雨の朝、新宿に死す / ヘクトウ | 安眠妨害水族館

安眠妨害水族館

オバンギャと初心者に優しいヴィジュアル系雑食レビューブログ

雨の朝、新宿に死す/ヘクトウ

雨の朝、新宿に死す 雨の朝、新宿に死す
5,630円
Amazon

 

1. 新宿は燃えているか

2. 孤独たちのララバイ

3. クチナシ

4. 青春の断末魔

5. 雨の朝、新宿に死す

 

ヘクトウの1stミニアルバム。

先行シングルに収録されていた「新宿は燃えているか」、「クチナシ」を含む、全5曲を収録しています。

 

桜井青=密室系とはもう呼ばせない、新たなジャンル"新宿系"の提唱。

ぶっ飛んだアングラ要素は控えめに、どこか焦燥感や無常観に包まれた文学的な楽曲たちは、その輪郭が明確であることを示していますね。

賑やかだけれど、よそよそしくもある新宿という街。

それが、こうも鮮やかに音楽で表現されるものかと驚かざるを得ませんもの。

 

代表曲である「新宿は燃えているか」と、表題曲である「雨の朝、新宿に死す」は、青さんが作詞作曲。

間に挟まれる形の3曲は、小林写楽さんが担当するという役割分担。

作曲者の個性はよく出ていると思いますが、シンプルなロックアレンジにまとめられており、きちんと作品としても統一感を持っている。

【カッコー】 以来、8年ぶりに同じバンドで音を重ねる二人が、ようやくアルバム作品をリリースするというのも感慨深いです。

 

得意とする郷愁メロディが炸裂する「新宿は燃えているか」から、メッセージ性が強く、ストレートだけど印象的なメロディが胸を打つ「孤独たちのララバイ」に繋ぐと、パンキッシュな「クチナシ」、アクセントとしてアングラ気質も織り交ぜた「青春の断末魔」へと流れていく絶妙な構成。

そして、楽曲ごとの尺が長くないこともあり、ややボリューム不足を懸念しはじめたところに訪れる「雨の朝、新宿に死す」。

ドラマティックな展開で、聴いた後の余韻だけで充実感が得られる力作なのですよ。

メロディは青さんらしいのだが、 cali≠gariとの違いも感じられました。

 

上述したとおり、この作品に漂うのは、焦燥感や無常観。

歌詞やサウンドにより表現される世界観によるところも当然大きいのですが、その要因のひとつとして、ほぼ一発録りだったというレコーディングの形態にもあるのかもしれません。

その場の空気をまるごとパッケージすることで、人柄や生き様までレコーディングされているかのよう。

オーディエンスに向けるというよりも、自分自身にベクトルが向いているので、ライブ感とも少し違う感覚なのだよな。

結果として、きっちりかっちり作り込むよりも人間味のある作品に仕上がったのではないかと。

 

既存曲も収録されていることを勘案すれば、曲数に対して2,500円+税という価格設定は、やや高めに感じる。

ただし、アートワークやブックレットの質感にまでこだわっているので、この時代にCDを所有したいというリスナーには満足度も高いのではないでしょうか。

現時点のヘクトウを知るには、とにかくこれを聴くべし、という既に代表作の風格を持った1枚。

 

<過去のヘクトウに関するレビュー>

新宿は燃えているか