2023年10⽉からインボイス制度が始まったことに加え、2024年1⽉からは電⼦帳簿保存法
が改正されるなど、企業のバックオフィス業務をめぐる状況は⼤きく変化しています。今回
は、導⼊から半年以上が経過したこれらの制度について、実態調査の結果を解説します。

インボイスの導⼊により約8割が事務負担増

 2023年10⽉から始まったインボイス制度は、正式名称を「適格請求書等保存⽅式」といいます。
事業者が消費税を正しく納めるため、消費税の⾦額などを書いた請求書・領収書など(インボイス)を基に計算する仕組みです。2024年に⽇本・東京商⼯会議所が⾏なった実態調査によると、制度導⼊前に免税業者だった事業者のうち、企業間取引(BtoB)を中⼼に⾏う事業者でインボイス発⾏事業者へ登録した割合は73.3%に達した⼀⽅、消費者向け取引(BtoC)中⼼の事業者の登
録割合は24.9%に留まっています。今後の登録意向についても、インボイス発⾏事業者への登録を⾏わなかったBtoB事業者の64.0%が「登録を検討」と回答したのに対し、BtoC事業者の69.5%が「登録申請を⾏わない」としており、事業形態による対応の⼆極化が顕著となっています。なお、インボイス登録を⾒送った主な理由は、新たな事務負担や税負担の発⽣が約半数を占めています。
制度導⼊による影響については、約半数が「コスト増あり」、約8割が「事務負担増あり」と回答しています。具体的には、コスト⾯では「既存システムの改修」が32.4%、事務負担では「仕⼊先の登録状況の確認・管理」が66.0%で、それぞれ最も⾼くなっています。
現場からは「貴重な時間を奪われている」「税負担と事務負担が⼤きい」という不満の声が上がっています。また、いわゆる「2割特例」が終了した後の事業継続を不安視する声もあり、特例措置の恒久化や拡充を望む意⾒も散⾒されます。
⼀⽅で、専⾨家のサポートでスムーズに導⼊できたという声もあり、⽀援の重要性がうかがえます。

改正電⼦帳簿保存法への対応 企業規模で浮き彫りになる格差

 ⼀⽅で、改正電⼦帳簿保存法の対応状況については、企業規模による明確な差が⾒られます。今回の改正では、帳簿書類を電⼦的に保存する際の⼿続きなどについて抜本的な⾒直しがなされており、2024年1⽉1⽇以後に電⼦取引でやりとりした書類のデータ保存が完全に義務化されました。
⽇本・東京商⼯会議所の調査によると、売上規模が⼩さい企業ほど「制度をよく理解できず未対応」の割合が⾼く、⼀⽅、売上規模が⼤きい企業では、「電⼦帳簿保存」や「スキャナ保存」への移⾏が着実に進んでいます。また、改ざん防⽌措置や検索機能の確保といった技術的要件への対応に苦慮している実態も浮かび上がっています。
こういった企業規模による対応状況の差は、各企業のバックオフィス業務の体制に関連している可能性が⾼そうです。たとえば、売上⾼1千万円以下の⼩規模事業者では、経理事務について、約3割が「すべて社内で対応」と回答しているほか、約9割が「1⼈で従事」、かつ約8割が「専任の経理事務担当者がいない」としており、新制度の導⼊や制度改正に対応するための社内リソースの捻出がむずかしいことがうかがえます。加えて、事業規模が⼩さくなるほど、請求書や帳簿を⼿書きで作成する割合が⾼く、デジタル化への対応が遅れている現状があります。こういった⼩規模事業者ならではの事情により、⼩規模事業者には電⼦化対応の負荷が特に⼤きくなっている可能性があります。そのため、⼩規模事業者に対する⽀援体制の充実が、今後の課題解決のカギとなりそうです。

制度の定着に向けては、きめ細かな⽀援の継続が不可⽋といえるでしょう。

 マーケティングや営業の担当者は、取引先と交渉を行うことが少なくありません。
契約内容や価格などの各種条件は交渉によって決められますし、ケースによってはプロジェクトの成否が交渉で左右されてしまうこともあります。
マーケターや営業の必須スキルといえる交渉力を身につけるにはどうしたらよいのでしょうか。
大切なのは交渉テクニックを覚え、実践のなかで自分のものにしていくことです。
相手から有利な条件を引き出すための交渉テクニックを紹介します。

思わず受け入れてしまう心理的なテクニック
 交渉とは、異なる立場の者がお互いの要求を主張しながら、合意の到達点を探るプロセスのことです。
交渉はあくまでビジネスのためのツールでしかありません。
相手を論破するのが目的ではなく、お互いが納得できる条件で合意に至ることが目的です。
したがって、どんな交渉でも高圧的な態度や相手を見下した言動は絶対にNGです。
お互いがWin-Winのよい関係性を築くためにも、交渉の際は感情的にならず、常に誠実な姿勢で対応しましょう。

