第61回社会保障審議会介護保険部会 傍聴記録 | 労働組合ってなにするところ?

労働組合ってなにするところ?

2008年3月から2011年3月まで、労働組合専従として活動しました。
現在は現場に戻って医療労働者の端くれとして働きつつ、労働組合の活動も行なっています。

あまり知られていない労働組合の真の姿(!?)を伝えていきたいと思います。

まず、熊本、大分を中心とした地震の被害に遭われた皆さまにお見舞い申し上げます。

合わせて、避難不可能な状況下での原発災害を防ぐために、川内原発の運転停止を求める署名への賛同を呼び掛けます。

 

 

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そして、戦争法廃止に向けてたゆまず行動し、憲法に違反する政治を推し進めようとする策動を許さず、医療・介護を国の責任で充実させることを求め、最低生活基準を切り下げようとする動きに抵抗し、労働者のいのちと健康と働く権利を守り、東日本大震災の被災地の復旧・復興が住民の立場に立った形で1日も早く実現することを目指して、声を上げていくことを提起します。

 

 

8月19日、埼玉社会保障推進協議会の方のお誘いで、第61回社会保障審議会介護保険部会の傍聴に行って来ました。

今回のテーマは、「利用者負担」と「費用負担(総報酬割・調整交付金等)」でした。後者のテーマについては複雑でメモが取り切れなかったので、主に前者のテーマについて傍聴した内容をまとめます。

 

まず、厚生労働省の担当者による説明が行なわれました。

介護保険の利用者負担は、制度創設当初は一律1割でしたが、平成26年の介護保険法改正によって、一定以上の所得のある利用者の負担割合が2割に引き上げられ、平成27年8月に施行されました。理由は、保険料の上昇を抑え、現役世代に過度な負担を求めず、高齢者世代内における負担の公平化を図っていくためとされています。具体的な2割負担の対象者は、合計所得金額160万円以上(年金収入のみの場合は280万円以上)と設定されており、これは第1号被保険者全体の上位20%に該当するとのことでした。

なお、2割負担導入に当たっては、サービスの利用控えが起きることを懸念する意見も出されたそうですが、厚生労働省は直近のデータでは、2割負担実施後のサービスごとの受給者数をみると対前年同月比の傾向に顕著な差は見られないとしています。また、高額介護サービス費制度による自己負担限度額があるため、実質負担率は平均約7.7%、2割負担者となった者についても約12.6%に抑えられているそうです。

高額介護サービス費制度による自己負担限度額は、制度創設当初は医療保険と同じ額でしたが、医療費の限度額が一般の高齢者と現役並み所得の高齢者について44,400円となっているのに対して、介護保険の限度額は、現役並み所得者については44,400円となっているものの、一般の課税世帯については37,200円となっています。この限度額を医療と合わせるべきではないかということが検討課題として示されました。

平成26年改正においては、補足給付の見直しも行なわれました。介護保険三施設(特養、介護老人保健施設、介護療養型医療施設)及びショートステイに関して、自己負担である居住費と食費に関して低所得者を対象に補助が出されており、それを補足給付と呼びますが、その低所得者の基準の判定に世帯分離後の配偶者の所得も含まれることとなりました。具体的には、配偶者が課税されている場合は補足給付の対象外となりました。また、平成28年8月からの施行で、補足給付の支給段階の判定に当たり、非課税年金(遺族年金・障害年金)も勘案することとなりました。

更に、不動産を資産に勘案することについて、一定以上の宅地を保有している場合に捕捉給付の対象外とし、宅地を担保とした貸付を実施することができないかということが検討課題として示されました。株式会社野村総合研究所の調査では、補足給付の受給者について不動産の活用の対象となる者は、全国で約2600~7800人と推計され、必ずしも金融機関にとって魅力的とは言えない市場規模であり、また、補足給付の対象は低所得者なので、民間金融機関が資金を貸し付けたい層との間にギャップがあることが指摘されました。また、不動産の価値については地域差が大きく、全国的な制度とするのは難しいとの指摘もありました。

 

