VISUAL JAPAN SUMMIT 2016 備忘録 その5 | 安眠妨害水族館

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オバンギャと初心者に優しいヴィジュアル系雑食レビューブログ

VJS最終日も中盤戦。
クライマックスが見えてくる一方、疲労もピーク。
邪魔にならない位置に座り込んで、お目当てのバンドまで待機する人も増えてくるのは仕方のないことでしょう。

なんとなく、その辺りにも配慮したラインナップなのではないかと勘繰りたくなるバラバラっぷり。
音楽性も違えば、世代も違う。
ある種、オーディエンスを分散させるようなタイムテーブルになっていたわけですが、メリハリをつけて休憩をとらせるのも病気や怪我を防ぐための運営の一環、というのは考えすぎなのかな。

まぁ、これだけ多種多様な音楽を包含している"ヴィジュアル系"というシーンは凄いってことですね。
それでも全部見たい派な人にとっても、色々なタイプのバンドが出てくれれば、飽きがこないのだからありがたい。


Royz

1. Emotions
2. LILIA
3. ANTITHESIS
4. THE BEGINNING

気合い入れからスタートしたのはRoyz。
イチゼロ年代のV系新時代を象徴するバンドであり、同じジャンルに括られ、同じフェスに参加しているとはいえ、X JAPANなどと比べると、音楽性はまったく異なるとしか言いようがありません。
MCにしても、ステージングにしても、とても優等生的。
どうも違うのは、音楽性だけではないらしい。

しかし、無視できるか、異物として取り除くべきか、といえば否。
彼らにもきちんとV系魂は宿っており、それはこの日のオーディエンスにも伝わっていたのではないかと。
破天荒な人物こそロックスターとしてもてはやされるのが世の常ですが、彼らのように真面目に音楽に取り組んで、結果に結び付けたバンドは強い。
座っていたオーディエンスたちが、見ている途中で立ち上がってペンライトを振り出したのを見て、勝手に嬉しくなってしまいました。

総括的にはキラキラ系ど真ん中のイメージなのだけれど、生演奏を聴けば、ポップでキャッチーなだけではない、ナイーヴな一面にも気付くことができる。
ときには虚勢を張って攻撃的に攻めたり、繊細さを前面に押し出してみたりとアプローチは様々だが、諸々の感情表現を楽しさとして届けようとするセンスは抜群。
彼らの人気は、決して低姿勢による同情票ではないことを証明していましたよ。


THE SLUT BANKS

1. TOY
2. デビル・モンキー・スパナ
3. 東京迷子
4. 雨に打たれたとでも思へ
5. ROCK BABY
6. Pandemic Dance
7. Noisy Love

Vo.TUSKさんのタオルを頭に巻いたスタイルは、VJSという場では衝撃以外の何物でもなかった。
でも、その歌声による衝撃度は、そんなものでは済まなかった。

MCらしいMCはなく、とにかくパンキッシュなナンバーを叩き込み続けるという構成。
なんていうか、格好良い、の一言に尽きます。
ボキャブラリーが欠落してしまうほどの破壊力。
1曲1曲に説得力があり、予備知識がなくともぐいぐい引き込まれてしまうのだ。
得意であるハードなナンバーは言わずもがな。
「雨に打たれたとでも思へ」のようなミディアムチューンについても、色気が凄まじすぎるでしょ。
7曲もやったのか、と後から驚くほど、あっという間の時間でした。

感覚的には、14日に出ていたほうがハマっていたのでは、とも思うのだけれど、それだと見ることができていなかったから、16日の出演で良かった。
無敵バンドでは、YOSHIKIさんから"来年はZI:KILLで"との発言もあったようなので、そちらも楽しみにしていてもいいのだろうか…


清春

1. 忘却の空
2. 空白ノ世界
3. アロン
4. LAW'S

オンタイムでのスタートとなったものの、ステージ上で煙草を吸ったり、お酒を飲んだりとゆったりセッティングをする清春さん。
幕張メッセの大ホールにて、ここまでマイペースにライブが出来る人間はそうそういないでしょう。

そんなわけで、登場してから1曲目がはじまるまでに少し時間が空いたのですが、アコースティックギターから奏でられたイントロを聴いて、その間は必要だったのだとはっきり理解できた。
何しろ、そこで披露されたのは、SADSの代表曲、「忘却の空」。
嬉しいサプライズが、感情のカタルシスとして押し寄せた結果、会場全体がどよめきに包まれていましたよ。
懐かしいだけでなく、アコースティック編成だからこその新鮮さもあり。
名曲が、2016年に蘇ったという感慨深さがありました。
セルフカヴァーという意味では、黒夢の「アロン」も演奏。
ソロだからこそ可能となる奇跡のセットリストですね。

もちろん、良かったのは選曲だけでなく、清春さんの歌声に鳥肌が立ちっぱなし。
独特の歌い回しは健在で、声量や表現力も圧倒的ではないですか。
もっとゆるい雰囲気になるのかな、と想像していたものの、実際は"気を緩めたら魂を持っていかれるぞ"という緊張感が纏わりつく、誰一人ともステージから目を離せない空気に。
やはりこの人もカリスマであった。
ちなみに、サポートのギタリストが黒髪・長髪で、一瞬"サプライズで黒夢を!?"と期待してしまったのは僕だけでしょうか。