交渉に秀でている人は、相手に最大限の配慮をしながら、交渉テクニックを織り交ぜて、着地点を探っていきます。
たとえば、基本的な交渉テクニックに「ドアインザフェイス」というものがあります。
ドアインザフェイスは、相手から何かしてもらったら同じようにお返ししたいと感じる「返報性の原理」を応用したもので、最初に過大な要求をし断られた後に、それよりも受け入れやすい要求を行うテクニックです。
相手は一度断った引け目から、小さな要求であれば、受け入れる可能性が高くなります。

逆に、最初に小さな要求を受け入れてもらい、そのままの流れで、本命の大きい要求も受け入れてもらう「フットインザドア」という、一度受け入れたものは断りづらいという人の心理を利用したテクニックもあります。
状況に応じ、ドアインザフェイスとうまく使い分けていきましょう。

また、交渉の際にメリットばかりを伝えて、自社に都合の悪いデメリットを伝えていないというケースがあります。
前述した通り、交渉は誠実さが重要です。
メリットだけではなく、あえてデメリットも伝える「両面提示」は、比較検討したい相手に有効で、自身の誠実さを伝えることもできるテクニックです。
デメリットを包み隠さず伝えることで、クレームの予防にもなり、相手の信頼を獲得することができるでしょう。

危険なテクニックと誰でも使えるテクニック
 交渉テクニックのなかでも、扱いがむずかしいのが「ローボールテクニック」です。
ローボールテクニックは、たとえば、すでに合意を得ていた単価100円を後から110円にしてもらうといったように、相手が断りにくい状況にして、後から本来受け入れてもらいたい条件を示す交渉テクニックのことです。
相手は一度受け入れてしまった手前、変更後の条件も受け入れざるを得ません。

ただし、ローボールテクニックは、使い所を見誤ると相手からの信頼を失ってしまう可能性があります。
信頼関係のある友人同士や身内同士などの交渉であれば通用するかもしれませんが、ビジネスにおいては使用する場面を慎重に見極めましょう。

ほかにも、表現方法や提示方法を変えて相手の印象を変える「フレーミング」や、最初に情報や数字などの基準を提示して相手の印象を変える「アンカリング」などのテクニックもあります。
ただし、いずれも交渉を得意とする上級者が使用するもので、あまり慣れていない初心者が多用すると交渉がうまくいかないことがあるので注意してください。

交渉で効果的なのは、「ヒアリング」や「保留」といった、初めての人でも使いやすい一般的な交渉テクニックです。
まずは話に耳を傾けるヒアリングで、相手の本心を探りながら、不確定な要素を消していきます。
「その条件ではむずかしい」と言われた場合でも、価格がむずかしいのか、納期がむずかしいのか、「むずかしい」要因をはっきりと聞き出し、代替案を提案できるのがベストです。
そのためには、相手の話をよく聞く能力が不可欠です。

また、条件によっては、その場で即答できないことも出てきます。
相手から条件が提示されると思わず答えたくなってしまいますが、交渉には熟考する時間が必要なこともあります。
明言を避けて、「一度、社に持ち帰らせていただきます」などと保留することも時には大切です。

交渉は、交渉することが決まった段階から始まっているともいわれます。
相手について、どれだけ調べて、準備を行なってきたかが合意を得るうえでの重要なポイントになります。
入念に下調べをしておくことで、相手に納得感を与える提案もできるはずです。
また、事前に複数のパターンを想定したシミュレーションをしておくと、いざというときも安心です。
事前準備とシミュレーションを行い、実際の場面をイメージしておくことが交渉を成功に導く秘訣です。

 

「男女雇用機会均等法」は、職場における男女の均等な機会や待遇の確保を目的とした法律です。
同法では、婚姻、妊娠、出産などを理由とする不利益な取り扱いの禁止や、職場における妊娠・出産に関するハラスメント防止対策措置を講じる義務が定められています。
また、募集、採用、昇進などで性別を理由とした「間接差別」なども禁止されています。
間接差別とは性別以外の事由を要件としながらも、実質的に性別を理由とする差別になってしまうおそれがあるもののことです。
事業者であれば理解しておきたい、間接差別の要件について解説します。

直接差別と間接差別の違いとは
   男女雇用機会均等法では、性別に関係なく、すべての労働者に均等な機会および待遇を与えなければならないとしています。
したがって、同法の第5条と第6条では、募集や採用はもちろん、配置、昇進、降格、教育訓練、福利厚生、職種の変更、雇用形態の変更、退職、定年、解雇、労働契約の更新など、すべてのステージにおいての「性別を理由とした差別の禁止」を定めています。
たとえば、採用の際に男性を多く採用したいからといって、女性であることを理由に募集や採用の対象から外すことは認められていませんし、男性もしくは女性であることを理由に優先して昇進させることも許されていません。

こうした明らかな性別に基づく取り扱いの違いは「直接差別」と呼ばれます。
一方、表面上は平等な仕組みでも、運用の結果として実質的にどちらかの性別に不利益になってしまう制度や取り扱いがあります。
それが「間接差別」です。
男女雇用機会均等法の第7条では、間接差別を禁止しており、直接差別と同様に合理的な理由のない間接差別を行なった事業者はペナルティの対象となります。

