VISUAL JAPAN SUMMIT 2016 備忘録 その6 | 安眠妨害水族館

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6日間に渡ってお送りしている"VISUAL JAPAN SUMMIT 2016 備忘録"も、これで最終回。
改めて、VJSが終わるんだな、と勝手に感慨深くなっています。
初日参加してなくてこれなのだから、フル参加だったら9日間も備忘録を書き続けていたのかと思うと気が遠くなる。

もとはと言えば、"V-ROCK FESTIVAL '12"が頓挫し、V系の大規模フェスの歴史はたった2回で終わりを迎えてしまうはずだった。
それをLUNA SEAが親交の深い邦ロックバンドも巻き込んでLUNATIC FEST.を開催し、X JAPANが、改めてV系としてのフェスに昇華。
V-ROCK FESTIVALで課題化されていた事務所間の軋轢も、YOSHIKIというカリスマを中心に置くことで、強引に垣根を取り払ってしまったのも痛快でした。
DIR EN GREYやMERRYといったFREE WILL勢が、関係の深いレジレコ勢、GOEMON勢とともに不参加だったのは気がかりであるも、ベストエフォートであったのは間違いありません。

突き詰めれば突き詰めるほど、V系の歴史において、重要な位置づけとなりそうなVJS。
最終日も終盤に差し掛かり、ここからは伝説が生まれる瞬間に立ち会うことと同義なわけで。
1秒たりとも見逃してはいけないな、という心持ちでステージを見つめていたのは、きっとわたしだけではないでしょう。


vistlip

1. SINDRA
2. Recipe
3. My second B-day
4. GLOSTER IMAGE
5. LAYOUT

ようやく見ることができたvistlip。
ミニアルバム「SENSE」が激ツボで、個人的にライブに参加したかったバンドのひとつ。
その「SENSE」からの楽曲がなかったのは残念だけれど、これはどこかでライブに行っておくべきでしょうか。

キラーチューンである「SINDRA」からのスタートで、華やかでスタイリッシュに決めてみせると、「Recipe」を続けて、爽やかさを押し出すようなセットリスト。
Vo.Tomoさんの"カラースプレーで髪を染めたら、楽屋中でヅラだと言われた"というゆるいトークも相まって、この日はソフトな感じで進めるのかな、と思わせる。

しかしながら、それがブラフだったことは、その後の攻撃性ではっきりします。
「My second B-day」、「GLOSTER IMAGE」と、徐々に加速度を増して、ラストはカオティックで退廃的ながら最終的には聴かせるパートが待っている「LAYOUT」。
確かにアルバムの最後の楽曲ではあったが、フェスの5曲の最後にこれを持ってくるとは想像できなくて、驚きと衝撃を与えてステージを去っていった印象ですね。

勝手にGt.海さんが広告塔的な立ち位置なのかと受け取っていたのですが、ライブで見ると、しっかりボーカリストに存在感があるのも良かった。
耳馴染みの良さにより、さらりと流してしまっていた演奏についても、生で聴くと難しいフレーズを緻密に再現していて、安定感がある、で済ませてしまうのはもったいない。
幅広い層が集まったオーディエンスに、vistlipが実力派バンドであることを存分にアピールできたのではないかと。


ゴールデンボンバー

1. 水商売をやめてくれないか~紅(X カヴァー)
2. 抱きしめてシュヴァルツ
3. 欲望の歌
4. †ザ・V系っぽい曲†
5. 女々しくて

この日、最大瞬間風速的な盛り上がりを見せたのは、間違いなくこのゴールデンボンバーでした。
実際のところ、エアーバンドという彼らのスタイルをよく思わないオーディエンスだってその場にいたはずであろう。
しかしながら、そんな批判は彼らのライブが終わった段階で、完全に搔き消されてしまった。
アンチを味方につける技術において、彼らの右に出るものはいない。
このVJSへの出演が決まった時点で、彼らの勝ちは決まっていたのかもしれません。

