天邪鬼/己龍
1. 天邪鬼
コロナウイルス感染防止の観点から、5月に予定していた単独巡業「殊塗同帰」の千秋楽公演が中止になった己龍。
本作は、その代替となる無観客ライブのDVD化を目的としたクラウドファンディングのリターンとして制作されたシングルです。
ご承知のとおり、己龍が企画したクラウドファンディングは大成功。
1,000万円の目標に対して、2,000人以上の支援者および4,000万円を超える資金が集まりました。
早々に目標を達成したことを受けてストレッチゴールが設定され、そのリターンとなったのが、このシングル。
300%達成を超えたところで、更にはMVの制作も行われることとなり、DVDも付属する豪華仕様となっています。
ライブDVDとは別梱包になっていて、「天邪鬼」という単独作品としてパッケージ。
トールサイズのジャケットで、アートワークとしてのデザイン性もあり。
歌詞は裏ジャケにアーティスト写真とともに掲載されており、ブックレットこそありませんが、ストレッチゴールのおまけとしては、期待以上と言えるでしょう。
基本プランがライブDVD+ノベリティのシリコンバンドで6,000円。
これにCD+DVDのシングルが付属したのだから、コストパフォーマンスは相応に高いかと。
さて、収録された「天邪鬼」は、Gt.酒井参輝さんが作詞・作曲を担当したハードチューン。
ツタツタと刻まれるスピード感のあるドラムが焦燥感を表現しているようです。
メロディを歌っていたはずが、いつの間にかズタズタなシャウトになっている演出は、少しずつ追い詰められていく和製ホラーな世界観とも重なっていて、実に己龍らしい。
激しさに特化したような楽曲であっても、和風なアレンジに仕立ててしまう巧みさには、さすが、コンセプトを曲げずに長期間第一線に身を置いているだけの風格を感じました。
そのうえ、しっかりメロディも耳残るのは好印象。
1曲入りの、特殊な状況下で発表するシングル。
気負いすぎて、振り切っただけの作品になったり、王道ど真ん中すぎて面白味に欠ける作品になったりするリスクはあったのだと思いますが、インパクトを与える極端さは持たせたうえで、このメロディの強さを出せるとは。
ヴォーカルトラックをいくつかに分けて録音し、言葉が重ねることで畳みかける勢いを増す演出も効いていますね。
支援者全員に送付されているとすると、限定2,100枚~2,200枚くらいになるのかな。
レアアイテムととるか、欲しい人には行き渡っているととるかは解釈が難しいところですが、後から手に入りにくい作品となったのは事実。
コロナ禍におけるクラウドファンディングブームの象徴となった1枚です。
<過去の己龍に関するレビュー>