もし男女雇用機会均等法に違反すると、厚生労働大臣もしくは都道府県労働局長から助言や指導、勧告を受ける可能性があります。
勧告に従わない場合は企業名が公表されるほか、厚生労働大臣から求められた報告をしなかったり、虚偽の報告をしたりすると、20万円以下の過料が科せられる場合があるので注意してください。

間接差別に該当する具体的な事例
   では、どのような行為が間接差別に該当するのでしょうか。
厚生労働省令では、間接差別となる例の一つとして「労働者の募集や採用にあたり、労働者の身長、体重または体力を要件とすること」をあげています。
もし募集の条件に「身長170cm以上」という要件を設けた場合、表面上は男女差別には見えないかもしれませんが、実際には身長170cm以上を満たすのは男性がほとんどで、女性の募集を排除してしまうことになります。
このように直接的ではないけれども、実質的に差別になってしまっているのが間接差別です。

たとえば、重い荷物を運搬する業務において、業務を行うための最低限の体力の有無を採用の要件とする場合は、合理的な理由があるため間接差別とはいえません。
しかし、重い荷物を運搬するための設備や機械がすでに導入されており、業務において体力がそこまで必要ないにもかかわらず、体力や筋力の有無を採用の要件としている場合は、間接差別に該当する可能性があります。

ただし、募集する際の「ガッツのある人」「体育会系の人」といった抽象的な表現は「体力の有無を採用の要件としている」とまではいえません。
逆に、体力を要件にする合理的な理由がある場合は「○kg以上の荷物が持てる人」のように、具体的な数字を示すことが大切です。

また、厚生労働省令では「労働者の募集や採用にあたり、転居を伴う転勤に応じることができることを要件とすること」も、一般的に女性が不利になるため、間接差別と定めています。
間接差別とならないためには、転居を伴う転勤に合理性がなければいけません。
たとえば、広域にわたって展開している支店や支社がないにもかかわらず、「転居を伴う転勤に応じることができることを要件」としていた場合は、間接差別にあたります。

こうした間接差別は、事業者側に差別の意図があったかどうかは関係ありません。
差別の意図がなくても、一方の性別に不利益が生じていた場合は、間接差別となります。

厚生労働省令であげられた2つの事例以外にも、個別に合理性が判断されるため、結果として間接差別に該当してしまうケースが存在します。
2024年5月には、一般職の女性が素材大手メーカーの子会社を相手取って起こした裁判で、ほぼ男性で占められた総合職にのみ家賃の8割を補助する社宅制度を認めているのは間接差別だという判決が出ました。
間接差別が認定されたのは、今回の裁判が初めてです。

社宅制度などは多くの企業が導入している制度でもあります。
事業者が認識していなくても、間接差別は起きているかもしれません。
法令違反や訴訟リスクを避けるためにも、事実上どちらかの性別だけに適用されている制度や取り組みがないか、現時点で確認しておくことをおすすめします。


※本記事の記載内容は、2025年1月現在の法令・情報等に基づいています。

少⼦⾼齢化などにより、企業の⼈材不⾜は深刻な問題となっています。これからは少ない⼈員のなかで、いかに⽣産性を向上させて売上・収益を上げていくかがカギになるでしょう。
今回は近年⽬覚ましく進化しているAIに着⽬し、売上向上に向けた活⽤⽅法を紹介します。

AIは企業の売上拡⼤に貢献   ⼈材不⾜解消の起爆剤となるか


  AIとは⼈⼯知能(Artificial Intelligence)の略であり、⼈間が⾏う問題解決や意思決定といった知的能⼒を、コンピューターをはじめとする機械を⽤いて模倣・再現をするもののことです。
AIの進化は⽬覚ましく、次々と新たな技術が⽣み出されています。「売上向上」に着⽬しても、AIでできることは多岐にわたり、たとえば過去の販売データや外部要因を分析し売上予測を⽴てること、個々に向けてカスタマイズしたパーソナライズドメールを作成・送信すること、商談の議事録や商品説明⽂、提案資料の作成など、その活⽤法はさまざまです。
では、なぜ売上拡⼤に「AI」が有効なのでしょうか。理由はいくつかありますが、⼤きなものとして、取り扱うデータが爆発的に増加していることや、労働の効率化が求められていることなどがあげられます。AIで処理できるデータ量は膨⼤で、それらのデータをもとにAIを活⽤した機械学習を駆使することで、売上予測に影響を与えるであろう要因や影響度合いを分析できます。
また、新型コロナウイルスの流⾏期には、その影響で、対⾯でのコミュニケーションが激減し、オンライン中⼼の⽣活になるなど私たちの⽣活スタイルは⼤きく変わりました。現在でもその影響は続き、従来の営業やビジネススタイルが⼤きく様変わりしたことで、AIを活⽤して業務を効率化することが重要視されるようになりました。
このように、企業はいかに⽣産性を⾼め、少数精鋭によって利益を上げていくかが問われており、AIの活⽤はそれを実現するための必須のツールであるといっても過⾔ではありません。

