透光性=translucentとは限らない | 特許翻訳 A to Z

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1992年5月から、フリーランスで特許翻訳者をしています。

物質が光を通すことを示す、「透光性」。
この透光性を辞書で調べると、translucent という英訳語が出てくることが多いです。
そして文脈によっては正しい訳語で、そのまま使えます。

ただ、「透光性」が具体的に示す内容によっては、不適切な訳語になってしまうことも。

一例をあげると、特許庁発行の『意匠登録出願の願書及び図面等の記載の手引き』に、次のような説明があります。

 

①「透明」とは、一般に、光が通過する物質の性質において、透過率が極めて高く、物質を通してその向こう側が透けて見える状態の性質を指しますが、「透明」という性質は物品の構成においては「材質」ということになります。
「透明」は「材質」であり、形状でも模様でも色彩でもありませんが、意匠法においては制定当初から、「透明」を意匠の構成要素として予定しており、「物品の全部または一部が透明である」とき、その旨を願書の【意匠の説明】の欄に記載しなければならないと規定しています(意 6 条 7 項)。

②意匠出願において「透光性を有する」とは、「透明」と同様に光が透過する性質を有していますが、透過する光が拡散されるため、又は透過率が低いために、「透明」と違ってその材質を通して向こう側の形状等を明確に認識できない、又はまったく認識できない状態の性質を指します。磨りガラスや乳白色プラスティック等の材質の場合がそれに当たります。
そして、内部の光源などの光をその部分が透すことを説明しないと照明器具であることが理解できない等、材質の説明がないと物品が理解できない場合等には、「透光性を有する」旨を、願書の【意匠の説明】の欄に記載する必要があります。 

『意匠登録出願の願書及び図面等の記載の手引き』 p.68


この「透光性」は「透明(transparent)」を含まず、半透明(translucent)と不透明(opaque)を含みます。
 

加熱収縮性樹脂フィルムとしては、透光性(透明)のものを用いる。
  特開2017-187561

上記透光性材料としては、アクリル系樹脂やシリコーン系樹脂、エポキシ樹脂のような透光性(透明)樹脂、ガラス材料を挙げることができる。  
  特開2016-012605

 

こちらは、「透光性(透明)」とありますね。

カッコの意味が「透光性(すなわち透明)」なのか「透光性(たとえば透明)」なのかはっきりしませんが、少なくとも透明なものが入るのは間違いないでしょう。

このように、「透光性」という語は、意外と幅広く使われています。

translucentだと断定できる場合を除いて、translucentとは訳しにくい例のほうが多いかもしれません。
だからといって、transparent, translucent and/or opaque と並べて訳すのも、良し悪しです。

 



こういうときは、「transparent to ~」という表現があります。

もう20年近く前だと思いますが、この言い回しに初めて出会ったときは、感動しました(笑)。
一例として、物理の教科書から一部を抜粋します。

 

 

Of course it is possible to have partial transmission, reflection, and absorption.  We normally associate these properties with visible light, but they do apply to all electromagnetic waves.  What is not obvious is that something that is transparent to light may be opaque at other frequencies.  For example, ordinary glass is transparent to visible light but largely opaque to ultraviolet radiation.  Human skin is opaque to visible light--we cannot see through people--but transparent to X-rays.
  College Physics Textbook Equity Edition Volume 2 of 3:  p. 865

Oxygen and nitrogen, the two principal components of our atmosphere, are transparent to light and to most infrared (IR) and ultraviolet (UV) wavelengths.
  The Handy Physics Answer Book  p.196
 

 

見た目が不透明(opaque)であっても、光を通すなら transparent to light。
見た目が透明(transparent)であっても、たとえば紫外線を通さなければ、opaque to UV。

酸素と窒素も、transparent to light and to most infrared (IR) and ultraviolet (UV) wavelengths.ですね。

 


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