昨年末の紅白歌合戦で、あいみょんの言動から「ステージで緊張するということ」という記事を書いた。また「ストレスとどう向き合っていくか」という記事でも「緊張し過ぎてガチガチになっては何も出来ない」と述べた。今回は一部再掲となるが、ガチガチになること、すなわち「アガッてしまう」ことに焦点を当てて詳述したい。

 

ステージなど人前に出て喋ったり歌ったりすると誰でも緊張するものだ。私は本業のビジネスでのプレゼンテーションのみならず趣味のヴォーカルや朗読でステージに立つ機会が多いが、最近は緊張はしてもアガッてしまうことは無くなった。場数を踏んだ(経験を重ねた)事もあるし歳を取って図々しくなったこともあるだろう。

 

【ステージから(日生劇場HPより)】

 

こう言うと「お前は元々図々しい性格だからだろう」等と言われる。ま、それ自体は否定しないが、たまに「私は(貴方と違って図々しくないので)人前に出るとアガッてしまうんです」と、さも自分が控え目で遠慮深い性格だからアガるのだと言わんばかりの人間に出会うと「あ~あ、こいつ分かってないなぁ」と内心思ってしまう。

 

実は「緊張する」ことと「アガッてしまう」ことは全く違うのだ。多くの人は「アガッてしまう」のは緊張のし過ぎ、つまり緊張の延長線上にあると思うかも知れないがそうではない。地震等の災害に遭遇すると誰でも緊張はするが「アガッてしまう」ことはないはず。アガッている時は必ず緊張しているが、その逆は真ではないのだ。

 

「アガッてしまう」のは次の3条件を全て満たした場合だけだ。

①.自分が試される状況だと思っている。

②.自分の失敗は許されない状況だと思っている。

③.自分は失敗する可能性があると思っている。

上記のうち1つでも条件を満たさなければ、人はアガらない。

 

例えば、ここで失敗しても全く自分の責任にはならないなら①を満たさないのでアガらない。またここは何度失敗してもOKという状況なら②を満たさないのでアガらない。さらに、例えば飛び越えるハードルの高さが10㎝なら失敗の可能性は無いので③を満たさないからアガらない。だから3条件を全て満たした場合だけアガる。

 

もう薄々お気付きかも知れないが、この3条件に共通する要素は「自分」である。本来なら人前で何かをする場合に最も大切にしなければならないのはお客様(聴衆)なのに、あろうことか勘違いして「自分」に意識が向いているから「アガッてしまう」のだ。つまり意識を100%お客様に向けていれば絶対アガらないのだ。

 

だから「アガッてしまう」というのは言い換えれば“自意識過剰”なのだ。ビジネスでのプレゼンテーションでもエンタメのステージでも、お客様に何かを伝えて喜んで戴くのが趣旨なのに、まるで自分の発表会のように勘違いして自分に意識が向いてしまっている。これはビジネスならとても不真面目な態度ではないか。

 

ビジネスでもエンタメでも「お前を見に来た訳じゃない、ちゃんとやれ!」と言われても仕方ない。ただ「自分を良く見せたい」のは誰にでもある「スケベ心」。だから「私はアガッてしまうんです」と言う人は、控え目で遠慮深いどころか「自分はとんだ勘違いの自意識過剰スケベ人間です」と宣言しているに等しい。※

 

紅白で、あいみょんは「緊張した」と同時に「最高に楽しかった」「歌えて嬉しかった」とも述懐している。毎回「緊張する」と言っていた越路吹雪や和田アキ子もそうだろうが、ステージでどんなに緊張しても「アガッてしまう」ことはなく、むしろ緊張感を楽しんで良い結果に繋げていくのがプロのパフォーマーなのだろう。

 

※これらの見解は、医学的に疾病として診断された「アガリ症」罹患者の方には当てはまらないものと認識しています。

 

Saigottimo