アプロ赤坂で行われた、慎一郎&杏太の単独公演、「世迷歌~陰に咲く向日葵たちに今、光を~」に行ってきました。
このご時世ということで、二部公演で、それぞれ1時間。
キャパの半数以下となる20人に絞った限定ライブで、本格的にライブ活動を再開する前のプレライブ的なニュアンスが強かったですかね。
アーティスト側も探り探りで活動形態を模索しているわけで、何が良くて、何が過剰で、というのは未だわかりませんが、まずは一歩足を進めたといったところでしょう。
演奏時間が短いのは、ライブハウスの換気の関係。
にもかかわらず、興行として成立させるためにチケット代は上げなければいけないというジレンマは、集まったファン以上に慎一郎さん、杏太さんが憤っていた印象で、1曲1曲の密度がとんでもないことになっていました。
まず、ふたりともスタンディングでのセット。
アコースティック演奏のときは、シッティングでのセットが多かったのですが、体全体で表現する意図があったのか、時間が短いため、ペース配分を考慮する必要がないと踏んだのか、久しぶりに立って演奏する慎一郎&杏太を見た気がします。
1曲目は、「秋茜」。
猛暑が続いていたこともあり、まだ季節が追い付いていない感はありましたが、一度演奏に入ってしまえば、そんなことは気にならなくなる没入度合いです。
続く、「積み木」にしても、「メメントモリ」にしても、いずれも喪失感の強い楽曲で、何かテーマがあったりしたのかな。
20人程度のオーディエンスであれば、もはやマイクなんて要らないのではないかと思えるほどの慎一郎さんの声量は、コロナ禍のブランクを感じさせず。
杏太さんも、一点を見つめて鬼気迫る集中力でギターの弦を紡いでおり、十分すぎるほど貯め込んだ熱量を、ここぞとばかりに放っていました。
演奏が終わった後に、開放弦を叩きつけたときは、本当にゾクゾクとした。
そう、この距離感で、この畏怖にも似た感情をぶつけられるのが、ライブなのだよな。
どっぷりと闇に落ちる「ハーメルン」で、暗くて重たい空気は絶頂に。
オーディエンス側から声が出せないという制約もある中、この日はとにかく世界観を突き付けて圧倒するタイプの楽曲をやっていくのかな、と思い始めたところで、舵を切ってきたのは、新曲である「今、光を」。
この日、会場限定のCDRとして販売されたシングル曲であるが、彼らにとっては珍しい、決意表明のようなメッセージソングでした。
前向きな楽曲は、過去の活動の中でもなかったわけではないけれど、ここまで使命感に溢れた主体的なメッセージが込められているとは。
底まで落ちたところで、この曲をスイッチに光を照らす楽曲にシフトしていく、というセットリストの構成は、底まで落ちたエンターテインメント、あるいは社会情勢の中で、彼らの音楽が光になる、という意気込みの暗喩だったのかもしれません。
杏太さんが作詞・作曲を担当した「向日葵」も初披露。
新曲の2曲は、同期によってバンドサウンド風のアレンジになっており、この「向日葵」については、途中で花火が打ちあがる音のSEなんかも含まれていました。
今後、同じように演奏するかは未定とのことですが、まずは音源と同じアレンジで聴いてほしかったとのこと。
彼らの歌謡曲風の音楽性の中でありそうでなかった、cali≠gariを彷彿とさせるフォーキーなナンバーに仕上がっているので、純粋なアコースティック編成でも映えそうですね。
ラストは安定の「たからもの。」なのですが、"お約束"が当たり前に演奏されることの喜びたるや。
セットリストに一喜一憂するどころか、決まったライブが無事に開催されるかもままならない昨今、当たり前に終われることのありがたみを、この日ほど痛感した日はないでしょう。
なお、いつもよりは少な目だったとはいえ、慎一郎&杏太らしいと思えるぐらいにはトークも充実していました。
次回のライブはもう少し長めで、同時配信も検討していること、アルバムの制作を行っていて、この日の会場限定シングルはその先行シングルの位置づけであることなど、重要情報もさらりと発表。
音源化されていない楽曲も増えてきているだけに、アルバムは本当に楽しみ。
マイペースな社会人バンドだけに、ゆっくり待つつもりではいますけれど、慎一郎&杏太に目標が生まれていることを知れたのは良かったな、と。
チケット代はともかくとして、中だるみせず、集中力が持続する範囲の中でライブをやり切るショートワンマンも、たまにはアリかな。
フェイスシールドとマスク着用の状態で、ドリンクはどうやって飲めばいいのだ、という葛藤は常にありましたけれど。
1. 秋茜
2. 積み木
3. メメントモリ
4. ハーメルン
5. 今、光を
6. 向日葵
7. たからもの。