DIAURA

1. 胎動
2. 赤い虚像
3. 倒錯症レジスタンス
4. MASTER

"これよりDIAURAがこの幕張メッセを独裁する"
音出しの時間を使って、影アナウンスをしてしまうあたり、時間の使い方をわかっているな、と。
キリトさん、清春さんと2人のカリスマの後の登場ということで、メンバー、ファンともに気負う部分もあっただろうが、それを始まる前に打ち消してしまったのだから、演出としては大成功と言えますね。

王道的なセットリストに、新曲を織り込んだ形。
プレミア感を出すよりも、バンドの存在をアピールすべきという判断はおそらく正解で、メンバーは多少緊張していたとしても自然に体が動く、ファンにとっても暴れ慣れており、相乗効果で周辺の新規予備軍を巻き込みやすいというメリットもあったのでは。
MCについては、やや新規層に気を使いすぎている感があり、回りくどいというか、勢いを削がれてしまっているようにも見えたのだけれど、ファンを"愚民"と呼んでいることを説明するくだりで直接的に愚民への愛情を語ったことが、案外好感度を高めていたようです。
この戦略家め。

残念なのは、ギターの音が鳴ったり鳴らなかったりで、安定していなかったこと。
ワイヤレスでの可動域の関係なのかな。
この辺りは、次の機会があれば是非リベンジを果たしてほしい。
願わくば、メインステージで見たいという欲求も生まれましたよ。


Mumiy Troll

ロシアのウラジオストクを拠点に活動しているMumiy Troll。
どういう縁で呼ばれたのかはわからないのだが、ロシアでは知名度のあるバンドということで、Vo.ラグテンコ氏はこの日が誕生日だったとのこと。

何やら、ソ連当局から"最も危険なバンド"としてマークされていたらしい。
実際見てみたら、ツノが映えていたり、黒ずくめの宗教的な衣装に身を包んでいたり、なんともミステリアス。
これは相当ヤバいヤツやなのでは…と思いきや、音楽性はポップさが際立つデジタルロックで驚きました。
音に"ヴィジュアル系"はあまり感じないのだが、デジタルサウンドの使い方が独特。
ロシアのロックには疎いため、これがお国柄なのか、Mumiy Trollらしさなのかは判別つかないものの、最後まで聴き入ってしまったのは事実なわけで。

MCは、片言の日本語で。
それが微笑ましくて、会場がなんともゆるく穏やかな空気に包まれていましたね。
スクリーンでは不思議なアニメが上映されており、やや強引ではあるが、視覚的な表現と音楽の融合という点でヴィジュアル系と親和性がある、と言えなくもないのかな。


MUCC

1. 睡蓮
2. ENDER ENDER
3. KILLEЯ
4. ハイデ
5. 蘭鋳
6. TONIGHT

今のV系シーンにここまでフェス慣れしているバンドは他にいないでしょ、という貫禄たっぷりのMUCC。
どこをどう刺激すれば盛り上がるかは、経験を積んで熟知済み。
しかも、普段のロックフェスよりもホーム感が強いVJSなのだから、すべてが彼らの術中だったのではないかと思ってしまいます。

歌謡曲、ラウド、EDM…
彼らのこれまでの軌跡を総括するようで、現時点での最新形MUCCを象徴する「睡蓮」にてスタートすると、近年の楽曲を中心とした構成でリアルタイムの彼らの音楽を突き付ける。
今の自分たちの音楽に自信があるからこそのセットリストと言えるでしょう。
しかしながら、それだけではフェスで爪痕は残せないよ、と後進にアドバイスするかのように散りばめられたアイディアの数々。
"Xを超リスペクトしている曲"という前フリで演奏された「KILLEЯ」では、「Silent Jealousy」のギターソロを引用したり、「蘭鋳」にて全員座らせるお約束のポイントでもトークでひと笑い入れてオーディエンスの心を掴む。
最後の「TONIGHT」では、何の予告もなくL’Arc~en~Cielのkenさんが乱入しているというサプライズ中のサプライズをぶち込み、大歓声の中でステージを締めくくりました。

上記のとおり、試合巧者だったMUCCなのだけれど、もうひとつ、逹瑯さんのMCについては触れておきたい。
"いつからヴィジュアル系は格好悪くなったのだろう"という、胸を抉るような問いかけから切り出し、"好きなバンドを聞かれたらヴィジュアル系と胸を張って答えられる"シーンを作っていきたいという決意表面に遷移していくのだが、ヴィジュアル系に強く強く憧れながらも、恥ずかしくてクラスや職場ではカミングアウトできないという経験がある身としては、同調せざるを得なかったのですよ。
V系バブルの再来を求めるつもりはないけれど、もう一度市民権を取りに行くという野心を、MUCCクラスのバンドが口にしてくれるのは素直に嬉しかったなぁ。


なお、MUCCの直前に総合司会によるMCコーナーがあったのですが、逹瑯さんがスタンバイのため、 VersaillesのKAMIJOさん、TOKYO YANKEESのYOSHINUMAさん、NoGoDの団長がGEORGEさんと一緒に登場。
カオティックなMCを繰り広げていました。
団長がボケると、KAMIJOさんがマントで隠すというくだりを何度がやったうえで、GEORGEさんが"今は俺も貴族になりたい"と発言したのがハイライト。

さぁ、VJS備忘録、おそらく次が最終回です。
これを書き終えた後、本格的なVJSロスになりそうな気がするのだけれど、大丈夫かな…