まず、新曲である「水商売をやめてくれないか」のジャケットが前方スクリーンに映し出されると、暗転のまま冒頭のサビのフレーズを歌い出す。
代表曲とは言えないまでも、最新シングルであれば演奏されて当然のこと。
誰も疑いを持たずに、ライトアップされた彼らを待っていたわけですが、実際のこの曲が歌われたのは、"水商売をやめて"の部分まで。
"くれないか"を、"紅だー!"というX JAPANのお決まりの煽りに結び付け、そのまま「紅」の熱唱へ突入すると、ここでようやくライトアップされた彼らは、全員が初期Xのコスプレをしており、この段階で、ともすれば頭が固くなってしまいがちな古株層をがっちりつかんでしまっているのですよ。

ギターソロでのパフォーマンスがお約束の「抱きしめてシュヴァルツ」では、"PATAさんはギターが上手い"という前フリから、PATAさんに扮した喜屋武さんがうまい棒で作ったギターにむさぼりつく。
樽美酒さんは、"YOSHIKIさんにコスプレをすることを報告したところ、ドラムセットを貸してくれた"というエピソードでざわめきを起こすと、パフォーマンスでは上半身裸でCO2を撒き散らし、ドラムセット(借り物ではない手作りセット)をぶち壊すという本家X JAPANをリスペクトした演出を繰り広げる。
「欲望の歌」では、MALICE MIZERやDIR EN GREYのオマージュを取り込んだMVを同時上映して笑いを連発させると、このフェスでやれば盛り上がること間違いなしの「†ザ・V系っぽい曲†」で試合を決める。
極めつけは、国民的なヒット曲となった「女々しくて」。
ただでさえ盛り上がる楽曲ではありますが、最後のサビ前でYOSHIKIさんが生ドラムで登場すすという奇跡としか言いようがないサプライズ。
エアーバンドがエアーでなくなる衝撃の瞬間には、今まで聞いたことがないくらいの歓声が巻き起こりました。

YOSHIKI公認になったことで、ある意味、無敵になった彼ら。
手数にしても、クオリティにしても、とにかくネタの切れ味が物凄く、伏線の張り方の見事さには、これはこれで一本の作品なのだな、と感心してしまうくらい。
解説するのは無粋であるのは理解しつつ、ひとつ例を挙げると、YOSHIKIさんのドラムが置いてあることで本人の乱入が予想されてしまいそうなところ、最初のMCで"YOSHIKIさんが貸してくれた"と自己申告し、その選択肢を一度消してしまっているのですよね。
樽美酒さんに、上述のYOSHIKIパフォーマンスを再現させることで、伏線としても回収した形になっており、サプライズを感づかせない演出の上手さが際立っていたシーンかと。
知名度に胡坐をかかない発想力と行動力。
この日のベストアクトは彼らで決まり。


cali≠gari

1. オーバーナイト ハイキング
2. マネキン
3. マッキーナ
4. 淫美まるでカオスな
5. アレガ☆パラダイス
6. サイレン
7. クソバカゴミゲロ

パリコレ風衣装の石井さん、休日のお父さん風なのにメイクばっちりの青さん、髪を逆立てヘヴィメタ系の格好をした研次郎さんという、出だしの段階で"なんだこれ"感バリバリのcali≠gari。
見た目で会場を驚かせただけでなく、セットリストにもまったく"よそゆき"的な配慮がないから凄まじい。
1曲目の「オーバーナイト ハイキング」こそ、ペンライトが揺れるキャッチーな歌モノなのだけれど、それは完全にギャップを作るための見せ球であったのです。

「マネキン」、「マッキーナ」など、パンクとニューウェーブから派生したような楽曲を畳み込むと、「淫美まるでカオスな」では、青さんがジュリ扇を持って踊り狂う。
「アレガ☆パラダイス」では妙なポップさがあるものの、だからといってオーディエンスがすぐに乗れるようなシロモノではなく、メンバーがステージ中を無秩序的に動き回る一方、見慣れているコアなガリスト以外は立ち尽くしながら、だけど目は離せないという、異様な光景。
まさに日本最大規模のアングラバンドだな、と。

ドューミーな「サイレン」、どこからどこまでが演奏なのか、もはや解読不能の「クソバカゴミゲロ」と、締め方までがカオティック。
MCすら入れず、付け入る隙を与えない閉鎖的な空間は、これこれ、これぞ密室系、と唸りたくなるものでした。
狂気的なスリリングさを帯びたパフォーマンス、一触即発の暴力的なサウンド。
ライト層がどう評価を下したか気になるところですが、ここまで個を見せつけてやり切ってくれれば、"cali≠gariがcali≠gariらしくて良かった"と安心したファンも多かったことでしょう。

