債権には時効があり、時効が成立した債権は、相手に時効を援用されると、それ以降は回収できません。ただし、債権者は時効を迎える前に時効を伸ばす『完成猶予』と、時効までの経過期間をリセットできる『更新』を行えます。債権回収で理解しておきたい、2つの措置を解説します。
支払日から5年が回収のリミット 債権がなくなる消滅時効に要注意
企業間取引では、一般的に商品やサービスの代金を後日受け取る掛取引が行われており、この後日受け取る代金のことを『売掛金』と呼びます。一方、掛取引などの営業取引以外で発生した未回収の代金のことを『未収金』といいます。営業取引以外と
は、たとえば株式や固定資産の売却、不動産の賃貸などで代金を得るケースのことです。売掛金や未収金はどちらも債権であり、債権者である事業者はこれらの債権を期日までに回収しなければいけません。しかし、債務者の支払い能力が不足していたり、財政状況が悪化していたりすると、回収が難航してしまうことがあります。回収が遅れたり、困難な状況にあったりする債権のことを『不良債権』といいます。
そして、不良債権をいつまでも回収できずにいると、最終的に回収することが不可能になってしまうかもしれません。なぜなら、債権には回収できる期限として、民法に基づく『消滅時効』が定められているからです。この消滅時効を迎えてしまった売掛金や未収金などの債権は、相手に時効を援用されると文字通り『消滅』し、債務者に支払う義務がなくなると同時に、債権者は債権の回収ができなくなります。
これまで消滅時効期間は、債権の種類によって細かく定められていましたが、2020年4月の民法改正によって、債権の種類を問わず、支払期限から数えて5年に統一されました。つまり、債権の支払期限から5年の間に回収できないままだと、その債権
は消滅する可能性があるということです。たとえば、2024年5月末日に支払ってもらう売掛金であれば、5年後の2029年5月末日に時効が成立して、その売掛金が消滅してしまう可能性があるのです。
時効の成立を先送りにする方法とカウントを一度リセットする方法
債権者は、債権が消滅時効を迎えないように適切な管理を行わなければいけません。もし、時効が迫っていた場合には、時効の『更新』と『完成猶予』という措置を講じる必要があります。時効を迎えて、相手がその時効を援用しさえすれば債権が消滅させられる状態のことを時効の『完成』といいます。債権者が時効の完成を防ぐための方法がこの時効の更新と完成猶予です。
時効の更新は、時効までの期間をリセットする措置で、更新が認められれば時効までのカウントはゼロになり、再び5年経たないと該当の債権は消滅しません。時効の更新を行う方法はいくつかあり、債務者が、債務の存在および返済義務を認めた場合
にも時効がリセットされます。たとえば、債権者が債務者に対し、契約書や確認書に署名させたり、債権の一部を支払わせたりできれば、債務者が債務を承認したとみなし、時効の更新が成立します。また一般的には、債権者が裁判を起こし、確定判決が出ることで時効が更新されます。
一方、時効の完成猶予は時効の完成を先延ばしにする手段です。裁判を起こせば、その裁判の判決が出るまでは、時効までのカウントが止まります。ほかにも、債権者が債務者に対して内容証明郵便などで債権の支払いを請求すると、6カ月間の完成猶予が認められます。この完成猶予の方法を『催告』といいます。完成猶予は時効までの期間がリセットされるわけではなく、あくまで一定の猶予が与えられる措置なので注意が必要です。
債権の消滅時効が迫っている場合は、まずは催告によって6カ月間の猶予を確保し、その間に裁判の準備を進めるようにしましょう。