Mist forest with time stopped/emonchhichi
1. 憂鬱の色彩~Singularity~
2. 雨に滲む世界
3. Stargazer
Twitterでの限定活動プロジェクト、emonchhichiによる1stEP。
アートワークは、HOLLOWGRAMやKEELのヴォーカリスト、ryoさんが担当しています。
約20年前、仙台を拠点にしていたrouge~et~noirのギタリスト、一真さんによるソロワークス。
同じく仙台を中心に活動しているわたぬきのVo&Gt.岡崎さんを迎えての作品となります。
収録された「憂鬱の色彩~Singularity~」、「雨に滲む世界」は、rouge~et~noirで演奏されるも、未音源化のまま眠っていた楽曲とのことで、"あの頃"を感じさせる仕上がりになっているのではないでしょうか。
300枚限定で、シリアルナンバー入りというギミックも、懐かしさを感じさせますね。
さて、率直な感想ですが、想像以上でした。
正直なところ、Twitterのアカウントから派生しての音楽活動ということで、もっと内輪ノリを想像していたというか、打ち込み中心のオケに歌を重ねた思い出作り的な内容でも仕方ないか、との思っていたのですよ。
ところが、ギター、ベース、ドラムに、バイオリンまで生音で演奏されていて、何ならそこら辺にいる現役のマイナーバンドよりも、音楽へのこだわりがうかがえる内容。
良い意味でV系然とはしていない岡崎さんの深みのある歌声も、安易な90年代懐古主義に陥ることなく、楽曲の個性を引き立てる要素になっており、様式美的な楽曲に新たな解釈を加えています。
「憂鬱の色彩~Singularity~」は、疾走感のあるメロディアスなナンバー。
繊細なアルペジオと、インパクトを重視したリフが交錯する2本のギターの絡みや、動き回るベースのフレーズによって緻密に組み立てられたクラシカルなアレンジは、重厚なサウンドが主流の現代音楽では失われつつある耽美さを思い出させてくれました。
シングルらしいキャッチーさもあって、リードトラックとしての風格は十分。
ところどころ、音がぶつかってごちゃっとなる部分はあるにせよ、当時、個の強いバンドに見られたメンバー間のせめぎ合いを想起させて、ノスタルジーを駆り立てているのは間違いありません。
続く「雨に滲む世界」は、淡々と進行していくミディアムチューン。
エモーショナルな「憂鬱の色彩~Singularity~」に対して、この楽曲では、あえて感情を抑えるような演出が効いているのかと。
というのも、このナンバーの肝は、ずばりラストシーン。
透明感のあるファルセットを巧みに操り、そこまで溜めるに溜めた感情の渦を一気に爆発。
これでもかというほどに盛り上げていくのですもの。
ラストは、書き下ろしとなる「Stargazer」。
最初は、バイオリンを加えたクラシカルなイントロと楽曲タイトルのイメージが結びつかずに戸惑ったのだが、そうやってとっかかりを作っているのだとしたら、策士と言える。
懐メロックに通じる歌謡曲要素も織り込みつつ、やはり耽美で様式美的なイメージは残して。
最終的には、ロマンティックなメロディが脳裏に深く刻まれることとなり、何度も聴きたくなってしまう"してやられた"感。
いつの時代であろうと、"曲の良さ"に勝る武器はありません。
それぞれタイプが異なる、バランスの良い3曲。
そこに、メロディセンスや耽美さという軸を通しており、総じてクオリティが高い。
随分とダークホース的な名盤が飛び出したものですな。
なお、クレジットは全曲でLyrics&Music.一真、Melody&Arranged.岡崎となっています。
特典のインタビューブックを読む限り、サポートの域を超えて、岡崎さんががっつり制作に入ってきている印象で、この化学反応は、ふたりのアイディアがぶつかり合ったことによるところが大きいのだろうな、と。
それにしても、作詞・作曲と、旋律をつける担当が分かれているのは珍しいような。
リスナーとの距離が近い分、どういう制作スタイルだったのだろう、と余計に裏側が知りたくなる1枚でした。