慎一郎&杏太の単独公演。
会場は、いつも通りのアプロ赤坂。
コロナによるライブ自粛の影響で、本来の時期とはズレてしまったようですが、慎一郎さんがシーンに復帰し、慎一郎&杏太として再始動してから5周年を記念してのライブとなります。
第一部は、慎一郎&杏太を総括してのセットリスト、第二部は、ルーツとなる90年代ヴィジュアル系アーティストのカヴァーのみで構成されたセットリストとなることが事前に発表されており、珍しさを優先して第二部に行ってきました。
前回同様、ふたりともスタンディングでの演奏が基本姿勢。
それだけでシッティングのゆるりとした空気ではないことが伺えるのですが、それ以上にピリっとしていたのが、二人のメイクでしょう。
慎一郎さんは黒い涙を流しているし、杏太さんは、眉のラインが鼻筋まで繋がっていく、90年代特有のメイク。
攻撃性の高い出で立ちだったのですが、残念ながら、オーディエンスはマスク+フェイスガードで、声を出すのはご法度というこのご時世。
リアクションが出来ないことによる妙な間が出来てしまったのは、誰を攻めるわけにもいけないのです。
1. 優しい悲劇(黒夢)
2. Vivid Colors(L'Arc~en~Ciel)
3. JUPITER(BUCK-TICK)
4. 桜の満開の木の下で(Merry Go Round)
5. HURRY GO ROUND(hide with Spread Beaver)
6. gravity(LUNA SEA)
7. Forever Love(X JAPAN)
8. ずっと2人で…(GLAY)
セットリストについては、同世代からしてみると無難っちゃ無難。
強いて言うならMerry Go Roundが思い切ったところかというぐらいで、意外性のあるバンドや、ぶっとんだ選曲はなかったですかね。
とはいえ、だからこそのルーツ感もあって、僕らが中高生のときにクラスメートとカラオケに行ったときに歌う楽曲集としては、めちゃくちゃ純度が高いのですよ。
黒夢が「優しい悲劇」、L'Arc~en~Cielが「Vivid Colors」という選曲には少し捻った感があるかもしれないのだけれど、90年代当時に中高生だったギャ男の、コアすぎて引かれたくないけどミーハーとも思われたくないという自意識は、ちょうどこの辺に着地するのだよな、となんだか懐かしくなってしまう。
BUCK-TICKの「JUPITER」については、一般層からしたら盛り上がり方がわからなくて、結局、引かれてしまうのがオチなのだけれど。
初期の黒夢は、慎一郎さんがもっとも聴き込んだバンドということで、もはや自分のものにして気持ちよさそうに歌っていたのが印象的。
一方で、BUCK-TICKやX JAPANなどは、杏太さんの思い入れがあるバンドとして選曲されたとのことですが、慎一郎さんはさほど通ってきていなかったようで、それはそれで斬新な解釈に繋がったりと、興味深いカヴァーになっていました。
Merry Go Roundの「桜の満開の木の下で」は、杏太さんは椅子に座り、慎一郎さんは没入感を強めて、ドロリドロリと普段見せない表情を見せていく形。
この曲で、そんなに感情が込められるのか、と驚かざるを得ない表現者としてのクオリティの高さで、新しい扉を開いた気がします。
ちなみに、メジャー盤では"ピー"音が入ることでも有名なこの楽曲ですが、さすが、無修正の歌詞で歌っていましたね。
ツイキャスでも配信されていたと思うのだけれど、その辺りの放送コード的なものは問題なかったのだろうか、と少し心配になったり。
hideさんの「HURRY GO ROUND」は、杏太さんがヴォーカルをとり、慎一郎さんとのツインギター編成で。
ポップ=簡単というわけではない、というのがよくわかるこのナンバー。
4/4から6/8への切り替えにはやはり苦戦したようで、二番以降は仕切り直しになるというハプニングもありましたが、この曲はここが面白いとか、この曲のここが難しいとか、ギターキッズの目線で楽曲を解説する杏太さんが新鮮で、ギターの手元が見やすい小規模の公演だからこその楽しみ方も見つかりましたよ。
印象的だったのは、「Forever Love」。
原曲キーで歌えるNoGoDの団長を引き合いに出して、自分は2.5音下げて歌う、と自虐的に語っていましたが、これが慎一郎さんのプロ意識なのだな、と。
「Vivid Colors」でも、ファルセットの部分をオクターブ下げでアレンジしたメロディラインを歌っていたので、ちょっと惜しい気持ちがあったのですが、きっと、安定して歌える、お金を払って聴きに来る人が満足するレベルで歌えることが、彼にとっての"歌える"なのでしょう。
おそらく、最初に杏太さんがデータを送ってきたという1.5音下げでも、慎一郎さんの歌唱力であれば歌えないことはないはずで、だけど、そこにチャレンジの重きを置くのであれば、歌詞やテーマを最大限に表現することへのチャレンジに余力を振り当てたい、と考えるのが慎一郎さんなのだろうな。
実際、とてつもなく引き込まれる歌唱で、原曲のキーではないからといって、曲の価値は下がらないというのを証明していました。
ラストは、GLAYの「ずっと2人で…」。
「Forever Love」のくだりで感心した手前、キーが低くてもこれがベストなのだろう、と信じて聴いていたら、ワンコーラスが終わったところでストップをかける慎一郎さん。
なんと、杏太さんがカポを付けるのを失念したままスタートしてしまい、結果、本来のキーよりもだいぶ低くなっていたとのこと。
1日に毛色の違う単独公演を2度もやっていれば、こういうこともありますよね。
最初から仕切り直しての演奏だったので、本人たちからしたら悔しいのだろうけれど、オーディエンスからすれば、もう1回最初から聴けるというラッキーチャンス。
仕切り直しの「ずっと2人で…」は、表現力が一気に跳ね上がっていて、ラストの盛り上がりでは鳥肌が立ったほど。
そうそう、これなのですよ。
1月にアプロ赤坂で杏太さんのバースデー記念公演、夏ごろまでにアルバムの発表と、今後の予定もいくつか。
このような時代、次の予定を示してくれることが、とにかくありがたい。
ちなみに、相当に気持ち良かったようで、MCでは、年イチぐらいでカヴァーをやりたいとの言もあり。
具体的にDeshabillzの名前を出して、次回はもっとマニアックなものを…と杏太さんは考えているようなので、慎一郎さんの了承がとれれば、是非実現させてもらいたいものです。
なんとなく、LaputaやROUAGEあたりに落ち着きそうな気はするけれど、それでもまったく問題はないので。