 

⽣産性向上と売上拡⼤実現に向けAIは可能性を秘めたツール

  AIを活⽤して⼤幅な作業負担軽減につなげたスーパーマーケットの事例があります。過去の販売データ・天気データ・セール情報などのデータを分析し、それを元に⾃動で発注することで、発注業務の⼿間を⼤幅に削減し、顧客満⾜度を⾼める仕事に集中できるようになりました。また、全体の売上を最⼤化するために、AIを使って、膨⼤な商品数のなかから売上効率を上げる商品の組み合わせを算出し、品揃えパターンを⽣成しているドラッグストアもあります。
AIは⼤変便利なツールであるといえますが、企業がこれを導⼊・活⽤するうえでは課題もあります。たとえば、新システム導⼊に伴う組織の対応⼒や推進⼒の不⾜、負担感が懸念されること、データを分析して課題を解決するデータサイエンティストやプロジェクトマネジャーの確保・養成がむずかしいことなどがあげられます。AIの仕組み構築に不安がある場合は、SaaSの活⽤やコンサルティングサービスの活⽤も⼀案です。
⽣産性向上・収益の拡⼤を⾒据え、AIにできることは任せて業務効率化し、売上につながるコア業務に専念できる体制を考えてみましょう。

   従業員が退職する際には、会社は、貸与物の回収などのほかに、社会保険や税⾦などに関するさまざまな⼿続きを迅速かつ適切に⾏わなければなりません。今回は、従業員の退職に伴って会社が⾏う⼿続きの内容や注意すべき点などについて説明します。

社会保険関連の⼿続きでは各資格喪失届を期限内に提出
   まず、会社が⾏う社会保険関連の⼿続きを紹介します。健康保険および厚⽣年⾦の資格喪失については、資格喪失⽇(退職⽇の翌⽇)から5⽇以内に⼿続きをする必要があります。具体的には、管轄の年⾦事務所に「健康保険・厚⽣年⾦保険被保険者資格喪失届」と「健康保険証」を提出します。健康保険証は、従業員本⼈のもののほか扶養家族分も提出する必要があるため、従業員から退職⽇までに回収しましょう。健康保険組合に加⼊している会社は、年⾦事務所と健康保険組合にそれぞれの被保険者資格喪失届を提出することになり、健康保険証は健康保険組合に提出します。
雇⽤保険の資格喪失については、退職⽇の翌々⽇から10⽇以内に⼿続きをする必要があります。

具体的には、管轄のハローワークに「雇⽤保険被保険者資格喪失届」と「雇⽤保険被保険者離職証明書」を提出します。この書類と共に、賃⾦台帳など離職⽇以前の賃⾦⽀払い状況や離職理由が確認できる書類を提出することで、「離職票」が交付されます。離職票は退職者が雇⽤保険の失業給付などを受給するために必要になるものです。そのため、退職前に離職票の要否を退職者に確認し、離職票の発⾏を希望しない場合には、離職証明書の提出は不要です。ただし、退職者が59歳以上の場合は、本⼈の希望の有無にかかわらず離職票を発⾏するため離職証明書の提出が必要です。なお、正当な理由なく離職票の発⾏⼿続きや交付を⾏わない場合には罰則が科されることがあります。
また、労災保険については、雇⽤保険の資格喪失⼿続きによって⾃動的に資格喪失となるため、⼿続きを⾏う必要はありません。

所得税に関する⼿続きでは源泉徴収票を1カ⽉以内に交付

    次に、税⾦関連の⼿続きについて紹介します。
所得税の⼿続きでは、退職した年の給与から差し引いた所得税のほか、1⽉1⽇から退職⽇までに⽀払った給与や賞与、控除した保険料などを記載した「源泉徴収票」を発⾏します。これは退職後1カ⽉以内に退職者に交付する義務があり、違反した場合は罰則が科されることがあります。
住⺠税の⼿続きでは、会社が給与から天引き(特別徴収)している場合は、退職に伴い特別徴収を停⽌するため、退職⽇の翌⽉10⽇までに「給与⽀払報告に係る給与所得者異動届出書」を退職者が居住する⾃治体に提出します。特別徴収は1年分の住⺠税を6⽉から翌年5⽉までの期間で徴収し、次のように退職時期によって退職に伴う徴収⽅法が異なるため注意が必要です。1〜4⽉に退職した場合は未納分を⼀括徴収し、5⽉に退職した場合は通常どおり1カ⽉分を徴収しますが、6〜12⽉に退職した場合には普通徴収に切り替えるか⼀括徴収するかを退職者が選択します。
会社が退職者へ渡さなければならない書類は、すでに紹介した源泉徴収票や離職票のほか、「雇⽤保険被保険者証」(会社保管の場合)や「健康保険資格喪失証明書」(本⼈の希望があった場合)などがあります。必要な書類が揃ったら、速やかに郵送などの⽅法で退職者へ渡しましょう。
退職に関する⼿続きに抜け漏れや遅延などがあると、退職者とのトラブルにつながるだけでなく、内容によっては罰則が科される場合もありますので、迅速かつ適切に⼿続きを⾏いましょう。また、貸与しているPCなど、従業員からの返却が必要なものについても、忘れずに回収しましょう。
 

