詞となっている彼ですが、本作では電子音を排除という試みを断行。

音楽的には、ギターロックへの回帰がテーマになっているようです。

 

和楽器風のフレーズと、歪んだギターによって疾走する「塵塚怪王」、ジャジーなアレンジでお洒落さすら与えている「雨女」と、序盤はとっつきやすいサウンドでスタート。

続く「屏風闚」では、更にお洒落な方向に振り切るという意外性も見せているのだけれど、聴きやすさとともに、ひっそりと和風、レトロといったイメージを植え付けているのが巧妙ですね。

音だけ聴いていれば、これが妖怪をテーマにしている作品とは思えないほどで、これが伏線として後々効いてくる。

作品全体を通して聴いたときの後味をもって歌詞を読み込みながら2周目に突入すると、また違った味わいがあって、立体感がぐっと増しているのです。

 

バンカラな青春パンクといった様相の「山颪」も、新境地と言えるのかな。

アングラ臭を強めたcali≠gari 「青春狂騒曲」といったところで、ここで映像がフルカラーからモノクロに切り替わるスイッチのような感覚。

切なさを帯びたキラーチューンである一方で、時代設定を大幅に巻き戻すような質感が、アルバムの中で重要な位置づけを担っているように思いました。

そこから一気に「木魅」で、妖怪コンセプトらしいおどろおどろしさに引きずり込むのもポイント。

箸休め、とのことではありますが、世界観への影響は極めて大きく、このローファイなサウンドが前半のお洒落さすら和の不気味さとして巻き込んでいたな、と。

そして、ラストは「日の出」。

この楽曲だけ、少しテーマの置き方を変えているのだけれど、それにより、妖怪のいた過去から、現代へのクロスオーヴァ―を果たす総括として、見事に機能しています。

ブルースハープを取り入れて、あくまでアナログに装飾しているこだわりも良し。

 

電子音を禁じ手にした引き算の美学は、パニック映画ばりに恐怖を詰め込むのではなく、何もない静けさにおどろおどろしさを感じさせる日本文化と馴染みやすく、かえって世界観を分厚くしています。

なんなら、音楽性としては、特に不気味さを感じさせるものはなかったはずなのに、いつもよりも足りないということをもって、そこに不安の影を感じてしまう人間心理が、絶妙に作用していたのでは。

もっとも、ギターロックに絞ったところで、引き出しの多さは感心の一言。

バラエティ性もあって、1曲1曲の粒が大きいミニアルバムでした。

 

<過去の中村椋に関するレビュー>

被覆曲集1

第十一曲集「血緑」