続いて、利用者負担についての意見が審議会の委員の方々から出されました。どなたの発言かわかる範囲で、概要をお伝えします。

全国市長会介護保険対策特別委員会委員長の大西氏は、介護保険が創設されて16年経ち、保険料は上がり、高齢者の負担も限界に近く、厳しい保険財政となっている中で、持続可能性を確保するためには国費の裏付けが必要だと指摘しました。消費税引き上げを延期されたこともあり、医療費とのバランスなど、丁寧な議論をすべきだと述べました。補足給付については、実務を行なう市町村は苦慮しており、預貯金情報を求めるだけでも苦情が出され、金融機関も慎重になっており、自治体の負担が大きいと指摘しました。不動産の活用については、実務的に円滑な実施が可能なのか疑問だと述べました。

公益社団法人日本医師会常任理事の鈴木氏は、介護サービスの需要増のため、利用者負担に幅をもたせる必要があると述べました。高額介護サービス費については、医療との整合性を図り、限度額を引き上げるべきだと述べました。補足給付については、要件見直しは妥当だと述べました。不動産の活用については、実施に向けて検討すべきだと述べました。

公益財団法人全国老人クラブ連合会常務理事の齊藤氏は、医療保険との整合性について、介護は長期化、重度化するという特徴があり、負担感が大きいことを指摘しました。利用控えについては、それが後の重度化をもたらし、在宅生活が難しくなるというデメリットがあると述べました。今後、新たな利用区分、負担引き上げを行なうことについては、余裕がある人は負担すべきだが、高齢の生活保護受給者の増加もあり、慎重であるべきだと述べました。高額介護サービス費の限度額引き上げについては、利用者の安心のための制度であり、医療と異なる介護の特徴から、慎重であるべきだと述べました。

上智大学総合人間科学部教授の栃本氏は、負担については、利用者、第1号被保険者、第2号被保険者のバランスを取り、いわば痛み分けにすべきだと述べました。資料によると、実質負担率は約8%弱、2割負担者については約12.6%とのことだが、高額介護サービス費制度が最も重要であり、ショックを緩和する制度であって、この部分を守りつつ、実質負担率を1割、2割負担者については2割になるように応分の負担を求めるべきだと述べました。リバースモーゲージについての分析は、メガバンク等について勝機があるかという視点だけのものであり、地域に根差した金融機関にとっては別だと指摘しました。また、ケアマネジメントについては利用者自己負担がなく、負担は不適切という意見もあるが、避けては通れないものであり、一定の負担をして「使っている」という実感を持ってもらう方がいいと述べました。

UAゼンセン日本介護クラフトユニオン会長の陶山氏は、平成26年改定による2割負担導入についての現場でのアンケートで、担当している利用者に2割負担になった方がいるのは約80数%であり、利用控えありが51.1%、利用控えなしは25%だったと述べました。また、利用者負担が2割となることを知らなかったのが11.2%、不安があるが37.6%、家族への説明に苦労したが10.1%、自治体の説明が不十分だが34%だったそうです。利用者負担の引き上げをやむをえないと考える人が51.1%、利用控えを懸念する人が18.6%だったそうです。そして、利用者負担は応能を原則とすべきであり、医療と介護の整合性については、介護は上限に張り付くことが多く、高齢者の暮らし向きも様々であり、生活困窮者への配慮が必要だと述べました。補足給付の見直しについては、問題が起こっており、特養待機者が減っているのは、利用者負担が倍になって退所する人が出たことが原因ではないかとの考えを示し、調査を求めました。こうした状況は「介護離職ゼロ」に逆行しており、一気に進めたことで苦労している家族も多いので、調査し、激変緩和措置などの適切な対処をすべきだと指摘しました。

慶應義塾大学経済学部教授の土居氏は、平成25年の取りまとめに関わったことから、ケアマネジメントの自己負担については議論すべきだと考えており、経済力のある人には適切な負担をしてもらうべきだが、利用者負担の引き上げはきめ細かく行なうべきだと述べました。補足給付については、いい仕組みであるが改善の余地があり、マイナンバーの活用で実務負担軽減が可能になるように、マイナンバーが預金に附番されるようになったら直ちに利用できるように、第7期から準備すべきであると指摘しました。不動産の活用については、リバースモーゲージを全国的に使えるようにする必要があり、資産の分布の偏りや不動産価値の地域差はあるが、それは仕組みにとっては障害ではなく、切り離して考えるべきだと述べました。固定資産税の情報を調べて、価値の高い資産を持っている人を調べるべきであり、課題は多いが、あきらめずに分析すべきだと述べました。