 ⽇本は⾃然災害が多い国といわれており、これまでにも⼤規模な地震・台⾵・⼟砂崩れなどが各地で発⽣しています。企業はこうした⾃然災害などが発⽣しても事業継続が可能となるように、事前の対策が必要です。今回はBCPの重要性、留意点などについて解説します。

不測の事態が起きても事業継続  企業のBCP策定は必要不可⽋

 BCPとは「事業継続計画(Business ContinuityPlan)」の頭⽂字をとった⾔葉で、⾃然災害、⼤火災、感染症まん延など不測の事態が⽣じた場合、事業への影響を最⼩限に抑えて継続できるようにするための計画のことです。
⽇本でBCPが重要視される背景には、これまで数多くの⾃然災害(地震・台⾵・⼤雪など)により受けてきた甚⼤な被害が理由としてあり、今後も被害を受けることで、事業を継続できなくなる可能性があるためです。内閣府や⽂部科学省の調査によると、今後30年以内の南海トラフ地震の発⽣確率は70〜80%、⾸都直下型地震の発⽣確率は70%と予測されています。また、新型コロ
ナウイルス感染症の世界的流⾏により経済が機能不全に陥ったことは、私たちの記憶に新しいところです。医療や福祉、物流や⼩売業など社会⽣活を⽀える業種は「エッセンシャルワーカー」と呼ばれ、緊急事態が発⽣した際も事業の継続が強く求められます。⾃然災害や感染症まん延などにより、事業やサービスを⽌めてしまうことのないよう、企業はBCPの策定が急務とされています。
企業のBCP策定の現状について、帝国データバンクの「事業継続計画(BCP)に対する企業の意識調査(2024年)」によると、BCPを「策定している」企業は約2割と過去最⾼で、「策定意向あり」と回答した企業を含めると半数でした。策定する企業が増えた⼀⽅、「策定していない」「分からない」と回答した企業も半数あり、BCPに関する意識はまだ⼗分ではないという状況です。
⾃然災害に限らず、さまざまなリスクがある昨今、企業のBCP策定は重要課題といってよいでしょう。

国や⾃治体もBCP策定を⽀援  有効に機能させるポイントとは

 BCPを策定し、機能させるうえで留意すべき点について簡単にご紹介します。まず、⾃社の「重要業務・優先すべき業務」を
確認しましょう。これを「中核事業」といいます。
いくら事業継続が重要といっても、災害の程度によってはサービスの提供ができなくなる場合があります。⼀般的に、災害が発⽣した際のライフラインの復旧には48〜72時間かかるといわれています。その間は従業員の出勤もむずかしくなるでしょう。中核事業のうち「何が重要」で「何を優先すべき」なのか優先順位をつけ、どこに限られたリソースを割くべきか、あらかじめ決めておくことが⼤切です。また、各業務の「⽬標復旧時間」を設定し、その時間までに中核事業の機能不全状態を解消できるよう、リソースを復旧業務に割り当てるようにしましょう。さらに、代替策の確保も重要です。たとえば、製造業であれば部品の調達先や⽣産拠点を複数確保しておくなどの対策が考えられます。そして、顧客と緊急時におけるサービス提供レベルを、あらかじめ決めておくとよいでしょう。このように対策しておくことで、リスクを軽減する可能性は⾼まります。
 

 BCPの策定に関して、国や⾃治体による各種⽀援制度があります。中⼩企業庁の「事業継続⼒強化計画認定制度」で認定を受けた企業は、税制措置や⾦融⽀援などの⽀援が受けられます。また、東京都などの⾃治体ではBCP実践促進助成⾦も受け付けています。商⼯会議所でも、BCP策定セミナーを開催するなどの⽀援を⾏なっています。
不測の事態が起きても困ることのないよう、未対応の企業はBCP策定に着⼿してみましょう。

個人事業主であれば、毎年1月1日から12月31日までの所得を計算し、翌年の2月16日から3月15日までの間に確定申告を行う必要があります。
しかし、確定申告は手間がかかるため、後回しになってしまいがちです。
もし、手が回らないのであれば、税理士に確定申告を依頼するという方法もあります。
今回は、税理士に確定申告を代行してもらう際に知っておきたいことを説明します。

税理士に確定申告を依頼するメリット
 確定申告とはその年の1月1日から12月31日までの所得と、その所得から生じる税金を計算して確定させる手続きのことです。
自営業者やフリーランスなど、個人事業主の多くは自分で確定申告を行いますが、準備から確定申告書の作成、税務署への提出までには、かなりの時間と労力を割かなければいけません。
また、期限までに申告しないと無申告加算税や延滞税が課せられる場合もあります。
もし、本業が手一杯で期限までに確定申告をすることがむずかしいのであれば、税理士に確定申告の代行を依頼することも検討してみましょう。