余談ですが、彼らが登場する前のタイミングが、逹瑯さんとGEORGEさんによる総合MCの最終回だったとのこと。
そこで逹瑯さんが、"MUCCを育ててくれた兄貴分"と紹介したことにグッときましたよね。
密室系の看板を背負って共闘した2バンドが、こういう場で共演するというのも、ドラマティックな演出だと思いませんか。


LUNA SEA

1. ROSIER
2. BELIEVE
3. DESIRE
4. END OF SORROW
5. Sweetest Coma Again
6. gravity
7. I for You
8. STORM
9. SHINE
10. TONIGHT
11. WISH

初日にコアなナンバーを多く固めていたようですが、この日はベストアルバムのようなセットリスト。
1曲目に「ROSIER」を早速送り込んで、"なんて贅沢な!"と思ったのですが、いやいや、どこを切り取っても贅沢すぎるヒットシングルばかり。
「Sweetest Coma Again」と「WISH」についてはアルバム曲ですが、その2曲にしても、この界隈で知らない人はいないレベルの代表曲ではないですか。

昨年のLUNATIC FEST.で見たときよりも、Vo.RYUICHIさんの歌唱は切れ味が鋭くて、コンディションは良好。
楽器隊もステージを広く使って、もはや芸術の域に達したパフォーマンスを披露してくれていました。
「SHINE」でのINORANさんとJさんのコーラスワークが見れただけでも個人的には満足なのですが、ここまで青春時代に何千回と聴いた音楽を再現され続けると、感極まらないわけがない。
気が付いたら、無我夢中で拳を振り上げていましたよ。

もう、なんていうか格が違う。
色々なバンドの客層が集まって、世代も得意分野も異なるはずの会場が、例えば「STORM」のイントロの数フレーズだけでひとつになるのだ。
ゴールデンボンバーの「女々しくて」も、楽曲単体ではそのぐらいのパワーは持っているのだけれど、⒑曲超のセットリスト単位で、となると相応の歴史がないと到底無理な芸当。
何年もトップに君臨した実績があるからこそ、こういう試みを成功させることができるのだよなぁ。

もっとも、LUNA SEAにしてもリアルタイムで進行中のバンド。
往年のヒットソングだけですべてが語れるはずがなく、これはあくまで"フェスセトリ"となるのだろう。
これに近年のシングル曲などが加わってくれば、更に進化したLUNA SEAが出来上がるのだとすれば、ワクワクが止まらない。
完璧でありながら、進化の余地を残す。
去年の主催者だけあって、フェスで何を求められているかを熟知したステージでした。


己龍

1. 天照
2. 彩
3. 月下美人
4. ピンク スパイダー(hide with Spread Beaver カヴァー)
5. 百鬼夜行

高田馬場AREAに出ていた頃のまま、イメージを更新できていなくて、幕張のステージに立つ彼らを見てようやく、武道館バンドに成長していたのだな、という実感が沸いた。
演奏もパフォーマンスも堂々としたもので、自信がつくとこんなに見違えるものなのだな、と。

和製ホラーという世界観が徹底されているうえ、ライブの盛り上げ方も上手い。
楽曲の良さは折り紙付きで、メンバーのキャラも立っている。
そう考えると、売れない要素は何一つないのだ。
同じようなポジションで登場するバンドたちが、謙遜も兼ねて"なんでだよ!"とツッコミを入れる中、サブステージのトリという大役に、"半生でもっとも幸せです。"と正面から受け止め、期待に応えることをはっきり宣言していたのも好印象でした。
自信がなければ、パフォーマンスでもそんなことは言えない空気だったもの。

サプライズだったのは「ピンク スパイダー」のカヴァー。
トリビュート作品で音源化されてはいたものの、このタイミングで披露されるとは予想していなかっただけに、嬉しい誤算。
和テイストのシンセを加えて、きちんと己龍としての解釈を加えていたのもポイントが高い。
彼らが歌うと、この曲のストーリーって、なんとなく仏教的な意味合いも持ちそうだなんて思ってみたり。

LUNA SEAとX JAPANの間というところは置いといて、時間帯としても絶妙でしたね。
それまでは目立たなくて気付かなかったのだけれど、ステージ後方に掲げられたVJSのロゴ、照明演出で髑髏の目の部分に光が当てられるようになっているようで。
暗くなってきたからこそ、髑髏の目玉が鮮明になり、彼らの世界観とマッチした空間演出として機能していたと言えるでしょう。


