サマスオトノサプリ / レクレンズ | 安眠妨害水族館

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サマスオトノサプリ/レクレンズ
¥2,500
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1.鳴歌-クチトリウタ-
2.デフィーティズムベイビー
3.テクノサーカス
4.ロングロングディレイ
5.フィルターメィカー
6.サマスオトノサプリ
7.空を睨む鳥
8.セラミックブルー
9.「      」

レクレンズの1stフルアルバム。
前任ボーカルの脱退に伴い、ギターのクマさんがボーカルにコンバート。
ギターにチカさんを迎えてのリリースとなりました。

パートチェンジという転機を乗り越えた彼らですが、音楽性としては、特段、大きな変化はありません。
エレクトロサウンドに、キャッチーなメロディを重ねて、ポップなのに、どこかせつない音楽を創造。
歌メロを立てる楽曲の作り方は従来どおりで、ピコピコ色が多少強まったところはありますが、あくまでメロディ部分での強みを強調するための進化と言えるでしょう。

なんとなく、デジタルサウンドを押し出すバンドは、感情よりも全体的な音の密度を重視する傾向があって、キャッチーさと両立しないイメージがある。
しかし、このバンドは、そんな固定観念を壊してくれます。
どの曲をとっても、印象に残る歌メロが、まず耳に入ってくる。
無機質な機械音が、こんなにも叙情的に迫ってくるとは。

2分程度と短い「鳴歌-クチトリウタ-」からのスタート。
会場限定シングルに収録されている「口鳥歌」のショートバージョンという位置づけでしょうか。
勢いのある楽曲から入るのかと思いきや、実はバラードにも近いミディアムナンバー。
壮大さのある曲を、ワンコーラスだけで刹那的に終えることで、プロローグ風に仕上げています。

以降、「デフィーティズムベイビー」、「テクノサーカス」と、アップテンポチューンを立て続けに持ってきますが、やはり、どこか音使いに感傷的な余韻を残す。
「ロングロングディレイ」、「空を睨む鳥」などが象徴的でしょうかね。
ピコピコサウンドに、わざとハウリングさせたギターノイズを混ぜてくるあたり、デジタルさの中に潜む、アナログなライブ感を演出。
アイディアのバリエーションが、だいぶ広がったなと感心させられます。

メンバーが交互にボーカルを担当する遊び心ある表題曲、「サマスオトノサプリ」や、疾走感があって、もっともバンド感にゾクゾクさせられるセツナロック「セラミックブルー」など、インパクトのある楽曲も多い。
ラストの『「      」』は、ミニアルバムに収録された「孤独スイッチ」のリメイクですね。
あっという間に、9曲が過ぎてしまいます。
1曲がコンパクトにまとまっていることもあるのでしょうが、時間の流れを感じさせないほど、曲の粒が大きい。

さて、気になるのはクマさんの歌唱力ですが、はっきり言えば、スキルに難あり。
高音がしっかり出ていなかったり、歌い方も一部、雑に聴こえてしまう。
一方で、表情は豊かなので、個性は増したと思います。
コミカルさがあるので、音楽性も相まって、メトロノームに近い雰囲気があるでしょうか。

また、ボーカルの弱みをバンド全体で補おうとするように、コーラスワークが強化された。
メンバーに2人女性がいるという利点を活かし、さらりと馴染むポップなコーラスが映えています。
女声によるやわらかな歌声が、楽曲に華を添える。
これだけのチームワークがあるからこそ、現布陣でも、十分にリスナーを引き込む力を発揮できるわけだ。

マイナーバンドだし、歌は下手だしで、あまり目にする機会もないバンドかもしれませんが、ピコピコ+せつないナンバーという取り合わせに興味がある人は、手に取ってほしい一枚。
最近、せつない曲をやるバンドが減ったなぁと嘆いていた矢先、思わぬジャンルのバンドから、好みの楽曲が飛び出したからびっくりでした。
これにハマる本職のボーカリストが連れてこれれば、間違いなくステップアップできると考えるのですけれど、もう、クマさんはボーカリストとして固定なんだろうか。
所属事務所も決まったようだし、引き続き、動向に注視したいですね。

<過去のレクレンズに関するレビュー>
ルルリニア