税理士は税理士法で定められた国家資格を持つ税の専門家です。
納税する人に代わって「税務代理」や「税務書類の作成」を行なったり、「税務相談」を受けたりすることができ、これらの業務は税理士の独占業務のため、税理士の資格を所有していない人がこういった業務を請け負ってはいけないことになっています。
したがって、個人事業主が確定申告を依頼する際も、必然的に税理士に依頼することになります。

税理士に確定申告を代行してもらう一番のメリットは、時間と労力を節約できるという点です。
ある調査では、個人が確定申告の作業を行なった場合、平均して、12時間以上かかるというデータもあります。
1日2時間ずつ作業をしてもトータルで6日はかかることになり、この期間は本業が滞ってしまうことにもなりかねません。
確定申告を税理士に任せることで、本業に専念できるのは大きな利点です。

また、正確な内容で確定申告ができるというのも税理士に依頼するメリットの一つです。
もし、申告内容に誤りがあると、税務署から指摘やペナルティを受ける可能性があります。
税理士が税に関する専門知識に基づいて確定申告書を作成することで、申告のミスや間違いなどが発生せずに済むでしょう。
さらに、税務署に提出する確定申告書に税理士の署名があれば、信頼性が高まり、税務調査が入る可能性を軽減させる効果が期待できます。

確定申告を依頼するタイミング
 事業内容や売上などによって、税理士に確定申告を依頼するタイミングはさまざまです。
たとえば、個人事業主が法人成りするタイミングは、税理士に依頼するよい機会です。
法人成りする場合、その年度の個人事業主だった期間の事業所得について確定申告をする必要があります。
税理士に依頼することで、法人に切り替わるタイミングにおける、煩雑な確定申告の手続きにかかる手間を軽減できます。

また、売上が伸びてきており、本業に集中したい場合は、確定申告の代行も含めた顧問契約を税理士と結ぶという選択肢もあります。
事業規模が小さく年間の売上が低ければ、税務業務もそこまで手間ではありませんが、一定以上の額を超えると、領収書の枚数や会計や税務に関する作業も増えていきます。

一定の費用はかかるものの、確定申告を税理士に依頼することで、時間や労力を節約でき、正確な申告を行うことが可能です。
確定申告は年度により期間が変わることがあり、2025年は2月17日(月)から3月17日(月)までに行う必要があります。
期限に遅れることのないよう、準備を進めていきましょう。


※本記事の記載内容は、2024年12月現在の法令・情報等に基づいています。

労働基準法では、使用者は、労働時間が一定時間を超える労働者に対して休憩時間を与えなければならないと定めています。
この休憩時間は、従業員が完全に労働から離れて、心身の疲れを回復させるためのものなので、基本的には従業員の自由にさせなければいけません。
これを「自由利用の原則」といいます。
では、従業員が休憩時間中に外出する場合も、自由利用の原則が当てはまるのでしょうか。
休憩時間の自由利用に関する考え方について説明します。

休憩時間は労働から離れる時間
   従業員の労働時間が6時間を超え8時間以下の場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は、少なくとも1時間の休憩時間を労働時間の途中に与える必要があります。
この休憩時間中は、警察官や消防官などの特殊な職種を除き、基本的にはどんな仕事であっても、労働から離れて、自由でなければいけません。
労働から離れるとは、使用者の指揮命令下から完全に離れるという意味でもあります。

解釈を巡ってよく問題になるのが、休憩時間中の「電話番」です。
たとえ、電話がかかってこなかったとしても電話のために待機している状態は、使用者の指揮命令下から完全に離れているとはいえず、休憩時間には該当せず、労働時間に該当すると考えられています。
従業員が電話番をしていた時間は労働時間として賃金が発生しますし、別で休憩時間を与える必要もあります。
電話番や店番など、業務に従事していないものの、もし何かあればすぐに対応しなければならない「待機時間」や「手持ち時間」は、基本的に労働時間として扱われるので注意してください。
当然、休憩時間中の顧客対応も労働時間に含まれます。

一方で、「自由利用の原則」があるからといって、従業員は休憩時間中に何をしてもいいというわけではありません。
休憩時間は、あくまで休憩が目的であり、疲労や集中力の低下などによって引き起こされる労働災害を防ぐという意味合いがあります。
したがって、飲酒や過度な運動などは休憩にはそぐわない行為ですし、職場の規律を乱したり、ほかの従業員の休憩を妨害したりする行為も認められるものではありません。
このような管理上および社会通念上問題となる行為を禁じる目的であれば、休憩時間の過ごし方について、使用者が一定の制限を加えることもできます。

休憩中の外出を制限するのはむずかしい?
  では、休憩時間中の外出については、どのように考えればいいのでしょうか。
基本的に自由利用の原則があるため、従業員が休憩時間中に外出したとしても、使用者がこれを禁じることはできません。
ただし、休憩時間といっても、使用者の拘束下にあるため、一定の要件のもと外出を制限したとしても、ただちに労働法違反になるわけではありません。