X JAPAN

1. JADE
2. Rusty Nail
3. Forever Love
4. 紅
5. La Venus
6. Born to be free
7. X
8. ENDLESS RAIN
9. ART OF LIFE

やっぱり押してスタートするX JAPAN。
そういえば、YOSHIKIさんが乱入したゴールデンボンバーも押していた。
彼らが機材の準備で押すはずがないので、押した理由はもう明白である。

とはいえ、かといって彼らに求心力がなくなるわけではなく、だからこそ厄介。
実際、ステージを見たら面白くて、格好良いのだ。
言ってしまえば、3日間同じセットリスト。
複数回登場しているLUNA SEAやGLAYが、数曲入れ替えていたことから考えれば、新鮮味が少ないとがっかりされてしまいそうなところなのだが、新鮮とは言えないまでも、飽きないレベルで聴かせてくれるのがX JAPANなのですよ。

象徴的だったのが、「Rusty Nail」の後。
YOSHIKIさんがドラムからピアノにセットし直すため、MCを入れるのだが、ここでYOSHIKIさんが特に意識せずBGMとしてピアノを弾き出すと、何故かToshIさんが歌い出してしまうというお約束が急きょ出来上がってしまう。
結果として、ワンコーラスずつ、「DAHLIA」、「UNFINISHED」、「Say Anything」を披露することになっていました。
だから押してもいいというわけではないが、聴けてラッキーというのも本音だから難しい。
こんな感じで、アドリブとお約束が繰り返され、毎回、予定外の部分に転がっていくのがX JAPANの正体なのかもしれません。

ちなみに、ToshIさんの歌声は、更に仕上がっていました。
SUGIZOさん、PATAさん、HEATHさんの弦楽器隊についても、3日目だからと緩むことなく、むしろ前2日間での課題をしっかり改善して、集中できていた印象。
同じセットリストだからこそ、完成度が高まっていく様子がわかる、というのはポジティブに捉えすぎですが、十分に満足できました。


LUNATIC FEST.に触発された開催されたことは間違いない、VISUAL JAPAN SUMMIT 2016。
そのため、開催発表時から比較されて語られることが多かった。
当初は、規模が大きく、LUNA SEAとの関係が深いバンドで固められたLUNATIC FEST.に対して、コンセプトが感じられないとか、数だけで勝負しているといった声が上がっていたのも事実でしょう。

しかし、蓋をあけてみれば、おおよそ参加者は純粋に楽しんでいたと思います。
考えてみれば、hideさんが時折若手を発掘しては面倒を見ていたようなことを、X JAPAN主導のフェスでスキーム化したようなものであり、このVJSにコンセプトがなかったわけでもないのですよ。
シーン全体を底上げする、メインストリームに乗らない音楽を救い上げる。
そこにきちんと目が向くように、大御所だってひと肌脱ぐ。
今回は、若手の中でも実績のあるバンドが中心になってはいたけれど、ここに、"マイナーだけど格好良い"とX JAPANが推薦するバンドが起用されるようになってくれば、エクスタシーが本当の意味で現代に蘇ったと言えるのでは。

発起人がYOSHIKIさんである以上、そもそも定例的に開催されるかはわかりませんが、隔年くらいで開催されたら楽しみが増えるよなぁ。
毎年開催されるなら、2日間くらいで、1日あたりの時間は短縮したほうがちょうどよい気もする。
幹事を持ち回りにして、次はGLAYあたりが主催したら手堅く開催されそうですね。
3日に分かれて、3/4のメンバーが登場したL'Arc~en~Cielも、そのぐらいの求心力は持っているはず。

発表がギリギリになったことによる運営への不信感や、タイムテーブル通りに進まなかったことへの対応など、すべてが大成功というわけではないにせよ、大事故となることも頭をよぎった中でこの結果は見事。
ノウハウの維持や改善ポイントの徹底など、今後に引き継ぐためにも、次回を期待したいです。

どうせエンディングはグダグダだろうなと、2日目同様、無敵バンドは見送ってしまいましたが、ここまでくれば後悔はない。
ヴィジュアル系が好きで、本当に良かった。