一般社団法人日本介護支援専門員協会会長の鷲見氏は、利用者負担は能力のある人に適切に負担してもらうべきであると述べました。2割負担者の多くは在宅であり、介護だけでなく医療費もかかっており、支出を減らすなどの相談を多く受けているそうです。説明するのはケアマネージャーで、シビアな状況にあるそうです。補足給付の見直しについては追跡調査が必要であると述べました。ケアマネジメントについては、介護サービスを利用することでそれぞれが自立を支援することが目的であり、適切に活用できるようにすべきだと述べました。そして、地域を熟知している職業として、行政と力を合わせて地域包括ケアを進めていきたいと述べました。

公益社団法人認知症の人と家族の会常任理事の花俣氏は、4月22日に要望書を提出して改定の撤回を求めていると述べました。利用者アンケートを実施し、重大な影響が生じていることが明らかになっており、更なる引き上げは受け入れがたいと述べました。アンケートでは、利用者負担が月5.4万円の負担増であり、貯金を取り崩しているが、親が施設に入っていることができなくなって引き取らなければならなくなるという事例があったそうです。また、月4万円の負担増を子どもが補てんしてくれているが、利用回数を減らしており、保険料も上がるのに納得がいかず、先行きが不安だという意見もあったそうです。今回の資料ではそうした実態が見えないので、もっと具体的な資料の提供を求めました。対前年比の伸び率に「顕著な差はない」と言うが、伸び率に差がなければ課題はないということにはならないと指摘しました。介護保険利用者622万人中2割負担者は約58万5000人だが、利用者の数ではなく、4サービス別の2割負担者の情報や、利用を減らしたり、中断したりした人がどれだけいるのかということを調べるべきだと述べました。認定者の負担能力を考えるべきであり、認定されても100万人が介護サービスを利用していないことが指摘されました。こうした実態を示すデータについては、事務局が次回以降に回答するということになりました。

次の発言者は、お名前がわからなかったのですが、高齢化を考えると一定以上の所得の利用者の2割負担はやむを得ないが、2割負担とは負担が2倍になるということであり、月5万円の負担だったのが10万円の負担になるのだから、慎重に議論すべきだと述べていました。不動産の活用については、農山村では売却できない不動産が多く、実行性が懸念されると述べました。

NPO法人高齢社会をよくする女性の会理事の井上氏は、利用者負担の医療と介護の整合性については、性格が異なるものなので違っていいはずだと述べ、違うことで弊害があるなら示してほしいと述べました。高齢化が進む中で、能力のある人は相応の負担をすべきだが、問題が起きていることは事実であり、マクロで見るだけでなく、ミクロの視点も必要だと指摘しました。

一般社団法人日本経済団体連合会常務理事の井上氏は、負担能力のある方については負担を見直すべきであり、医療と介護の整合性は重要な判断基準だと述べました。また、マイナンバーを使った資産把握の準備が必要であり、年金や成年後見人制度との情報交換を検討すべきだと述べました。

公益社団法人日本介護福祉士会会長の代理で出席した中野参考人は、質の高い介護サービスの提供を目指しており、必要な方が必要なサービスを受けられないことがないようにしなければならないと述べました。高額介護サービス費については、該当する方全員が申請している訳ではなく、老老介護世帯や一人暮らしの方など、一定数未申請があると指摘しました。更なる制度の周知が必要であり、介護福祉士会としても協力すると述べました。

健康保険組合連合会副会長の佐野氏は、介護保険の財源は国庫と保険料と利用者自己負担しかなく、負担感だけで議論すべきではないと述べました。保険料水準とセットで議論すべきであり、医療との整合性はポイントとなるとし、実質負担率約7.7%は低く、自己負担率引き上げは検討すべきだと指摘しました。補足給付の見直しについては、不正の是正を含めて周知すべきだと述べました。不動産の活用については、マイナンバーを見据えて検討課題とすべきだと述べました。

全国健康保険協会理事会の小林氏は、高額介護サービス費は当初は医療と同額であり、介護は医療より長期化するというが、医療とのバランス、現役世代とのバランスは検討すべきだと述べました。