事業所のなかにしっかりと休憩できる施設が整っており、さらに合理的な理由があれば、従業員の外出について、最小限の制限を加えることが認められています。
合理的な理由は、事業場の規律を保持するうえで必要とされるものに限られ、「外出されてしまうと事業所に人がいなくなり、来客の対応ができない」などの理由で外出を禁じている場合は、労働法違反となります。
合理的な理由は、あくまで業務以外の理由でなければいけません。

また、外出を許可制にしたとしても、合理的な理由がなければ不許可にすることはむずかしいでしょう。
どうしても外出に制限を加えたければ、合理的な理由があることは前提のうえで、許可制ではなく「届出制」にして、従業員が外出する際は上長の承認を受けるようにするのが現実的です。

基本的には外出自体に厳しい制限を課すことはできませんが、就業時間に間に合わないほどの遠出や、ギャンブル施設への立入り、宗教の勧誘や政治活動、ビラ配布や物品の販売などは、事業場の規律を保持する目的で禁じることができます。
また、原則として、従業員は休憩後すぐに業務が始められる状態にしておかなければいけません。

外出して職場から離れて過ごすことは、気分転換やリフレッシュになりますし、仕事の効率アップも期待できます。
買い物や役所での用事を休憩時間中に済ませたいという従業員の要望もあるでしょう。
たとえ合理的な理由があったとしても、外出の制限には慎重にならなければいけません。
労働基準法違反とならないよう、本当に外出制限が必要なのか、必要であるのならばなぜ必要なのかをはっきりとさせ、ルールを運用していきましょう。


※本記事の記載内容は、2024年11月現在の法令・情報等に基づいています。

   職場環境は従業員の働きやすさに直結するものであり、快適に働けるように整備することは事業者の責務でもあります。
オフィスの温度やトイレの数、従業員が作業する際の手元の明るさなどは、労働安全衛生法に基づく労働衛生基準によって定められており、2021年の法改正によって、これらの基準の一部が見直されました。
もし、自社の職場が基準に適応していない場合は、労働安全衛生法違反となる可能性があるため、速やかに改善しなければいけません。
従来の基準から変わった点や、事業者が気を配らなければいけないポイントなどについて説明します。

職場環境整備のため事務所則と安衛則が改正
   職場環境についてのさまざまな基準を定めた労働衛生基準は、社会状況や働き方の変化などによって、これまで改正が繰り返されてきました。
2021年12月1日にも働きやすい環境整備への関心の高まりなどを受け、労働安全衛生法に基づく「事務所衛生基準規則及び労働安全衛生規則の一部を改正する省令」が公布され、一部を除き同日より施行されました。
『事務所衛生基準規則(事務所則)』とは、事務作業などを行う事務所についての衛生基準を定めた規則で、『労働安全衛生規則(安衛則)』は工場や建設現場なども含めたすべての事業場の衛生基準を定めた規則です。

改正によって衛生基準の見直しが行われた主な項目は『温度』『照度』『トイレ』『休養室・休養所』です。
それぞれ確認していきましょう。

まず温度について、これまでは空調設備がある事務所の室温は「17度以上28度以下」になるように努めなければいけませんでしたが、今回の改正によってこの努力目標値が「18度以上28度以下」に見直されました。
人は気温が低いと血圧が上昇しやすくなります。
WHO(世界保健機関)は高齢者への血圧上昇の影響を考慮して、室温のガイドラインにて低温側の基準を18度としており、改正はこれに倣ったかたちとなります。

また、冬場はもちろんですが、熱中症の危険がある夏場も事務所の室温には気を配らなければいけません。
注意したいのは、努力目標値はあくまで室温について定めた温度であり、エアコンなどの設定温度ではないということです。
夏場はエアコンの温度を28度に設定していても、室温が28度以下にまで下がらないことがあります。
温湿度計を設置するなどして適時、室温を計測しながら、換気や温度調整などを行うようにしましょう。

ちなみに、建築現場などの多量の発汗を伴う作業場では、塩や飲料水を備えるように衛生基準で定められていますが、塩については、塩飴や塩タブレットなどのほか、スポーツドリンクなどの飲料水に含まれる塩分も該当することが、今回の改正で明示されました。

照度やトイレの基準も見直しが行われた
  改正によって事務所における照度の基準にも変更がありました。
照度とは、光が当たる面の光量を示す単位のことで、ルクスで表します。
これまでは、作業の内容ごとに3つの区分で照度基準が決められていましたが、改正後は2つの区分となり、読み書きが必要な「一般的な事務作業」については300ルクス以上、資料の袋詰めなど、事務作業のうち、文字を読み込んだり資料を細かく識別したりする必要のない「付随的な事務作業」については150ルクス以上と定められました。
照度が不足すると眼精疲労が生じやすくなりますし、前かがみになるといった不自然な姿勢を取り続けることにもなり、健康障害が生じやすくなります。
特に高齢の労働者が増えている昨今では、健康を守る観点からも適切な照度を保つことが重要になります。

