爪~NAIL~ / 覇叉羅 | 安眠妨害水族館

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爪~NAIL~/覇叉羅

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1. KA・KU・SE・I
2. DISTURB
3. 氷の微笑
4. Escape From Reality
5. 手の平の上の錆びた懐中時計と壊れたMarionette
6. Brain Storm
7. Human Bridge
8. STILL
9. 蜃気楼
10. GASP

覇叉羅だったり、VASARAだったり、Vasallaだったり、表記が色々あるのでややこしい九州バンド、バサラ。
本作は、ギターに、舜(the FUZZ、JILS)、SIN(ex-Syndrome、ex-D)を擁してリリースされた1stフルアルバムです。

後に、soleilバンドの先輩格として、V系シーンを引っ張ることになる彼らですが、この頃は、メタル畑からの名残が強い。
スピード感のあるリズムに、テクニック重視のギターフレーズ。
荒々しくザクザクと切れ込むサウンドは、発売された1996年当時のインディーズ音質であるにも関わらず、現在でも、勢いとして聴くことができます。

その中で、強い個性を主張しているのが、hidekiさんのボーカル。
必ずしも上手いとは言えないのですが、メロディはハイトーンで艶っぽく、シャウトは低音を中心に男らしく、という使い分けが絶妙で、これはこれで、なくてはならないひとつのピースとなっていました。

時々、絶叫系のシャウトも混ざってくるけれど、一辺倒ではなく、荒々しさを押し出している中で繰り出されるため、より印象的になる。
「DISTURB」のようにメロディに味のある楽曲などで、歌い切れずに足を引っ張っている場面も見られるものの、時代を勘案すればご愛嬌。
むしろ、演奏がメタルに徹しているのに対し、ボーカルラインだけは、メロディアスな方向性を探っているというのが、V系リスナー的には重要だったりするのではないでしょうか。
ボーカルまでがっつりメタルになってしまっていたら、古臭いバンドとして、時代に傷跡を残すことはできなかったかもしれません。

そういう意味では、ボーカルの癖が気にならないほどの勢いがあり、なおかつメロディにも力を入れた楽曲が好みですね。
王道中の王道、「STILL」なんかが、その際立った例。
疾走感があって、刹那的。
このクリーントーンのギターソロや、Bメロでのキメなど、90年代ではこれが最先端だったのだろうなぁ、という、ノスタルジックさで溢れています。

また、激しい楽曲が多い中で、「手の平の上の錆びた懐中時計と壊れたMarionette」といった、現代で言うお洒落系ライクなナンバーが、アクセントとして挿入されているのも面白い。
何気に、ジャジーテイストな楽曲っていうのも、V系シーンには古くからある伝統芸だったりするのです。
スキル的に厳しい純粋なバラードよりも、こういうハズシだったら大歓迎。

ちなみに、ラストの「GASP」の後、しばらくそのままにしていると、覇王凱旋に収録されていた「death trap」がシークレットトラックが流れる仕様。
音楽的には、間違いなく後期のほうが純・ヴィジュアル系なのですけれど、ギミックとしては、この時点でも十分にV系要素が満載。
バランスを考えれば、初心者への入門編は、ベストアルバム「Unlimited」あたりが良いのかな、と思いつつ、個人的には、当時の生々しさを凝縮した本作こそがおススメだったりするのです。