ヒトリランド/ハイダンシークドロシー
1. メーズ
2. ページェント
3. トランプゲーム
4. ブランコ
5. ウタカタワルツ
6. ヒナギク
7. バラバラモノガタリ
8. モルフォ
9. ストロベリーバブル
10. ヒトリランド
11. アオゾラ☆カーテンコール
12. アヴェ・マリア
7月に結成して、まだ3ヶ月に満たないというタイミングでリリースされた、ハイダンシークドロシーの1stアルバム。
CD盤には、「アヴェ・マリア」がボーナストラックとして追加収録されています。
実験台モルモットのVo.谷琢磨、ex-犬神サアカス團のGt.情次2号、Ba.ジン、ex-KraのDr.靖乃という、個性もキャリアもある布陣。
届けられた作品は、さすが、初期衝動と呼ぶには完成度が高すぎるとすら思えるほどの洗練された様式美と、圧倒的な表現技法に包まれていました。
メインコンポーザーには、情次2号さんが君臨。
哀愁を帯びたメロディに"らしさ"を感じますが、ハイダンシークドロシーというフィルターを通すことによって、クラシカルだったり、ジャジーだったり、様々な要素が持ち込まれ、より芸術性が高められたと言えるでしょう。
アルバムの肝は、スタートダッシュ。
先行シングル2曲を立て続けに持ってきて、インパクトを高めていきます。
「メーズ」は、クラシカルな展開とダークメルヘンな雰囲気が絡み合うナンバー。
谷さんの3オクターブの声域がなければ歌いこなせないジェットコースターのようなメロディラインの高低差が特徴で、遊園地「ヒトリランド」、いきなりメインのアトラクションに乗ったような気分ですよ。
「ページェント」はレトロなメロディと、ジャジーなサウンドが耳馴染みの良さを生み出していました。
この曲は、テンポが遅くなったり、速くなったり、バンドサウンドだからこそ呼吸で合わせることができる緩急のつけ方が面白い。
「メーズ」がジェットコースターなら、こちらはコーヒーカップといったところで、回転速度における主導権の握りあいにワクワクドキドキしてしまいますね。
この時点で、このバンドはとんでもないぞ、という感覚がヒシヒシと伝わってくるうえ、実際に耳を進めれば、それが確信に変わっていくのだから、気付けばズブズブと沼にハマりこんでいるのです。
全体的には、やはりナイーブかつ暗い作品。
だけど、狙ったように「ヒナギク」や「バラバラモノガタリ」、「アオゾラ☆カーテンコール」のような、ストレートなビートロック、アメリカンロックが入ってくるのがポイントでしょう。
彼らに期待されている世界観における"安心感"を与えている一方で、バンドとしての化学反応、新たな引き出しを見出そうとしています。
こうなってくると、疾走感のあるメロディアスチューンがもっとがっつり聴きたかった、という次の欲求は生まれてきますが、一見ミスマッチな楽曲を多めに配分することで、かえってメルヘン色が強まるというか、それにより躁鬱的な表現になっているというか、結局は構成の上手さに帰結していくキャリアがあるが故の巧みさ。
アトラクションの充実っぷりも、リピーターを増やしそうである。
終盤は、表題曲の「ヒトリランド」が圧巻。
ボーナストラックの「アヴェ・マリア」もそうなのだけれど、ロックアレンジしたクラシックの楽曲でしょ、というほどに複雑で音域が広い高難易度の楽曲を、大迫力で完璧に歌い上げてしまう谷さんの歌唱力は、格の違いを見せつけています。
もはやロックオペラという域にも入っているため、リスナー側での得意不得意は出てくるのかもしれませんが、とにかく圧倒されることは間違いなし。
ライブでも一切ブレることがないレベルですから、声楽で海外留学していた経歴は伊達じゃないのだな、と。
ただでさえ新人バンドが頭角を現しにくいコロナ禍におけるヴィジュアルシーン。
同期に、こんなチートすぎるバンドまで登場してしまったら、舌を巻いて逃げ出したくなっても仕方ないかも。
そう思えるぐらいには既に完成されている感があった、2020年新人賞の第一候補となる1枚です。
<過去のハイダンシークドロシーに関するレビュー>