トイレに関しては、改正によって「独立個室型の便所」が法令で定義されました。
独立個室型とは、隙間なく四方を壁で囲われていて内側から施錠できるトイレのことです。
衛生基準では原則として、男性用と女性用のトイレの設置を義務づけていますが、たとえば集合住宅の一室などをオフィスとしている場合などは、トイレが一つしかないこともあります。
改正では、こうしたケースに対応するために、同時に就業する労働者が常時10人以内の事業所においては、男性用と女性用に区別しなくても、例外として独立個室型の便所があれば、基準を満たしていることとしました。
ただし、男女共用のトイレは風紀上の問題や従業員の心理的な負荷が発生する可能性があるため、あらかじめ使用についてのルールを決めておくようにしましょう。

休養室・休養所に関しては、常時50人以上または常時女性30人以上の労働者を使用する事業者に限り、男性用と女性用に区別して設ける必要があります。
専用の設備である必要はなく、ベッドや布団など、体調不良の従業員が一時的に横になって休める機能が備わっていれば、オフィスの空いている部屋などでも問題ありません。

ほかにも、更衣室やシャワー設備、一酸化炭素・二酸化炭素の測定、救急用具などについての基準が見直されています。
厚生労働省のホームページなどを参考にしながら、事業者や衛生管理の担当者は、衛生基準が守れているかどうかを確認しておきましょう。


※本記事の記載内容は、2024年10月現在の法令・情報等に基づいています。

 業務に支障をきたすような顧客による悪質なクレームのことを『カスタマーハラスメント(カスハラ)』と呼びます。カスハラ対策は事業者の責務であり、放置したままだとさまざまなリスクが起こり得ます。従業員を守るために知っておきたいカスハラ対策について解説します。

 

安全配慮義務違反にならないよう企業として対応方針を定めておく
 

 本来、顧客からのクレームは商品やサービス、接客などの向上に役立つものであり、それ自体が問題視されることではありません。しかし、それが妥当性のない不当な言いがかりだったり、従業員に精神的なストレスを与えるものだったりする場合は、カスハラに該当する可能性があります。たとえば、商品やサービスに問題がないのに顧客が理不尽にクレームをつける行為や、従業員や店への中傷や侮辱、暴言の言動などが該当します。
 労働契約法に基づき、事業者は従業員が安全に働けるように必要な配慮をする『安全配慮義務』を負っており、カスハラに関しても従業員を守るための適切な対応を取らなければいけません。もし、従業員が顧客からカスハラを受けたにもかかわらず、
適切な対応を行わなければ、安全配慮義務違反となり、カスハラの被害に遭った従業員から、損害賠償の請求を受ける可能性もあります。
 では、事業者はどのようなカスハラ対策を講じればよいのでしょうか。カスハラの判断基準は企業ごとに異なるため、まずは自社の基準を明確にして、対応の方針を決めておきましょう。JR東日本では、2024年4月にカスハラへの対応方針を定め、毅然
とした対応を行なうためのガイドラインを打ち出しています。また、同年6月には、大手航空会社の全日本空輸(ANA)と日本航空(JAL)が共同でカスハラへの対応方針を公表したことが報じられました。この対応方針では、脅威を感じさせる言動や暴行などの一般企業でも起こり得るカスハラのほかに、「業務スペースへの立ち入り」や「客室乗務員の盗撮」などもカスハラに該当する行為としてあげられています。

犯罪行為に該当するカスハラも  従業員のメンタル不調にも要注意

 カスハラにはケースによって法的な対応が必要になる場合もあります。たとえば、顧客が従業員に対して暴行を加えた場合は、刑法に定める暴行罪や傷害罪に問うことができますし、暴行によって業務が妨害された場合は威力業務妨害罪になります。ま
た、暴力を振るっていなくても、「殺すぞ」「殴るぞ」などの発言は危害を及ぼすことを示唆した脅迫罪に該当します。ほかにも、「謝礼として金を払え」などの発言は恐喝罪、「土下座しないと殴るぞ」などの発言は強要罪が成立する可能性があるので、すぐ警察に通報するようにしましょう。
 ただし、カスハラは現場で対応できるものだけとは限りません。明確な犯罪行為を除き、判断がむずかしいようであれば、社内相談窓口など関連する部署に情報共有を行い、適切な形で顧客に対応する必要があります。また、カスハラを受けた従業員の
ケアも重要です。カスハラは業務の支障や時間の浪費などのほか、健康不良や休職、パフォーマンスの低下といった従業員への影響が懸念されます。
特に顧客の対応がメインとなる部署では、定期的なストレスチェックを行うことが大切です。従業員にメンタルヘルス不調の兆候があれば、産業医やカウンセラーによるケアを行いましょう。
 厚生労働省の発表によれば、過去3年間にハラスメントの相談があった企業のうち、カスハラはパワハラ、セクハラに続いて割合が高く、増加傾向が予測されます。こうした事態を背景に、東京都では全国初となるカスハラ防止条例の制定を検討しています。全国的にカスハラに厳しい目が向けられるなか、事業者としても従業員を守るために、カスハラを行う顧客に毅然とした対応をしていきましょう。