DREAM LOVERS / 夕霧 | 安眠妨害水族館

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DREAM LOVERS/夕霧

 

1. ラブ・ストーリーは突然に

2. 空の便箋、空への手紙

3. 歩いて帰ろう

4. PRIDE

5. 千の風になって

6. 家族

7. 離したくはない

 

DaizyStripperのボーカリスト、夕霧さんによる2016年にリリースされたソロ作品。

影響を受けた楽曲をジャズアレンジで歌い上げるカヴァーアルバムとなっています。

 

アルバムタイトルは、"全ての夢見る人へ"という意味が込められているのだとか。

公式に"究極に眠くなり最後まで聴けないCD"と謳ってしまっているのが、かえって興味をそそりますね。

実際、ゆるいテンポの楽曲を中心に集められているうえ、アレンジはジャズをベースに、ヒーリング系のイメージに仕上げられているので、眠くなるというのも納得。

当然ながら、退屈でつまらないという意味ではなく、安眠へと誘う優しさ、安らぎに包まれているということでした。

 

しかしながら、なかなかどうして衝撃も大きくて、はじめて聴いたリスナーは、眠るどころではなかったのではないでしょうか。

小田和正さんの「ラブ・ストーリーは突然に」や、今井美樹さんの「PRIDE」は、まぁ、わかる。

歌い継がれるべき往年の名曲であり、夕霧さんのハイトーンボイスにもハマるのは明確。

斉藤和義さんの「歩いて帰ろう」も、夕霧さんが歌うとどうなるか、という面白味があります。

 

興味深いのは、このラインナップに、シドのインディーズ時代の楽曲、「空の便箋、空への手紙」が含まれていること。

過去に「妄想日記」をDaizyStripperでカヴァーしているので、影響を受けているのは間違いないのだろうけれど、それにしても渋い選曲。

強い違和感があるわけではないのだけれど、やはり流して聴く中での引っかかりにはなるわけで、絶妙だったと言えますな。

 

そして、それを大きく上回るインパクトを叩き出すのが、「千の風になって」と「家族」のコンボ。

いや、これ本当に夕霧さんが歌っているのだろうか。

前者は段の柔らかい伸びやかなハイトーンからは想像がつかない、秋川雅史さんばりの太く力強いバリトンボイスを響かせており、ボーカリストとしての幅の広さを示しています。

また、後者は、100人規模の合唱曲を、ソプラノ、アルト、テノール、バス…

すべてを自分の声で再現してしまうという前代未聞のチャレンジ。

そもそも、さっきシドを歌っていた人が、同じアルバムで平成6年度NHK合唱コンクール中学生の部課題曲を合唱しているって、褒め言葉として無茶苦茶ですよ。

クオリティ高く、あらゆる角度から圧倒されたといったところ。

 

なお、A-TYPEには、X JAPANの「Forever Love」、B-TYPEには、T-BOLANの「離したくはない」を収録。

「Forever Love」はある程度仕上がりが想像できた部分もあり、B-TYPEをセレクトしました。

ロック調の発声で歌われるので、さすがに大合唱の直後でギャップは出てしまうのだが、ゴスペル風のアレンジが格好良い。

楽曲構成としても盛り上がりがあって、ボーナストラック的な位置づけにするのはもったいない気もします。

 

ガシガシ攻めるタイプのバンドサウンドを好む層には刺さらないのかもしれないけれど、ボーカリストのソロ企画として、これは面白かった。

自らの武器を理解しつつ、誰もやっていないことをやって驚かせようというマインドが、数あるカヴァーアルバムの中での差異化を実現できているのだ。

表現者としての可能性も提示し、やる意義のあるソロアルバムだったな、という1枚でした。