葬艶-FUNERAL- / 葉月 | 安眠妨害水族館

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葬艶-FUNERAL-/葉月

 

1. ETERNITY

2. PHOENIX

3. D.A.R.K.

4. 軽蔑

5. 密室

6. 水鏡

7. 月のしずく

8. Ray

9. 至上のゆりかご

10. Another day comes

11. 玉響の灯

 

 

lynch.のヴォーカリスト、葉月さんによる初のソロアルバム。

限定盤には、「HAZUKI 20TH ANNIVERSARY 奏艶」のライブ映像が収録されたBlu-rayが付属します。

 

選曲は、オリジナル曲あり、lynch.の楽曲のセルフカヴァーあり、他のアーティストの楽曲カヴァーありと、バラエティに富んだ内容。

カヴァー曲については、BUCK-TICK、LUNA SEA、黒夢といったルーツとなったバンドや、Cocco、柴咲コウ、Pay money to my painと、世界観であったり、サウンド面であったり、何らかの親和性が見出せるアーティストからセレクトされています。

この手の企画の定番である懐メロではなく、癖はあるけれど同じ世代、同じシーンで育った人間にはドンピシャのラインナップなのがたまりませんね。

もちろん、定番ではない故、世代から外れるリスナーにとっても新鮮さが感じられると思われ、いずれにしても聴きごたえありと言えるでしょう。

 

本作の特徴なのが、ピアノとストリングスを中心とした壮大なアレンジ。

ソロ作品らしいアコースティック感はあるのだけれど、アコギではなく、オーケストラ風のサウンドメイクにてそれを再現しているのが面白いな、と。

すぐ隣で歌っているようでもあり、大きなホールで歌声を響かせているようでもあり、楽曲のテーマによって、自由自在に距離感を操っている。

これを特に感じるのがBUCK-TICKからのカヴァーである「密室」で、オリジナルが持つ閉鎖的なイメージから、広い空間へ解放されていくイメージに切り替わる様子が、実にドラマティックに描かれていました。

 

楽曲によっては、琴や尺八といった和楽器も取り入れていて、神秘性を高めるアクセントにしているのもポイントです。

Coccoの「水鏡」、柴咲コウ(RUI)の「月のしずく」は、それが良く活かされており、淡い切なさと感情の激しさを、幻想的な世界の中に閉じ込めているような聴き心地。

「月のしずく」単体で聴くと、少し原曲に引きずられていると言いますか、和風サウンドの再現のために、序盤のlynch.のセルフカヴァーでのアレンジとギャップが出ているような気がしていたのですが、「密室」、「水鏡」と少しずつ馴染ませることで、違和感なくひとつの流れの中に存在させることに成功。

実はここがピークなのでは、と思えるぐらいの盛り上がりどころになっているのですよ。

 

また、葉月さんの歌唱法にも、驚かされる場面がたくさんありました。

クリーントーンでの歌唱レベルの高さは、ご承知のとおりですが、「PHOENIX」や「Another day comes」では、オーケストラの中でのシャウトに挑戦したり、和メロの楽曲群では、絶妙な揺らぎによる表現も。

改めて、lynch.で見せる姿は、たくさんある引き出しのうちのひとつだったのだな、と再認識。

「至上のゆりかご」での低いキーでの歌声なんて、現代的なロックサウンドの中で聴く機会は稀有なのではなかろうか。

 

4曲目の「軽蔑」と、ラストの「玉響の灯」は、ソロでのオリジナル曲。

コンポーザーとしても高い能力を発揮する葉月さんだからこそ、カヴァーだけで終わらせないという意気込みもあったのでしょうか。

ラウドサウンドで仕上げたらlynch.でも使えそうな"らしい"楽曲ですが、その分、バンドとの違いが明確に。

寄り道をせずに、あえてド直球で突っ込んでくるのも、なんとなく葉月さんっぽいのだよな。

どの視点で見ても、ありそうでなかったソロ作品。

こんな形でのソロ活動なら、第二弾、第三弾にも期待したくなる1枚です。