迦陵頻伽 / 陰陽座 | 安眠妨害水族館

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迦陵頻伽/陰陽座

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1. 迦陵頻伽
2. 鸞
3. 熾天の隻翼
4. 刃
5. 廿弐匹目は毒蝮
6. 御前の瞳に羞いの砂
7. 轆轤首
8. 氷牙忍法帖
9. 人魚の檻
10. 素戔嗚
11. 絡新婦
12. 愛する者よ、死しに候え
13. 風人を憐れむ歌

陰陽座の約2年ぶり、通算13枚目となるオリジナルアルバム。
彼らとしては最高順位となる週間7位を獲得する作品となりました。

タイトルである「迦陵頻伽」は、極楽浄土に住むとされる、絶世の美声を持つ生き物のこと。
音楽作品としてはこれ以上ないハードルの高さなのですが、歌唱力・演奏力ともに、陰陽座ならば名前負けすることはないだろう、という安心感があるのは、これまで積み重ねてきた実績のたまもの。
これまで卵だった迦陵頻伽=Vo.黒猫が、いよいよ孵化をする、という意味合いも込められているようで、結成から17年、ここまでの流れがすべて計算づくかよ、しかも、これまでは卵の中の状態だったのかよ、という二重の衝撃を与えてくれます。
迦陵頻伽は、卵の中で既に美声を響かせるという伝説があるので、整合性がとれているのだから恐ろしい。

陰陽座としては初の試みとなるらしい「迦陵頻伽」という表題曲の存在も、その前提があれば意味深。
これがトップバッターに来ることで"違い"を象徴することになっており、バンド名をアルバムタイトルに付けることと同レベルの力の入り具合を暗示していますね。

特徴としては、鍵盤の音色が多く使われており、聴きやすさが高まった。
「鸞」、「熾天の隻翼」、「刃」と序盤は勢いよく突っ走るのだけれど、「御前の瞳に羞いの砂」、「轆轤首」と、ポップだったり、ディスコティックだったり、メタルバンドの域を超えたアプローチも平気で織り込んでくる。
しかしながら、相変わらず、テーマやモチーフや日本古来の妖怪伝説を独自の解釈で切り取られており、音楽性が広がっても、そこで一貫性を保つことができるのは強みでしかないな、と。
お約束の忍法帖シリーズ、「氷牙忍法帖」では王道の格好良さを見せつけているし、長尺の「人魚の檻」ではドラマティックで濃厚な世界観を演出しているのもポイント。
実にわかっている構成である。

終盤では、ツインボーカルが映えるメタルチューン、「愛する者よ、死しに候え」でピークを迎えると、最後はポップネスに振り切れた「風人を憐れむ歌」へ。
どこに着地するかわからない奇想天外さと、それすら計算に裏付けられたと思わせるだけの説得力。
ひとつひとつにマンネリを感じない新鮮さがあるのに、結局のところ、聴き終わってみると陰陽座らしいのだ。
また、黒猫さんの、語り部にも登場人物にも化け物にすらなってしまう歌声は、歌唱というよりも、もはや演技と表現したほうがふさわしい。
安定感だけが、彼女を迦陵頻伽たらしめる理由ではないのだ、とはっきり理解できるのですよ。

面白いのは、ただ新しい陰陽座を表現するだけでなく、過去からのファンをニヤリとさせる仕掛けも多いところ。
以前に発表された楽曲と対になっているナンバーだったり、アンサーソングになっているだけでなく、当時のメロディや演奏を再現していたり、長年やっているからこそ可能になるアイディアの数々。
孤高の存在として君臨しながらも、そこに胡坐をかかないチャレンジ精神によって、今の彼らの地位は築かれてきたのだな、と痛感させられる1枚です。

<過去の陰陽座に関するレビュー>
煌神羅刹