全国知事会社会保障常任委員会の委員の代理で出席した小島参考人は、他の制度との均衡、世代間の公平を考えるべきであり、全ての分野を見直すべきで、ケアマネジメントの自己負担も検討すべきだと述べました。社会福祉法人と民間との差も解消すべきだと述べました。低所得者対策については、別途検討すべきだと述べました。

日本商工会議所社会保障専門委員会の委員の代理で出席した大井川参考人は、利用者負担についてはより多段階の設定があり得るとし、一律的引き上げが難しいなら、サービス別の負担割合もあり得ると述べました。要支援の負担割合を上げることなどもあり得ると述べました。また、実態把握が不十分であり、サービス利用の手控えや地域間格差の理由を示すデータを提供してほしいと求めました。医療負担との整合性は賛成であり、リバースモーゲージについては世界的基準に合わせるべきであり、地域格差は別問題であると述べました。

一般社団法人日本慢性期医療協会会長の武久氏は、介護保険を持続可能とするために、医療と介護のトータルの高額上限を考えるべきではないかと指摘しました。ケアマネジメントの自己負担導入については、公平中立の阻害要因になるのではないかと指摘しました。

日本労働組合総連合会総合政策局生活福祉局長の伊藤氏は、介護保険は仕事と介護の両立に欠かせないものであり、消費税引き上げの延期が特定の人にしわ寄せすることにしてはならないと述べました。高額介護サービス費については、介護と医療には違いがあり、家計への影響から検討すべきだと述べ、医療の高額療養費限度額引き上げの影響も含めて、会計ベースで検討できる資料の提供を求めました。補足給付の見直しについては、実務の負担が大きく、確認資料も増大しており、国民の不信感も募り、公平性確保が困難になっていると指摘し、今回の見直しの検証が先であり、更なる拡大は時期尚早だと述べました。リバースモーゲージについては、課題はあるが、検討を進めるべきだと述べました。

公益社団法人全国老人保健施設協会会長の東氏は、補足給付の見直しについては実務負担が大きいという声があり、制度そのものが疲労していると述べました。そして、補足給付は経過措置だったはずであり、介護保険の外で低所得者対策をすべきだと述べました。

公益社団法人全国老人福祉施設協議会介護保険事業等経営委員会委員長の桝田氏は、補足給付を介護保険から外してどういう形にするか考えるべきだとの意見があるが、生活保護に持って行くと更に使いにくくなり、費用対効果を考えると介護保険に残すべきだと述べました。医療と介護は、別々に見るべきこととトータルで考えるべきことがあり、高額限度額制度についてはトータルで考えるべきではないかと述べました。高額限度額制度がしっかりしていないとサービスが使えなくなるとも指摘しました。不動産の活用については、しなければならないが、今可能なのか疑問であり、実現する道筋をつくるべきだと述べました。

公益社団法人日本医師会常任理事の鈴木氏は、医療も長期化しているので整合性は図るべきだと述べました。

上智大学総合人間科学部教授の栃本氏は、リバースモーゲージについて、フローは小さく見えるが資産を持っている人についての制度であり、もともと資産のない人には適用できないと指摘しました。そもそも、預貯金や資産を活用したうえで制度を利用すべきであり、低所得者対策とごっちゃになっていると述べました。ケアマネジメントの自己負担については議論すべきであり、ケアマネージャーは家族と協力してよいサービスを提供すべきであり、ケアマネジメントにも費用がかかっていると理解されるべきだと述べました。

民間介護事業推進委員会代表委員の馬袋氏は、医療と介護は生活者から見れば一体のものであり、トータルで考えた方がわかりやすいと述べました。また、応能負担であるべきだが、2割負担となった人から徴収するのは事業者であり、十分な説明が必要で、客観的な説明ができるような配慮を求めました。リバースモーゲージについては、相続の問題も絡むので、継続した検討をすべきだと述べました。

 

この後、介護保険料の総報酬割や保険者の調整交付金についても議論がされましたが、私の能力を超えているので割愛させていただきます。

 

今回、メモを取っている時は確認できなかった発言者の所属団体も確認しながらまとめましたが、やはり背負っている所属団体を反映した意見が多いと感じました。

以上で報告を終わります。